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生まれ変わったら天才少年? 〜いいえ、中身は普通のオバサンなんで過度な期待は困ります  作者: 藤村 紫貴
第三章

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第百五話 その意味、わかりかねるのです。


 無事サキアス叔父さんとヘンリーの魔改造初号機は完成、丁度翌日様子を見にやってきたリディに陛下への報告をお願いした。

 

 王都で開かれるフィアの誕生日パーティだが、魔王様(わたし)がデンッと会場に居座っていては貴族の方々も落ち着かないだろうといつものように遅めの陛下の御言葉が始まる少し前くらいの入場を狙って出発。イシュカとシュゼット、私に加えて今回はレインも一緒。城の門を潜り、会場のホールに向かうと、そこには既に大勢の人で賑わっていたが私が扉を潜ると衆人の視線が一気にこちらに向いた。

 

 何? この反応。

 いやまあ私が遠巻きに眺められるのも、ヒソヒソと噂話に晒されるのも、歩くとモーゼの十戒のように人混みが割れるのもいつものことだけど。いつもにもまして視線が痛いし数が多い。

 私、何かやったかな?

 いや、何かやっているのは間違いないが。

 めでたくマイエンツ御一行様を(ムショ)送り、もしくは国外追放にして以降半、そんなに派手なことはやっていないハズ、なのだけれど。

 商会内の様々な企画やイベント、開発は順調に進んでいますが私達の商売相手は平民、お貴族様方にはほぼ関係ないことで、いつもなら君主危うきに近寄らず、触らぬ神に祟りなしとばかりにチラリと目を向けたその後は、関わりたくないとばかりに視線を逸らされていたはずなのに今日は歩く後を視線が付いてくる。毎度の如く極力私を煙たがっている王都の貴族達と関わりたくない私はいそいそと毎度の如く壁の隅に陣取ったのだが視線は向けられたまま。


「ねえ、シュゼット」

 別に関わるつもりのない貴族の方々になんと思われようと痛くも痒くもないのだが気になるものは気になる。

 視線の意味さえわかればどうということもないのだが。

「なんでしょう?」

 ウチの社交界での対応は主に領主代行のシュゼットのお仕事。

 この理由を知っているのではなかろうか。

「いつもと向けられる視線が違う気がするんだけど」

「でしょうね」

 尋ねた私の言葉にアッサリとそんな言葉が返ってきた。

「何か知ってるの?」

「王都で広がっている噂でしたら」

「それって私に関係あること?」

 シュゼットは静かに頷いた。

 ですよね?

 だって刺さる視線がすごく痛いもの。

 別に嫌いな相手にどう噂されたところで気にも止めないのだが、だからといって妙な注目を集めたまま眺め回されるのは趣味ではない。好きな人にならずっと見られてたって構わない。むしろ嬉しいし、テレるけど、この理由のわからない好奇の目はかなり居心地が悪い。怖がられている方がまだマシだ。

 気になる私にシュゼットが口を開く。

「はい、それは勿論で御座いますよ。ここ数ヶ月の間に社交界でまことしやかに広がっている話なのですが・・・」

 会話の途中で会場に流れていた生演奏がピタリと止まる。

 それと同時に騒めきもかき消え、静寂が支配する。

「あっ、国王陛下とフィガロスティア殿下がおでましになったようです。

 この話は後にしましょう」

 シュゼットが会話を中断する。

 そう、王族の方々の御入場の合図だ。

 陛下の両横に正妃マリアンヌ様とライナレース様、そしてその後ろにフィアやミーシャ様、そしてミゲルが続く。直系の王族が出揃ったところでその両脇に宰相や各大臣、国の重鎮達が並ぶ。なかなかに壮観である。

 やはり王族というのは醸し出すオーラが庶民と違う。

 どちらかといえば庶民寄りの私には到底出せない威厳だ。

 ミゲルもああして王子様然としているといつもよりキラキラ度二百パーセント増しに見えるのがスゴイ。ウチで仕事をしている時も人目を引く存在感はあるけれど眩い類いのものではない。やはりこういうのは生まれというものがものを言うのだろうか、私には到底出せそうにない品の良さである。

