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生まれ変わったら天才少年? 〜いいえ、中身は普通のオバサンなんで過度な期待は困ります  作者: 藤村 紫貴
第三章

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閑話 シルベスタ国王陛下の受難 (1)


 アレの頭の中は一体どうなっている?


 オカシイだろう? 

 次から次へと売りに出される新しい商品、新しい技術。

 私はいったい幾つのものをアレから買い上げた?

 既に数えきれなくなっている。

 ハルウェルト商会設立から早八年。

 片田舎の小さな商会は他国にも類を見ない巨大な組織へと変貌を遂げ、他領、諸外国と提携し、今もなお勢力を拡大し続けている。


 アレは既に一国一城の主人。

 その戦力、資金力、機動力は最早国家規模だ。

 普通であれば我が国自慢の魔獣討伐部隊、緑の騎士団に応援要請が来る事態であってもアレが最速で現場に駆けつけ即日討伐。勿論自分達だけでは手に負えないと判断すれば緑の騎士団支部に応援要請の連絡が入り、同行もする。

 だが通常、最低でも数日かかるであろう出立、遠征準備も僅か数刻で完了するのがあそこの異常なところだ。

 駆けつけるのが遅くなればそれだけ被害も増す。

 理屈では判る。

 だが、たいした準備もせずに馳せ参じたところで討伐部隊に犠牲が出てはその先が困る。状況把握、討伐計画、人員の選定、兵糧の手配、それぞれの担当部署が動いて早急に準備を整え、揃ったところで出発。数日先となるのが常だ。

 ところが、だ。

 あの地では連絡が入った直後から各々自分の仕事を分担、準備が即座に進められる。

 アレとその周囲者達が連絡が入ったと同時に動き始め、即現場に急行。必要と思われる資材、食料、その他は商会人員が手配、揃った物資から順次後を追って届けることで解決。領地に複数の支部を置き、其奴らに防衛と時間稼ぎをさせて主戦力の本部隊、獣馬所有者が相乗りして最速で現場に駆けつけるのだ。

 しかもアレキサンドリア領の騎士団員達は入団直後からイシュガルドにみっちりと戦術基礎を叩き込まれ、本部と各支部にその適性を判断した上でバランス良く配属されるのだ。そのためにあそこの騎士団は支部の人員だけでもランクAでも対応、討伐可能。手に負えないと判断した時だけ本部に応援依頼、獣馬持ちが連絡に走る。

 故にあの地は魔物、魔獣出現率が他領に比べて圧倒的に高いのにも関わらず驚くほどに犠牲者が少ない。アレが不在の時でもアレらの下でしっかりと現場経験を積んだ討伐指揮を執れる者があそこの領地にはウジャウジャといるのだ。

 それこそ我が国の騎士団にスカウトしたい人材が山程。


 しかしながらその大多数は平民なのだ。

 個々の戦力は緑の騎士団が上。

 だが戦術、連携などは圧倒的に彼奴のアレキサンドリア騎士団が上。総合力でやや緑の騎士団が上となる。

 だがそこにアレが加われば別の話。

 おそらく緑の騎士団と同格、いや、国王として認めたくはないがあちらの方が上だろう。徹底した安全管理と設備が張り巡らされているが故の結果だろうが自領騎士団員の殉職者ゼロなどと馬鹿げた記録がいまだに更新され続けているあたりも信じられない。

 あの場所にはそれを可能にする有り余る財源と新たな防備を発明し続ける頭脳がある。あの面倒で厄介極まりない変人達を上手く宥めて扱える者がいるのだ。

 バリウスができるなら緑の騎士団入団前に新入りをあそこで一年間研修させたいくらいだが、それをやると送り込んだ新入団員がアレに誑かされて一年後には其奴らの退団届が山となって届きそうで恐ろしくてそれも出来ないという。


 あの無自覚な人タラシは本当にタチが悪い。

 実際、こちら側から動向を見張らせるために送り込んだはずのヤツらから届く報告書も最近ではまるでハルスウェルト観察日記。彼奴がどうした、彼奴がこうやった、彼奴のこの言葉に感銘を受けただの、必要のない余計な文言がやたらと目立ち、宰相や大臣、アインツ達も苦笑いだ。

