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生まれ変わったら天才少年? 〜いいえ、中身は普通のオバサンなんで過度な期待は困ります  作者: 藤村 紫貴
第三章

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閑話 シルベスタ国王陛下の受難 (3)


 彼奴には想定外、予想外、計算外という言葉がぴったりだ。

 行く先々で騒動が起こる。


 たかが遺跡調査。

 たかが先住民族の保護。

 たいしたことも起きまいとタカを括っていたのも確かだ。

 位置を聞いた限りでは魔獣の渓谷からも離れている。

 築いた国境からも程近く、鬱蒼と茂った木々を登ればその見張り台の人影も豆粒ほどとはいえ視認できる距離。魔獣類が出現したとしてもアインツ、フリードに近衛の精鋭。更にはハルスウェルト達がついているのだ。滅多なこともあるまいと。

 それがまさかあんなものが潜んでいるなどと、

 

 考えもしなかったのだ。



 遺跡、特に城跡や神殿跡などは調査隊志願者も多い。

 それは確率的に『お宝』が発見されることもあるからだ。

 そうでなくてもそういった遺跡などには貴重な文献、新たな発見や新説となるような過去の遺物が眠っていることも少なくない。

 故にマイエンツ達が息子を捩じ込んできたのも想定内。

 ハルスウェルト達が保護した子供達が継承していた伝統工芸品が大層美しいものであることが判明した時点で関わってくる気満々だった。子供が受け継いでいる技術であれば、そこに住まう大人達の方が知識も多く、腕も良いはずだ。だから自分達が保護してその工芸品の技術を繋ぐのが使命だと、表向きに用意した言い分はあからさま過ぎてその下心を隠しきれていなかった。

 アレはハルスウェルトと真逆の存在。

 金と権力に溺れ、美しいものに目がない。

 娶った妻も美姫揃い。連れ歩くのは一応正妻。彼女の出身は二代ほど前に王族の血筋の姫を賜った伯爵家。つまり王族の血筋を重んじたというわけだ。だが彼女が歳を重ねてくると若く美しい下級貴族の娘を買い叩くようにして嫁入りさせ、側室、愛人として囲っているのは知っている。その妻の数は全部で十五人。学院卒業したての娘に婚約者がいても関係ない。その家を陥れ、破滅させ、経営難に持ち込んで、借金のカタに花嫁修行と称して己の屋敷に連れ込んで婚前交渉を致しているというわけだ。そうして娘達が十五を過ぎたあたりから足は遠のき、十八歳を過ぎれば興味を失う。要するに彼奴は若い女が好きなのだ。

 まあそれも貴族ではさして珍しくもない。

 若い女はそれだけで瑞々しい美しさを持っている。

 それでも離婚しないのは離縁にかかる面倒と慰謝料が惜しいから。彼女達を己の屋敷の離れに閉じ込め、やって来た客人に夜の接待をさせている。それ故、夜伽を申しつける以外は彼女達にしっかり食事も取らせ、着飾らせ、身嗜みに気を遣わせている。要は私設の娼館みたいなものだ。貴族の中には商売女を嫌う者もいるからだ。平民が抱いた女に触れたくもないというわけだ。


 馬鹿らしい。

 女の価値は年齢(そんなもの)で決まるものではないというのに。

 若い女には若い女の、歳を重ねた女にはその年でしか出せない色香、色艶、魅力がある。花咲く前の蕾も良いかもしれぬが、散り際の咲き誇る大輪の薔薇が艶やかで目を惹くのと一緒だ。

 女を枯らせるのも美しく咲かせるのも男次第。

 水も肥料も与えず粗末に扱えばそれなりの花しか咲かぬ。

 花は大切に愛でてこそ大輪の華を咲かせるものだ。

 そういう意味では彼奴は花を育てるのには向かぬ男。咲き誇ろうとしている花の蕾を毟って、踏みつけてしまっては見事な花など咲こうはずもない。

 女を守るために作られたはずの法律が金を惜しむ男ロクデナシな男に鎖で繋がれ、虐げられる理由になっているようにも見受けられる昨今、その法律も見直すべきかと考えさせられる。その法律があるからこそ離縁出来ずに粗雑に扱われ、場合によっては事故に見せかけ、毒殺を病死とされ殺されているのでは本末転倒だ。