 陛下の御言葉が終わり、フィアの自分の誕生日を祝う御来場の賓客達への御礼の挨拶も済み、各大臣方々の短い御挨拶が始まるとボソボソと少しずつ会話が漏れ始める。そんな貴族達の視線の幾つかがやはり壇上に立つ陛下達と私を行き来しているように感じるのは気のせいではないだろう。


「・・・やっぱり、見られてるよね、私」

 これは決して自意識過剰などではないハズだ。

 ボソリと漏らした私の声にシュゼットが得意げに微笑う。

「貴方はいつも注目の的ですから」

 いやいやいや、そういうおためごかし的な文言はいいからこの視線の意味を教えてほしい。それとも私が悪目立ちするのはいつものことだろうと遠回しに言われているのだろうか? 

 私が眉を顰めるのを見てシュゼットが小声で付け加える。

「とはいえ今回はいつもとは少し事情も違います」

「どういうこと?」

 小さな声で聞き返すとシュゼットが小さく笑う。

「それは皆様のお話が終わるまでお待ちくださいませ」

 ボソボソと話すのは構わないのに何故だろう。

 首を傾げるとシュゼットが耳元で囁くように言う。

「おそらくそれを口にするとハルト様が驚かれて大きな声を上げるかと」

 自他共に認める図太く鋼鉄製とも名高い毛の生えた心臓の私が驚いて声を上げるって、いったいどれほど重大事なのだろう。

「そんなに変わったことなの?」

「いえ、変わっていると言うほどではないのですが」

 なのに私が叫ぶほど吃驚することなの?

 よくわからない。

 まあいいや。変わってるほどではないということであれば緊急を要するような事態でもないはずだ。第一、そういう事態であればシュゼットだって落ち着いていないだろうし、事前に私の耳に入るはず。ならばわざわざ急がせて聞き出すほどではない。後ほんの少しの時間が待てないとゴネるまでもない。

 しかしながらその噂話に身に覚えはないのだが。

 魔王と恐れられるのはいつものことだし、最近は多少の妨害はあってもチョッカイかけてくる貴族も一時期に比べると随分減ってきた。なので反撃するほどのものもなく、忙しいなりにも平和だと思っていたのだが私の思い違いだったとか?

 イシュカもレインも動じていないから物騒な類のものでもないはずだ。

 お偉いさん達の話の内容も最奥に近いこの壁際の場所ではろくに聞こえないけれど問題もない。終わればいつものように閣下達がやって来て教えてくれる。そう思って呑気に構えていると話が終わったのか会場に拍手が沸いて人が動き始める。

 ならば話の続きをとシュゼットを振り返ると閣下達と顔馴染みの地方領主のみなさんが私目掛けて足早にやって来るのが見えた。

 シュゼットの話は気になるが彼等を後回しにするわけにもいくまい。

 私はニコニコと笑顔を作って迎える。

 格上優先の身分差というものがあるので地方領主は閣下達の姿を認めて途中で足を止めた。


「ハルト、久方ぶりだな」

「お前は相変わらずこんな奥に引っ込んでいるのか」

 閣下と辺境伯に声をかけられ、私は挨拶を交わす。

「はい、御無沙汰しております。御二人も相変わらず御健勝のようで何よりです」

 ムサ苦しいまでに立派な体躯と暑苦しいこの雰囲気。

 この二人の周りの温度が五度くらい上がった気がするのは気のせいだろうか。彼等の筋肉が消費するカロリーが周囲の空気を温めているのだろう。筋肉の壁で風も通りにくいし、あんまり距離を詰めないで頂きたい。

 そう言いたいのは山々だが邪険にするわけにもいかず、フイッと逸らした視線の先に私の憧れのその人の姿を見つけて一気にテンションが上がる。 

「ミレーヌ様も相変わらず麗しく、年を追うごとに深みを増した艶やかな美しさに私は思わず息を呑んで見惚れてしまいましたっ」

 やはり見るなら筋肉マッチョのムサ苦しい男よりも美しい御婦人だろう。この嫌味のない色気と美貌は尊敬に値する。聡明さを感じるこの凛とした雰囲気はすごく素敵だと思うのだ。

