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生まれ変わったら天才少年? 〜いいえ、中身は普通のオバサンなんで過度な期待は困ります  作者: 藤村 紫貴
第三章

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閑話 シルベスタ国王陛下の受難 (5)



 さて、マイエンツ達はどう出るか?

 

 張り込ませている者からの連絡はまだ来ない。

 すぐには動かないということか。

 彼奴に対抗する策でも練っているのか。

 まあ下手に動けば彼奴に尻尾を掴まれるだろうが。

 あのプライドが高い男がこのまま黙っているとも思えぬ。

 果たしてどうなることか。

 そう考えて今日も朝会会議を終え、宰相と執務室前にして警備の一人が駆け寄って来た。


「お急ぎのところ失礼致します」

 私の前まで来ると片膝を付き、一通の封筒を差し出した。

 この封蝋の色はハルスウェルトの商会に送り込んだ奴のものか。

「これを。至急とのことで御座います」

 それを宰相が受け取ると執務室に入り、手紙を持って来た男は部屋の中の扉前に専属護衛と共に立たせて待たせる。執務机に座るといつものように封を切って手紙を渡してくれる。

 面倒なようでも昔に国王暗殺を企んだ者が薄い刃物に毒を塗って仕込んで毒殺されかけたことがあったからだ。それ以降、その時側にいる者が封を切ることで王族は自分でそれを開けることがないという認識を広め、今はそのような悪戯(・・)を仕掛ける者もいなくなった。

 受け取った手紙にサッと目を通すと私は思わず小さく吹き出してしまった。

「どうかしたのですか?」

 不振に思ったのか宰相が尋ねてきたのでそれを渡しながら答える。

「いや、なんでもない。あの男も気の毒にと思ってな」

 相変わらず頭が回るというか。

「成程、これはまた考えましたね」

 それを一通り目を通したところで宰相もクスクスと笑い出す。

 おそらくこの手紙を寄越した者は彼奴の予想外の行動に慌てて手紙を寄越したのだろう。あくまでも秘密裏、極秘事項の今回の一斉検挙の件は潜り込ませている者には伝えていない。彼奴のことだ。情報が漏れる危険を考えて限られた者にしか伝えていないのだろう。それでもなんの疑いもなく彼奴の指示で下の者が動くところがあそこの怖いところだ。

 彼奴のやることに一片の疑いも持たない。

 彼奴が自分を犠牲にしないと信じているからだ。

 どんな危険な場所であっても絶対自分達を見捨てて逃げたりしないと。

 なんのことか解らず首を傾げている男に私は尋ねる。

「これを届けに来た者はまだいるのか?」

「はい、門の前に。何か御指示あれば承りますと」

 ならば手間賃を渡さねばなるまい。

 私は短い文章をしたためると宰相の用意した小さな袋と一緒にその男に渡す。

「ではこれを渡し、伝えてくれ。存分に好きにやらせるが良いと」

 そしてその男にも宰相は駄賃を与える。

「承知いたしました」

 一礼してその男が扉の外に出ると、専属護衛もいつものように扉前の警備に戻る。

 

「まさかこんな手を打ってくるとは意外でした」

 手紙の内容はハルスウェルトが着飾ってイシュガルドとライオネル、レイバステイン、他にも彼奴の騎士団を連れ、今日のパレードに参加しているという話だった。

 予定ではハルスウェルトは参加する予定ではなかった。

 彼奴は昨日王都で審問会に出ていたからだ。

 それが速攻で帰って早々にパレードに参加してこちらに向かって来るだと?

 いったい何をと聞くまでもない。

 散々審問会で焚きつけていたのだ。更に煽ってマイエンツ達を苛立たせるつもりだろう。着飾って、しかもルナではなく、より魔獣の血を思わせる青い鱗を持った赤目のシンで行進の参加? 

 間違いなく王都を含めた近隣領地の話題になる。

「彼奴は目立つのは嫌いだったはずだが」

 見せ物小屋の珍獣みたいで嫌だと喚いていると聞いている。

 それでも今回はそうも言っていられないということか?

「ですがそれを知るのは限られた者だけです。彼の方はやることなすこと派手ですから大多数の貴族には目立ちたがり屋だと思われているのでは? おそらく彼の方の商会が経営しているのが主に観光娯楽産業だからというのもあるとは思いますが。あれは人を呼び込むものですからね」

 ・・・確かに。

 あれで目立つつもりがないというのが嘘臭いと思うところだが、彼奴はいつも自分の功績を極力低く見せようとするのを見れば実際はそうでないことがわかる。

 しかしながら彼奴がただ大人しく待っているつもりがないことも、一斉検挙を本当に秘密裏に進めていることも判った。


「まあ良い。この分なら心配することもあるまい。

 呑気に報告を待つとしよう」


 彼奴が失敗(しくじ)るも思えぬ。

 フィアとて無能ではない。充分能力があるはずだ。

 上手く協力しあってくれれば失敗することもないだろう。

 これが成功してくれれば床に伏せっていたことを持ち出して不安を煽り、他の王位継承権を持つ者を擁立して傀儡とし、権力を握ろうとしている輩も黙らせることが出来るだろう。

 それにここで私が下手に関わればフィアの能力を疑われる。

 黙って事の成り行きを見守るしかあるまい。

 とりあえず、今回の一斉検挙を成功させてくれれば・・・

 

 大丈夫だと思いつつ心配になるのが親心。

 そう祈るような気持ちで願い、随時送られて来る報告を私は待った。



 そうしてパレードにハルトが参加した本当の理由を知ったのは彼奴が戻ってからの話だった。

 総勢二百名余りが参加していたはずのアレキサンドリア騎士団が自領に戻った人数は僅か十数人、明らかに検問所を出入りした数が行きよりも少ない。

 では彼等はどこに行ったのか?