 しかしながらそれを許せばロクな慰謝料も支払わず、放り出すような事態にもなりかねない。

 どちらが良いかと考えると微妙なところだ。

 人の命か、人間の尊厳か。

 それはその者の価値観によっても違うだろう。

 無一文で自由を手に入れたとしても温室育ちの貴族令嬢(はな)は外界では生きられぬ。出戻りの令嬢に社交界の風当たりは厳しい。次の嫁ぎ先が見つかるのは高位の親を持つ者だけだ。それも厄介払いでもされるかの如く親の部下への褒美として嫁がされるのが殆どだ。仕えている大貴族から『やる』と言われれば『御遠慮致します』とは言えぬ。出世の道が絶たれ、下手にソイツの機嫌を損ねれば仕事はクビ、長く一緒に暮らせば情が湧いてくることもあろうが対面を重んじる貴族の男なら強引に押し付けられた歳上出戻り令嬢を愛せる男は稀だ。年頃の男なら大抵意中の女が一人や二人いるからだ。だが大貴族の娘を嫁に貰って正妻に据えぬわけにもいかない。そうなれば惚れた女は側室か妾、愛人扱いとなるわけだ。

 己が幸せにするつもりであった女を押し除けて、押し付けられた上司の娘を正妻に据える。それを喜べる者は少ないだろう。嫁に貰うということは当然だがその先の問題も出てくるのだから。


 ハルスウェルトに言わせると女の地位と権利が低いのがいけないのだと言う。

 女性の仕事場は限られ、稼ぎは男よりも少ないことが多くて同等に扱われない。嫁がない女性は出来損ないみたいに言われる風習が悪いのだと。女性にも優秀な人、仕事の出来る人は沢山いる。なのに重要な仕事は大抵男にしか任されない。そうなればどうしたって男目線でしか物事を考えられなくなって偏った考え方になる。

 それがオカシイのだと。


 確かにそうだ。

 私の妃達やステラート辺境伯夫人のように充分政治や経営に携われる能力のある女はいる。他領にも彼女ほどではなくとも遊び呆けている夫の代わりに領地の経営を取り仕切っている夫人もいる。私も妃達の女ならではの目線の考え方で気付かされることが多い。

 それらを考えればもっと女性に活躍の場所を設けるべきなのだ。

 しかし影ではなく、男ばかりの表社会に女性を割り込ませるには現状厳しいと言う他ない。男より女も方が仕事ができるとなれば男の面子が潰れる。それだけで片付けば問題ないが貴族の男がそれを良しとするわけもない。歯噛みするだけで済まないのが無駄にプライドが高い貴族の男だ。強引な手で引き摺り下ろし、場合によっては彼女達の身に危険が及ぶ。

 

『だからまずは平民と柔軟な子供の意識から変えていくんですよ』と。

『ウチ商会はまだ若い人達が多いから頭もまだ固くなっていないはずですから意識改革もできるはずだ』と。

 まずは自分の足下から変えていくのだと、そうハルスウェルトは言った。


 商会でもまずは班長、次は工房長、そして部門長や支店長へと少しずつ女性を登用していきたいのだと。まずは女性の力が大きい部署から順々に浸透させ、やがては大幹部に女性を迎えたいのだと言っていた。

 圧倒的大多数の平民の意識が変われば貴族社会にも影響していくはずだと。

 何事もいきなりでは反発を招く。

 急激な変化は必ずしも良いとは限らない。

 その意識を変えさせる、他者を圧倒するカリスマ的な存在。そんな女性が出てくれば別だが、それをただ待っているのではいつまで経っても変わらない。まずはその下地を作り、周囲に女の価値と能力を浸透させ、男の尻に火を付けるのだと。男であることに甘えていては女にその地位を奪われると知れば、見栄っ張りの男なら尚更焦って必死に仕事をするでしょうと。