 前のめりで挨拶する私にミレーヌ様がコロコロと微笑う。

「貴方も相変わらずお上手ね。でも嬉しいわ、ありがとう」

「礼を言うべきは私の方です。こうしてミレーヌ様と再びお話しをする機会に恵まれ光栄の至りで御座います。是非今度御主人と一緒に私共の屋敷に遊びにいらして下さい。前もってご連絡下さればとっておきの新作のスイーツを用意してお待ちしております」

 腕によりをかけて私自ら、いや、ロイが作った方が美味しいか。

 とにかく大歓迎致します。

 きっと私の目はキラキラと輝いているに違いない。

 御機嫌で話し掛ける私にミレーヌ様が微笑う。

「まあ嬉しいこと。今度お邪魔させて頂くわ」

「首を長くしてお待ちしておりますっ」

 ああ、今から楽しみだ。ミレーヌ様との御茶会。

 何を作ってお待ちしよう。

 私が期待に胸を膨らませていると辺境伯の溜め息が聞こえた。

「其方、変わらんな。ワシとミレーヌで随分と対応が違うではないか」

 そりゃあ勿論。

 私は筋肉ゴリラよりも聡明で艶やかな御婦人を見ている方が好きだ。

 だって目の保養になるもの。

「ならば辺境伯にお伺いします。美しい自分好みの女性と逞しくも暑苦しい男、どちらに囲まれる方が嬉しいですか?」

 こう問われれば何も言えなくなるはずだ。

 案の定聞かれるまでも無いといった様子で辺境伯が答える。

「そりゃあ当然決まっているだろう」

「ですよね。ならば私のこの対応も理解できるのでは?」

 したり顔でそう言うと辺境伯がぐぬぬぬぬっと顔を顰める。

「確かにミレーヌはワシの自慢の妻だ。だが、其方、そんなだから熟女好きだと影で言われるのだぞ?」

 呆れ顔で辺境伯に言われて私は即座に反論する。

「失礼なっ、違いますよっ」

 そんなはずないでしょうっ!

「違うのか?」

 ミレーヌ様を自慢の妻と称している辺境伯に悪気はない、悪気はないんだろうけれど。

 私は小さくコホンッと咳をして、『いいですか?』と辺境伯に向き直る。


「まず二点に於いて大きく違っています。

 一点目、ミレーヌ様は熟女などではなく出会った頃と変わらぬ美しさを持つ素敵な女性であること。女性は年を忘れて生きるものです。その失礼な言葉、訂正して頂きたいっ」

 キッと辺境伯を見上げて私は説教をタレると私の迫力にたじろいで足を引く。

 咲き誇る薔薇のように美しい方になんてことを言うのだっ!

 辺境伯には勿体ないくらいなんだからもっと大切にしなさいよっ!

 そのうち三行半を突き付けられても知りませんよ。

「もう一つは私は女性なら、聡明、博識でありながら色気のある御方や凛とした空気を纏った勇ましくも勝気な御方が好きなんです。ミレーヌ様がたまたま年上なだけで年齢は関係ありません。

 私は後ろではなく横に並んで、時には前に出て引っ張ってくれるような女性が理想なんです。私は少々抜けたところも御座いますからそのくらいでないと」

 力説する私に閣下が呆れたように言う。

「其方、かなり変わった趣味をしているな。そういう女は其方を尻に敷くぞ?」

 そうですね、閣下の奥様のへレーネ様とは真逆のタイプ。

 貴族の男性の方々は夫を立て、淑やかで美しく、自分の一歩後ろを歩くような前世でいうところの、ひと昔どころかふた昔以上前の大和撫子タイプがお好みなんですものね。

 ですが私は違います。

 私は男にも負けない、カッコイイ女性が好きなんです。

 変わり者? 

 尻に敷かれる?

 上等じゃない。それってつまり・・・

「ならば幸運ですね。私の理想とする方は他の方と好みが被らないということですから私の恋敵(ライバル)は少なくなります。私好みの美しい方の尻の下であれば私は喜んで敷かれます」

 それはラッキーってことでしょう?