 目前に控えた一斉検挙に向けて事前に移動を開始していたのだ。

 ハルスウェルトはイシュガルドやライオネル、ガイなど数名の側近と行動することが多い。故に彼奴の騎士団と別行動を取ることも珍しくもないのだ。

 二百名全員に監視を付けるほど密偵や間者を送ることは実質不可能、ただでさえハルスウェルトの行動は予測不能で獣馬や船籍を使ったものが多い故に移動に付いて行くのは厳しい。限られた人数で彼奴の動きを把握するとなればどうしたって彼奴個人に監視の目は集中する。それを利用して派手に自分への密偵達の監視を集中させ、人員配置をマイエンツ達に怪しまれずに開始したのだ。

 道理でハルスウェルトらしくもなく、目立った動きをしたわけだ。

 マイエンツ達を煽っているように見えた動きは全て裏で計算されていたのだ。しかも取締る予定の領主や大地主の領地にではなく、其奴らの隣領に配置した。自領であれば用心深く気を配っている者もいなくはないが隣領にまで気を配る者は皆無だろう。通常なんらかの取締りの際にはその領地、踏み込み先の近くに潜伏、待機するものだ。しかもハルスウェルトのところの騎士達は検問所を通る際、騎士としてではなくハルウェルト商会に勤める商人として商業ギルドの身分証を使うことが徹底されている。側近としても名が知られている有名なイシュガルドやライオネル、他数名ならば知っていてもアレキサンドリア騎士団全員の名が記憶されているわけもない。獣馬にも乗らず、バラけて行動されては判別できるわけもなく、各々指定の領地へと向かったらしい。その後も商会馬車の警護として少しずつ送り込まれて行く。

 ハルスウェルトにばかり目を向けていては駄目なのだ。

 あそこの奴等は個々でも動くことが出来るよう徹底教育されている。それに対応しきれない者は所謂二軍、娯楽施設の警備の仕事をして状況に応じた対処を身に付けさせられる。

 客商売というものは応用が効かなくては上手くやっていけない。

 そんな中で仕事をしていれば自ずとそれに適応し、磨かれてくるのだ。それが出来なければ騎士団への昇格が出来ず、二軍のままとなる。

 つまりハルスウェルトが連れ歩くのは一軍。

 己の頭で考えて、己の意志で行動出来る者達だ。

 全く上手く出来たシステムだと思う。

 

 そうしてそれなりの人数配備が終了したところでフィアの外遊の、その商船の警備として残りの者達がハルスウェルトと一緒に乗船となる。しかもフィアを向い入れる前には各支部の応援要員が船内に既に乗船済み、他所の支部から乗り込んでいる船内の人員まで把握出来るはずもなく、運河上に船内という密室が完了。

 まんまとハルスウェルトの術中にハマり、警戒されることなく、人員配備が完了となる。

 

 これならば今回の一斉検挙もそう問題も起こるまい。

 そう思って安心していたのだ。



 ところが、だ。

 実際行動が開始されればどうだ?

 

 フィア達の乗り込んだのは最大の難関とも思われる、マイエンツの派閥が五名揃ったコロッセオ。

 途中までは実際上手く行っていたらしいのだ。

 マイエンツ達の昼食時に踏み込み、警備員達を随時捕縛、貴族用の来賓席まで到達し、その間にもハルスウェルトの騎士団者達が施設内の関係者を捕え、闘技場内に運び込んでいたということだ。驚くべきは集められた使用人達の半数以上に奴隷紋が刻まれていたという事実だった。

 これにより提出されている経費の人件費が誤魔化され、脱税の疑惑が一気に浮上。奴等を問い詰めるために連れ立ってやって来た闘技場で事件は起きた。

 追い込まれたマイエンツが予想外に行動に出たのだ。


 フィアの護衛部隊とアレキサンドリア騎士団の視線と行動の隙間を掻い潜り、マイエンツが闘技場下に作った落とし穴にフィアとハルスウェルト達を落としたのだ。

 