 男優位な社会認識を、男の方が優秀だという間違った認識を変えなければ女性の地位は上がらない。

 

『当然、そのための規則や法の整備も必要でしょうけどね』

 そう言って彼奴は笑った。

 

 成程。

 男にしては面白く、珍しい考え方だ。

 だが理にかなっているし、反論の余地もない正露だ。

 女の方が活躍出来る場をまずは作り、男に女の価値と底力を思い知らせるということか。

 変化というものは突然起こるものではない。

 何事にも予兆や前触れというものがあるものだ。

 キッカケさえあればあっという間に浸透することもある。

 どちらにしても課題は多いが放って置けない問題だ。

 それが実現すればマイエンツのような身勝手な男の犠牲になる女も減るであろう。

 しかしながらハルスウェルトは朴念仁のように見えて女性に対する気遣いは目を見張るものがある。

 男心には鈍いのに、だ。

 彼奴の周りにいるのが男だらけだからこそタラシ込んでいるのは男ばかりだが、アレがもし学院に通っていたらさぞかし名を馳せる女タラシになっていたことだろう。アレの怖いところはタラシ込むつもりがないのに周りの人間が勝手に陥ちていくところだ。

 

 とにかく調査団にはアインツもフリードも付けた。

 オマケに彼奴も一緒なのだ。

 何か想定外のことが起こったとしても問題なく対処できるであろう。


 と、そう思っていたのだ。



 結論から行けば相変わらずの驚異的な手並み。

 とんでもないSクラスどころかSSSクラス、伝説級の化物が出現したというのに即日討伐。


 ただ、彼奴が同行して初めての犠牲者が出た。

 死んだのは警護の近衛にではなく、調査員、マイエンツ達の息子。

 厄介な事態になるのは目に見えて明らかだ。

 アインツとフリードの話、上がってくる報告書からすればどう考えてもマイエンツ達の息子が悪い。功績と名声に目が眩み、ハルスウェルトの忠告を無視した結果が化物の餌食、しかも復活の手助けともなる魔力の補給源となったのだ。

 本来ならば罰せられるべきはマイエンツ達の息子の方。

 だが死人に口無し。

 同行した近衛達を買収、脅迫して有る事無い事話を捏造し、ハルスウェルトに罪を押し付けて来たのだ。


 こういう時に厄介なのは私がハルスウェルトを常日頃から重用している事実だ。下手に彼奴の肩を持てば贔屓と取られる。公平な立場であるべきの国王としてそれは問題がある。上がって来ている報告でゴリ押しが出来ないこともないのだが、困ったことにマイエンツには王都の貴族に影響力、城内の人事にもある程度口出しできる権力がある。面倒なことこの上ない。

 どうしたものかと悩み、頭を抱えていた間にハルスウェルトに反感を持っている王都の貴族を味方につけ、マイエンツはまんまと彼奴を審問会に引き摺り出すことに成功した。


 私は独裁政治をやっているわけではない。

 今まで私を支えてくれた貴族はハルスウェルトだけではない。

 城内の大多数の貴族を全て敵に回せば日常業務が滞る。

 それは間違いなく良策ではない。

 となれば、まずは審問会でハルスウェルトとマイエンツの出方を見て対策を練るべきかと考えていた。そしてなんとかマイエンツ達の立てた筋書きを壊す突破口をと、そう思っていたのだ。


 だが私は忘れていた。

 彼奴のところには目を見張る優秀な者が多いことを。


 イシュガルドと一緒に入廷した時、その顔は僅かに強張っていた。

 いくら肝が据わっているとはいえやはりまだ十二歳、限界もあるか。そう思っていたのだがイシュガルドがその震える手を握りしめた途端、顔つきが変わった。

 アレは私の力を必要とするまでもなく、聴衆の前でマイエンツの作り上げた物語の矛盾を一つ一つ指摘、反論の余地を残さず、言い訳も許さぬ見事な弁舌で論破し、やり込めた。

 