 恋敵なんてものは少ない方が良いに決まっている。

「女を娶るつもりがあるのか?」

 閣下に尋ねられて否定する。

「今のところありません。私には既に素晴らしい婚約者が大勢いますから。あくまでも好みの話です。強くて、勇ましくて聡明。おまけに仕事も出来るという私には勿体無いほどの最高の婚約者達ですから」

 少女漫画もかくやという理想の人達が私と結婚してくれるっていうのに、これ以上の贅沢なんて言いませんよ。既に身の程知らずなんだから。

「勿論、翳ることのない清楚な美しさを保つヘレーネ様も魅力的です。

 閣下に言わせると私の好みは『大層変わっている』らしいのですが、へレーネ様がその変わった趣味に該当していないというだけの話で御座います。美しい御婦人はそこにいてくださるだけでもその場が華やぎます。

 是非閣下と共に遊びに来て下さいね。新商品もたくさん用意しておきますので思い切り閣下に散財させて下さいませ」

 へレーネ様が伺うように見上げると閣下が大きく頷いた。

 そしておずおずと尋ねてくる。

「私も本当にお邪魔してもよろしいの?」

「ヘレーネ様は私の未来の御義母上(おははうえ)ですよ。当然です」

 御遠慮なさる必要がどこに御座いますか?

 前もって連絡を頂ければ御迎えの準備も致します。なにぶんにも男所帯なので閣下と一緒の方がよろしいかもしれませんけれど。

 明るい顔になったへレーネ様の肩を閣下が抱く。

「では今度私も妻とお邪魔させて頂こう」

 私はにっこりと笑って頷く。

「はい、お待ちしております。閣下達を驚かせるものも用意しておりますので是非楽しみにして・・・」

「其方、また何か新しい変わったものを作ったのかっ」

 私の言葉が全て言い終わらない内に閣下と辺境伯の顔が唾が掛かるほどに近付き、イシュカが後ろに引っ張って離してくれる。

 相変わらずすごい食い付きだなあ。

 でも出来ればもう少し穏やかに話をして頂きたいのだが。周囲の注目を集めてしまっているではないか。

 それに気が付いて二人は姿勢を正す。

 ここで慌てて焦らないのが上流貴族ということだろう。

 私は苦笑して小声で話し出す。


「そうですね。元になるものはテスラと私で。

 現在サキアスとヘンリーが改造済みです。かなり大きい物ですし、お売り出来る代物では御座いませんが」

「いつならいいっ⁉︎」

 目こそランランと輝いているものの声を潜めている。

 何せ私のところの新商品、新開発は機密事項も多いですからね、そうでなくては困ります。

 そんなに慌てなくても、と、言いかけて引っ込める。

 こういう時のこんな二人には何を言っても無駄だと私はよく知っている。

 明日は昼までゆっくりするつもりだし、テスト飛行済みの二号機は昨日陛下のところに納品したが、サキアス叔父さん達の説明は明後日。二人に任せて私は帰るとは行かないのがあの変人天才研究者の面倒なところで、しっかり見張るのも仕事の内。

 もう隠す必要もないのでウチの屋敷の中庭では明日の夕方にテスラが気球を無人で上げてくれることになっている。

 王都内の後でとなると余計な詮索をされかねない。

 王室魔道具研究所で開発されたものと勘違いされて、ウチにだけ依怙贔屓して流してもらったと勘違いされても困る。しっかり目撃者を作り、ウチの開発商品だと宣伝しなければ。屋敷のすぐ近くには緑の騎士団支部がある。彼等なら商人ともなり得るだろう。

 明後日の朝早く、王城内にまだ人が少ない時間を狙って城の庭で決行というわけだ。見つかって大騒ぎになって人垣に囲まれる前に前にトンズラするつもりだ。そうすれば三日後には屋敷に戻れるとは思うけど、来客の出迎え準備は厳しい。

 となると、私の予定が空くのは・・・

「明日より三日ほどは所用が御座いますので、五日目以降くらいでしたら」

 多分、大丈夫と言いかけてシュゼットに止められる。

「ハルト様、九日後にはジュエイル王国に出発せねばなりませんよ」

 そうだ、それがあった。

 始めはシュゼットに任せるつもりだったけど私が行くことにしたのだ。

 決して書類仕事をシュゼットに押し付けようとしたわけではないですよ?