 何故それを知っているのかといえば、その時点でフィア達の動きを見張らせていた数名の者達の内、一人が私に報告するために伝令として走ったからだ。

 残りの者はそのまま事の成り行きをジッと見守っていた。

 そして暫く後に彼奴の騎士団によって引き上げられた。

 その報告を持って更に一名が私の元へと走った。

 それにより一番目の連絡係の時点で応援を派遣すべきか迷っていた私はホッと安堵の息を漏らす。

 ならばもう問題あるまい。

 危険がない限りは報告の必要なしと連絡に走ってくれた者達を戻らせる。

 後は戻ったフィアに報告を聞けば良い。

 フィアは私がその動きを見張らせていたことは知らぬ。

 任せたからには手出し無用でいるべきとわかっていても心配なのは変わらぬ。

 見張らせていた者達には黙秘をさせ、フィアには知らせることなく私はフィアからの報告を待つ。

 そうして聞かされたフィアからの報告に改めて驚愕することとなった。


 落とし穴に落とされたその中で見た光景、脱出方法、そこから抜け出してもまだシラを切り通そうとしたマイエンツ達を追い詰めた方法に至るまで。内心驚きつつもハルスウェルトからの提案からそれ(・・)を選択した理由を問うた。

 そしてフィアの口から返って来たのは私の望んだものだった。

「ハルトから提案された三つの内、それが一番言い逃れを許さない方法と判断しました。甘い顔をしてはマイエンツ達に言い逃れの機会を与えてしまいます。踏み込んでそれが事実と判明した以上、取り調べを行う上で徹底追求すべきと考えました。

 観客を入れたのは今後このような事態が起こらぬよう徹底した厳しい態度で対応すべきと考えた結果です」


「其奴らに恐れられるとは思わなかったのか?」

 人とは他人の目を気にするものだ。

 私の問い掛けにフィアは強い意志を持って顔を上げ答える。


「甘く見られては今後私の判断に意を唱え、従わぬ者も出て来ることでしょう。意見を聞く耳を持つことは大切です。しかしながら部下を統率できぬ者に王としての資質は御座いません。良心的な者達ばかりであればそんな心配も無用でしょうが、腐敗した貴族もまだまだ多く存在します。

 それらの者達に不正を行った者の末路をしかと見せつけるべきと判断しました」

 

 そうだ。

 王とは絶対的な存在でなければならない。

 それが見掛けだけだったとしても。

 上に立つ者が揺らげば民に不安と不審が伝播する。

 揺らぎを悟られてはならぬのだ。

 ナメられる者に王は務まらぬ。

 そのフィアの覚悟に私は頷いた。

「よかろう。ならばこの一件、見事其方の力で解決して見せよ。

 無論、必要とあらば他の者にの手を借りても良い。

 他者の手を借りることは恥ではない。

 己が力量を正しく判断し、己に足りないものを補ってくれる信頼できる者を側におけ。

 王とは必ずしも万能である必要はない。

 だが万能であるために支えてくれる者をしっかりと見定めよ」

「御意に」

 私はそれこそが王たる資質であると考える。

 多くの味方をつけることが出来る魅力、力量が必要だ。

 ただ頭が良い、並外れた武力などがあるだけでは人は付いて来ない。

 『優しい』という言葉は『甘い』とも取られる。

 王とは畏れられることを恐れてはならぬ。

 孤独であることを怖れてはならぬ。

 時には非情と言われる判断が求められることもある。

 その判断が下せなくてはならぬのが王たる資格。

 

 謁見の間を出て行くフィアの後ろ姿に私は心の中でホッと息を吐いた。



 そうして私の願った望み通り、フィアはハルスウェルトらの力を借り、見事この一件を収束させた。

 レイオットとステラートにもハルスウェルトからの支援が入ったことも報告が入ったが、全くの痛手無しというわけにはいかぬ。部下の責任はその上の者にも責任の一端はあるのだ。その支援がゼロになる程度の罰は必要だろう。それくらいであればあそこのニ領は揺らがぬであろう。


 その褒美を取らせるべく呼び出した場でフィアの後ろにハルスウェルトを従えさせ、その関係性を周囲にアピールしつつ今回の件での一件落着を申し渡し終止符を打つ。

 これで貴族の間でもフィアとハルスウェルトとその周囲の者達との繋がりを刻み込めたであろう。

 必ずや彼奴らをフィアの治世に引き摺り込んでやろう。

 彼奴らはフィアには欠かせぬ存在だ。


 ところが、だ。


 フィアの存在感を植え付けるのには成功した。

 しかしながらレイオットとステラートに与えた処罰にハルスウェルトがヘソを曲げ、暫くの間、ハルスウェルトに押し付けようとした仕事の悉くを却下される事態となった。


 アレらでなくてもそれらの仕事を片付けられる者はいる。

 だがアレらほど効率的に、素早く解決出来る者は存在しない。

 ハルスウェルトが現れてからスルスルと片付いていた問題が一気に滞り始め、私は唸った。

 

 そして気がついた。

 

 私にとっても彼奴がなくてはならぬ存在になっていることに。

 アレの協力が得られぬことの大変さが身に沁みて、私は苦悩した。

 だからといってレイオットらだけに甘い顔はできぬ。

 しかしハルスウェルトらの協力が得られぬのはキツイ。

 その狭間で思考が揺らめいて、


 私は思い切り頭を抱え、悩んだのだった。

 


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