 リディが『あそこはハルスウェルト教信者の総本山だからな』と、ガイがそう言っていたという。

 確かにその言い回しは妙に的を得ている。

 熱狂的とも狂信的とも言えるハルスウェルト至上主義があそこは大多数だ。勿論それはハルスウェルトに救われた者が多いせいもあるだろう。

 あの地に住む多くの者達にとって彼奴は自慢の領主であり尊敬すべき上司。

 彼奴に反感を持つ者は非常に住みにくい環境だ。


 それだけではない。

 後ろ暗いヤツで賢い者は彼奴を恐れて近づこうとしない。

 この六年、彼奴が追い込んだ私腹を肥やし、残虐非道を尽くしていた貴族は二桁を軽く超え、盗賊野盗の類は三桁を既に突破している。

 特に世直し行脚の旅をしているわけではない。

 ただ彼奴は従業員達に害を及ぼそうとしたものは徹底排除、その巣を突き止めて根こそぎ衛兵、憲兵に突き出してきたのだ。そのためあの辺りを根城にしていた懸賞金付きの輩はほぼ捕縛、残った奴らはあの地から逃げ出した。其奴らからすればアレはまさに天敵、触らぬ神に祟りなしというヤツだ。

 そういうわけであの領地は驚くほどに治安が良い。

 懲りない貴族連中の密偵、暗殺者が多少潜んでいてもだ。

 襲ってくれば彼奴が仕掛けた罠に引っ掛かり根こそぎ捕縛、それを運良く潜り抜けられたとしてもイシュガルドが鉄壁の警備を敷いている。彷徨いて情報収集をしている輩は密かに監視を付けて誤情報を持ち帰らせて相手を混乱に陥れるという徹底ぶり。

 魔物や魔獣にしてもそうだ。

 アレの屋敷周辺も以前はそれなりに生息していたはずなのに今や滅多に出没しないらしい。出現率が高いのは屋敷からある程度離れた場所だ。

 それを不思議に思って口に出せば、バリウス曰く、

 『そりゃあ当然だ。ハルトが住んでるんだからな』と言う。

 野生に住む魔獣は危機察知能力が高い。あんな魔力量を内包したヤツが闊歩してれば寄りつこうとは思わない、高ランクの魔物が住みつけばその周囲から低ランクの魔獣がいなくなるのと一緒だと言う。

 アレに喧嘩を売る魔獣(バカ)は最低でもAクラス超え、もしくは大きな群れを従えて気が大きくなっているヤツくらいだ。賢いヤツなら即座に脱兎の如く逃げ出すハズだと。

 そんな馬鹿なと冗談半分に聞き流していたそれが紛れもない真実だと理解したのはハルスウェルトの学院での四年間限定の講義がとうとう終了した後のことだった。



 彼奴が学院で講義をし始めてもうすぐ四年。

 こちらから期間限定で依頼した任期が先日終わりを迎えた。

 延長を依頼したものの彼奴が頷くはずもなく、来期から学院内の騎士を目指す者の必修科目となったのだから自分ではなく、ちゃんと教育できる者が受け持つべきだし、自分には領主の仕事も商会の仕事もあるから限界だと。

 そう言われては引き留められない。

 彼奴にはそれ以外の仕事も散々押し付けている身としてはゴリ押しも出来ない。限度を超えれば疲弊する、疲弊すれば反感を招く。彼奴を使い潰すわけにも敵対するわけにもいかないのだ。それ故、来期から誰を新しい講師に据えるべきかと悩んでいた、そんな時、潜り込ませている(?)護衛官から連絡が届いたのだ。

 ウォーグの群れが出現、内一匹は魔素付きの可能性有り、と。

 そしていつものように速攻で出陣したという。



「まあアイツが向かったんなら心配ねえだろ。何せハルトだからな」

 その日の朝会会議が終わり、昨日特急で届いた報告書に記されていた話をバリウスとアインツに聞かせると、バリウスは苦笑いしてそう言った。

 最近は彼奴の所業の大多数は『ハルトだからな』で片付けられる。

「ああ、そうだな。私もそれは心配していない」

 そもそも彼奴が敗走するところが想像もつかない。

 Sランクの魔物の出現など彼奴には日常茶飯事、騒ぐほどでもないだろう。SSクラスの魔物すらほぼ単騎で討伐するようなヤツがウォーグ如きに怯むわけもない。彼奴が油断すれば相手に勝ち目も出てこようが彼奴はどんな相手にも油断などしない。強者が油断しないのなら弱者に勝ち目があるわけもない。