「其方、ジュエイルに行くのか?」

 辺境伯に尋ねられて返事をする。

「ええ。ビニールハウスの大量受注を頂きまして、その御礼の御挨拶に」

 それと他にもやりたいことがあるし、探したいものもあるので。

「あそこは亜熱帯気候だからな。植物の生育は早いが作られている作物も限定的だ。少しずつ種類も増えてきているが、確かにあそこの国であればビニールハウスでの食料生産はさぞかし魅力的であろうな」

 閣下の言う通りだ。

 別に不便、というわけではない。

 実際、今でも自給率ほぼ百パーセントの国。民が食べるのに困るというわけではない。

 ならば誰が困るのか?

 それは勿論、富裕層の人間だ。

 珍しい食べ物を取り寄せれば金が掛かる。それだけならまだ良い。空輸で即日お届けなんて便利なことができるはずもないのでジュエイルに到着するまでに新鮮さが失われ、美味しくなくなる物も、腐るものも当然ある。

 ならば自国で作れば美味しい物を食べられるだろうというわけだ。

 珍しく新しい物が出回れば経済も活性化する。

 それが美味しい物であるならば尚更だ。

 勿論、その土地の土にその作物が合わない場合もあるとも伝えている。我がハルウェルト商会からも何種類かの種や苗をプレゼントとして持って行くつもりでもいる。

 

「スコールと呼ばれる激しい雨も降るそうですね。楽しみにしています」

 密林ジャングルなんてのはまだお目にかかったことはない。

 そんなものがあるかどうかはわからないけれど、そういうのってワクワクするよね? 

「楽しみなのか?」

「はい。見たことのない景色を見られるということですから」

 閣下に尋ねられて頷いて答える。

 辺境伯には呆れたような目で見られた。

「こっちでは見られない魔獣も多く出現するらしいぞ?」

 遠足気分は如何なものかと言いたいのだろうか。

 それが全くないとは言えないけど、当然準備も整えて行きますよ?

 当たり前じゃないですか。


「そちらの情報は既にダルメシアから入手済みです。討伐戦に向かうわけではありませんから不測の事態が起きない限りは大丈夫だとは思いますが」


 そのジト目はどういう意味でしょうかね?

 閣下、辺境伯?

 わかっていますよ。私の行く先々で、常に不測の事態が付いて回ると言いたいのでしょう? 

 だけど私は今回招待される側、特に問題はないと思うのですよ。

「ちょっと色々と考えていることもあって、これから国外からの注文には私が伺おうかと思っているのですよ。途中まで船で向かいますし、護衛も連れて行きますから心配されるまでもないかと」

 未開な地に向かうわけでもあるまいし、だから大丈夫だと言おうとしたのだが、

「いや、其方の心配はしておらんよ」

「何が出て来たとて、其方が手古摺るような化物が存在するとも思えん」

 と、思いもかけない言葉が閣下と辺境伯から返ってきた。


 それってどういう意味でしょう?

 私は眉を寄せて尋ねた。

「どこか引っ掛かるような言い方ですけど、信頼されているという解釈で宜しいのでしょうか?」

「他に何がある?」

 アッサリと閣下に肯定されて私は首を傾げる。

 私の気のせい?

「なんか微妙に人間扱いされていないような気が致しまして」

 釈然としなくてボソリと呟くと閣下は何を今更とばかりに私を見た。

「それは仕方なかろう。其方が人間離れしているのは疑いようもない」

 ・・・疑いようがないんだ?