 形勢逆転。


 マイエンツの作り上げた虚構の陳述は崩された。

 上から目線ではない。

 自分の立場をあえて下に置き、そこから突き上げるようにマイエンツ達の立っている砂の牙城を崩していく。そうして哀れマイエンツはその崩されて牙城の下敷きだ。

 内心、笑い出したいほど痛快だった。

 ハルスウェルトに喧嘩を売ったのが運の尽き。

 

「こちらからの答弁は以上です。

 勿論異議申し立てがあるというのであればこちらも正当な権利に基づき、真偽は裁判の法廷で争わせて頂きます」


 そうハルスウェルトがサイラスやライオネル、アインツ達も巻き込んで覆しようのない事実を並べ立てられては反論など出来ようはずもない。

 ワナワナと真っ赤になって震えるマイエンツとレッドベルグの姿に笑う。

 子息を亡くしたことに関しては同情の余地はある。

 だからといって事実を捻じ曲げ、その尻拭いをしたハルスウェルト達に法外な賠償金を吹っ掛けて責任を取れというのは明らかに違う。

 貴様らの子息が起こしたことは一歩間違えれば大災害、大量の犠牲が出た案件。たまたま此奴が居合わせて、討伐に成功したからこその犠牲者二人という被害の少なさだ。息子を亡くした悲劇の主人公を気取ったところで、それが嘘で塗り固めたものならば一つヒビが入れば一気にガラガラと崩れ落ちる。

 そして更に私が感心したのはマイエンツ達にトドメを刺さなかったことだ。

 まだまだ今日で終わりじゃない。

 マイエンツ達にはまだまだ余罪がある。

 焦って、苛ついて、切羽詰まって、慌てふためき、火がついた足元の消火に目を向けさせることで正常な判断力を奪っていく。

 そうしてダメ押しとばかりにハルスウェルトは笑ってこう付け加えた。


「では裁判でまたお会いしましょう。

 こちらはこれでも随分と勉強させて頂いたつもりなのですがね?

 ですが、この金額に納得されていないということであれば、今回は時間の関係で大雑把な概算でしか金額を提示できませんでしたけれど、しっかり、キッチリ全ての費用、経費を計算して、貴方がたにも理解できるよう、詳細な請求書を御用意させて頂きます。

 おそらくもっと高額になるとは思いますけど。

 私は商人です。

 御贔屓の賓客であればサービスも致します。

 ですが迷惑なクレーム客であればそのようにキッチリ対応し、掛かった経費はしっかり取り立てさせて頂きますのであしからず。

 貴方の反撃、楽しみにしていますね」

 

 そう締め括り、ふてぶてしくも不敵に余裕を見せた態度にこんな場所に引き摺り出されたハルスウェルトの失態を嘲笑していた聴衆達の視線はマイエンツ達への憐れみに変わる。

 

 其方等、馬鹿であろう?

 ハルスウェルトがそんなドジを踏むはずもない。

 踏んだとしても此奴にはそれを覆せる力が、頼れる仲間が大勢いる。

 マイエンツ達のように金と利権で繋がっただけの関係ではその絆も細い糸のように切れやすい。マイエンツ達の隠された真実が全て露見された時、いったい何人の味方が貴様らの周りに残っているのか見ものだな。


 貴様らとハルスウェルトでは持っている器の大きさが違うのだ。

 たかが成り上がりの小僧だと馬鹿にして、その功績と実力を見誤ったのが貴様らの失敗だ。悔しさに歯噛みして此奴を陥れる画策を練ったところで貴様らの命運は既に終焉を迎えている。

 

 いったいどんな結末が待っているのであろうな?

 

 貴様らはハルスウェルトの書いたシナリオの上で踊っている。

 いつになったらそれに気づくのか?

 笑い出したい衝動を抑え切れず、私はその場を早々に退廷すると執務室に戻ったところでそれを爆発させた。

 全く彼奴はこれだから目が離せぬ。


 さて、後はどのような手段でマイエンツ達を追い詰めるのか。

 それを想像して、私は不謹慎にもワクワクしたのだった。

 


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