 

「最近は彼奴のところであんまり問題が起こらないなあと思っていたのだが」

 久方ぶりに届いた厄介な魔獣の出現報告だ。

「そうか? 結構色々報告来てただろう」

「言い方を間違えた。比較的平和だっただろう、だ」

 私の漏らした呟きにバリウスにそう返され、私は言葉を訂正した。

 今までであれば魔素付きウォーグの群れの出現など大規模な討伐部隊を組むのに奔走するような案件だ。なのにウォーグの群れをたいした問題では無いと断じている時点で私も相当に彼奴に毒されていると思うのだ。

 宰相が私の言葉にクスクスと微笑う。

「確かに。様々な報告は上がってきても、比較的ということでしたらあそこ(・・・)にしては平和だったかもしれませんね。それを考えるとそろそろ何か変わったことが起きそうな予感がしないでもありませんけど」

 水面下では色々な計画が進んでいることは知っているが、それらもあの地では大騒ぎするほどもない、今更な日常だ。

 彼奴が表舞台に名を挙げるようになってから運河水道設備の公共事業、旧ベラスミ領の反乱、農業改革事業などが大規模なものがあった。だがそれらほど大きな話題に上がるようなことはない。だからといって、様々な新しい商品や開発など話題に事欠くこともなく、相変わらずその『天才少年』ぶりは健在だ。

 もうすぐ『少年』という言葉もそぐわぬ、十二歳誕生日も間近に迫っているが。

 さて、今年は何を贈るべきか。

 ウォーグの群れの出現を聞いて呑気にこんなことを考えていられること自体が以前ならあり得なかった。そう考えたのは私だけではなかったようでバリウスがクククッと笑う。

「言えてるな。だが状況からするとそうすぐには問題も起きないんじゃないか? アイツからすれば、『たかがウォーグ』だろう?

 ウチなら二百人規模の討伐隊を組む案件だが」

 そうだな、犠牲を最小限にと考えるなら確かにその規模だ。

 だが彼奴にとっては然程恐るほどもないことだろう。

 いや、そうでもないか。

 彼奴は被害者が出ることを極端に嫌う。だからこそいつも万全を尽くし、先頭に立とうとするのだろうが。

「いつものように屋敷から現地に向かったのは百人以下、数十人ほどのようだぞ?」

 多勢に無勢でかかれば決着は早い。

 だが実力が及ばない者は犠牲になることも多い。

 だからこそ彼奴は少数精鋭、兵を使い捨てることを嫌い、策を張り巡らせる。

 バリウスが呆れたように溜め息を吐く。

「本当にアイツは最早バケモンだな」

「最早ではなく、とっくの昔に、だと私は思いますが?」

 それに反論したのはアインツだ。

「この間も新しく延長、敷かれることになった水道工事建設に入り用だからと城で管理していた五千クラスの空の魔石を持ってお願いに行ったんですが、その時も『承知しました』で顔色ひとつ変えずに補充して、『はい、どうぞお持ち帰り下さい』ですよ? 

 その後もフラつきもせずにスタスタと歩いてました。

 オカシイどころか既にホラーですよ」

 そう肩を竦めて続けたアインツに宰相は苦笑する。

「ですがそのホラーな彼の方がいてくれるから我が国の北東部は安心です」

「ですね。ハルトは北東部の要であるステラート辺境伯領とも交流が深いですから。ハルトのところの防犯設備の恩恵もあるので防衛の面でも随分と楽になったと辺境伯が言ってました」

 そうだろうな、とは思う。

 周辺諸国の貧しい国々ではいまだに我が国への亡命、密入国が見受けられる。

 普通に税金を払って国境を抜け、正式な手続きを踏めば移民の受け入れも行なっているが、その全てを受け入れては我が国がパンクする。その対策として治安が悪い国から我が国とその周辺地域から入国するのには審査も厳しく、入国料も高い。 