 やっぱり私は人間離れしているのか。

 今更だけど。

「とにかく気を付けて行って参れ。其方が油断するとも思えんが」

 はい、油断などしませんよ。

 浮かれた結果が笑い話にもなりません。

 ここは異世界、行ったことのない国が観光地化されているなんて都合の良いことがあるとは思ってないですから。今でこそウチの領地も道路とかもしっかり整備されてきたけれど、六年前までは道なき道を進むようなところも多かった。それでもまだまだ荒れた道路もあるし、領地の大部分は山林だ。自然が美しいところだと言い切ってしまうことのできない場所もたくさんある。


「と、なると、その目新しいものというのは其方がジュエイルに出発する前までに見に行かなければ当分先になるということか」

 閣下がウ〜ンと唸った。

「一応、半月ほどの予定ではありますけど」

 流石にそれ以上領地を空けるのは憚れる。

 らしくないとはいえ私も領主だし、領地を空けている間に何かあってもすぐに戻って来れる距離じゃない。船を使っても片道三日、往復六日の道のり。予定のほぼ半分が移動なのだ。

「ならば六日後の午後、邪魔しても良いか?」

 閣下に問われてシュゼットを伺い見る。

「それでしたら問題ないかと」

 良かった、なんとかなりそうだ。

 でも、私がジュエイルから帰って来てからでも良いと思うんだけど、せっかちだなあ。

 そんなに気になるのか。

 まあ今回は特にとっておきだけど。

「では六日後でお待ちしております。御宿泊はされて行きますか? もしお泊まりになる御予定でしたら迎賓館を空けておきますけど」

「では泊まりで」

 やはりか。

「かしこまりました。

 それで辺境伯は如何致しますか?」

「ワシも同じ日に行こう。新しい側近(・・・・・)も増えたのであろう。その御方にも挨拶せねばならぬからな」

 それはフリード様のことだよね。

 御二人とも関わりが深いし、だから余計に早く来たいのかな。

 フリード様のお元気な姿を見れば御二人も安心するだろう。


「・・・あのっ」

 閣下達と約束をしたところで、少し離れていたところで待っていた地方領主の方々がおずおずと話しかけて来た。

「ああ、すまぬな。こちらの話は大体終わった。其方達も会話に入るが良い」

 閣下が鷹揚に応えると彼は頭を下げた。

「ありがとう御座います、失礼致します」

 そう言ってシュゼットや閣下達と地方領主の方々との話を一応聞いているけれど、正直、貴族同士の社交界での話など、半分以上わからない。やはりシュゼットに任せきりにするのではなく、少しはこういう場にも顔を出した方が良いのだろうか。

 いやいや、今のままで色んなところに顔を出したところで恥の上塗り。

 マナーにもダンスにも自信がない私としては貴族相手に限り、極力引き篭もりたいのも本心で。かといって、このままでも不味かろう。顔に笑顔を貼り付けたまま心の中で葛藤していると、チラリ、チラリとこちらに地方領主の方々の遠慮がちな視線が向けられている。


「何か私に言いたいことがあるの?」

 この会場に入った時の違和感と同じ。

 尋ねた私に目が合った一人が全力で首を横に振る。

「いえっ、滅相もない。

 ただ少々お聞きしたいことが御座いまして」

 言いたいことではなくて、聞きたいこと?

 なんだろう?


「あのっ、ハルト様が第一皇太子殿下の後ろ盾になっているという話は本当で御座いますか?」

 どういう意味だ?

 私がフィアの友達であることには間違いないけれど、

「後ろ盾というのには少々語弊が御座いますが親しくさせて頂いております」

「ではあの噂はやはり本当なのですかっ」

 噂?

 ってなんのことだ?

 いつもの魔王様的なヤツではないのか?

 それを問おうとした瞬間飛び出した彼の言葉に私は驚愕して固まった。


「第一皇太子殿下が次期国王となったあかつきにはハルト様が宰相の座に就き、閣下の御子息レイバステイン様が近衛連隊長におなりになるというのはっ」


 ・・・・・。

 その刹那、私の頭は真っ白になった。


 宰相、って誰が?


 フィアにはフィアの専属部隊が、

 コロッセオに一緒に踏み込んだ筆頭監査官のコルトバルや専属護衛隊長デイラックがいるでしょう?


 なんで私にそんな話が出回ってるのっ!


 血相変えて振り返ったそこには、

 苦笑いするシュゼットの顔があった。



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