 実際、働こうとしても移民を雇い入れるところは滅多にない。

 身元保証人が用意できないからだ。

 働くところがなければ賃金が得られない、そうなれば生活できずに幾らも経たぬ内に浮浪者か貧民街の住人だ。故に国境を接している領地ではそれなりの対策がなされている。

 それでも不法入国者が後を絶たない状況が続いていたのだが。

「ああ、この間国境警備増強のために導入したアレですね」

 そう。彼奴はあの手この手と様々な策と仕掛けを張り巡らせ、それを防いでいる。その防犯設備をこの王都でも利用しているのだ。

 どうやったらそんな手段を思いつくのかと思う。


「アイツの発想は独特だからな」

「一般的な今までの兵法が通用しませんからね。王都が難攻不落の城塞都市になる日も近いのでは?」

 ニヤニヤと笑いながら言うバリウスにアインツが同調する。

 それは魔法や魔道具を使うものばかりではないのが面白いところで、それも暫くすると魔道具で強化される。その繰り返し。防犯設備がどんどんと進化を遂げている。

 その進化の一端を握っているのがおそらく・・・


「それを考えるとヘンリーがあちらに行ってくれたのは僥倖かもしれませんね」

 宰相のその言葉に同意したのはバリウスだ。

「あそこにはサキアスもいるからな。

 この国のトップクラスの頭脳を誇る二人だ。

 まあ扱いにくさもそれに比例しているからそれまで苦労していたのだが。アイツ、イキイキと楽しそうに生活してるぞ。支部の様子を見に行くついでにハルトのところに遊びに行くと滞在中一度か二度くらい爆発か異臭騒ぎが起きて、ハルトとキールが青スジ立ててアイツらの研究室にスッ飛んで行くが」

 そう、ここではそれが大問題だったのだ。

 城内の研究室の壁を空けられたのも一度や二度ではない。

 対面や常識を重んじるこの場所では反感も大きい。

 ホトホト手を焼いていたあの変人魔導士。

「ハルトなりに苦労しているのは間違いなさそうですね」

 アインツが乾いた笑いを浮かべる。

 あの場所にはあの二人に負けず劣らずの変人奇人が多いと聞く。だからこそヘンリーやサキアスのような輩にもある程度は寛容なのだろう。それもハルスウェルト達がしっかり管理しているからこそなのだろうが。

 

 そんな会話を交わしていると扉をノックする音が響き、警護の一人が一通の手紙を持って現れた。それを戸口でアインツが受け取ると宰相に渡し、宰相が封を切って手紙を手渡してくれる。

 それはハルスウェルトのところに潜り込ませている者からの知らせだった。


 その文面に目を通すと私はその内容に目を見開き、思わず声を上げて笑った。

 何か驚くようなことがそのうち起こる。

 そう思った矢先に、コレか。

 全く退屈とは無縁のヤツだ。

 笑いながらそれを宰相に渡すと宰相も驚いたらしく、唖然とした表情で固まった。

 

「バリウス、至急アイツの屋敷に行って確認してこい。

 魔素付きのウォーグを生捕りにしたそうだ。

 しかもソイツはハルスウェルトに怯えているらしいぞ?」


 必死に笑いを堪えてそう告げるとバリウスとアインツも大笑いし始める。

 SSランクの魔獣に怖がられてるだと?

 こんな馬鹿げた話は滅多にない。

 滅多にないどころか聞いたこともない。

 そもそも魔獣はそう簡単に生捕りにできるようなものではない。

 それが最低ランクに近いDやFランクのものであってもだ。

 だからこそ辺境伯が育成している獣馬も馬型の魔獣が捕らえられなくてなかなか増やせなかったのだ。いや、それらを無傷で捕らえて辺境伯のところに彼奴は届けていたのだ。

 今更驚くほどのこともないのかもしれないが。


 群単位とはいえSSランクだぞ?

 オカシイだろう?

 アレは最早規格外というような言葉では片付けられない。

 こちらの想像の遥か上を行く。

 成程、バリウスが言っていた言葉にも合点がいった。

 魔素付きウォーグが怖れる相手に刃向かおうなんて魔獣(ヤツ)は馬鹿だ。

 やはりアレは既に色々な意味でこの国最強であることには間違いない。


 彼奴のことだ。

 その様子を見てさぞかしショックを受け、しょげていることだろう。


 その光景が容易に想像出来てありありと浮かび、重大案件であるのにも関わらず私達四人は暫く笑いが止まらなかった。



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