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生まれ変わったら天才少年? 〜いいえ、中身は普通のオバサンなんで過度な期待は困ります  作者: 藤村 紫貴
第三章

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第九十八話 なんでこうなるのかなと思うのです。


 閉廷してすぐにフリード様を探したが、既に帰られた後だった。

 通常、公でこういう申し渡しがされた場合、翌日以降に書面が発行され、その担当部署のトップがサインをし、二、三日中に本人の元に届けられて正式な処分となるため自宅待機が基本だそうだ。フリード様は緑の騎士団所属だったわけだが団長のところにまだその書類が届いていないので慌てなくても明日屋敷に戻れば会えるはずだと言われてホッとする。


 とりあえずその後の舞踏会は適当に、いつものように壁の花。

 と、いうわけにもいかず、イシュカとレインに挟まれて付き合いの増えた地方の領主の方々と歓談しつつ過ごしていると挨拶を終えたフィアが人混みをかき分けてやって来た。


「ハルトッ」

 フィアが動けば人垣が割れる。

 王太子なのだから当然と言えば当然なのだけど。

 これ以上注目を浴びたくはないので近寄って来て欲しくは無・・・

 いや、それも今更か。

 既にこちらには無数の好奇な視線が向けられている。

 気になるのなら声を掛けてくればいいのに、それでも声を掛けてこないということは何か後ろ暗いことでもあるのだろうか。

 いくら魔王な私でも善良な方々に食ってかかりませんよ? 

 私にとって喧嘩とは買うものであって売るものではありません。

 閣下と辺境伯も一応出席しているがあまり目立たない位置に陣取っている。お咎め無しとはされたけど、しっかり罰則金は課されたので若干遠巻きにされているようだがそこはポッと出の成り上がりな私と違って付き合いが長い貴族もいるだろう。それでも周囲にチラホラと人の影が見える。

 フィアがやって来たことで殊更私の周りに人が増え、私は苦笑いする。

「色々と忙しくて直接連絡に行けなくてゴメン」

 そりゃあそうですよね。

 奴隷解放とその聞き取り調査、マイエンツ達の罪状の洗い出しと整理も終わらない内に私の思いつきで余計なもの持ち込んだ。それには少々罪悪感がしないでもないけれど。

 私は微笑って首を横に振る。

「それはいいですよ。忙しいの、わかってますし」

「一応農地の国営化については近日中に議会に掛けて下さる約束を陛下に取り付けた。良い判断だと誉めて下さったよ。実現できるかどうかは私次第だとは言われたけど」

 あらまっ、随分と早い。手回しの良いことで。

 即断即決の行動力、流石は次期国王陛下。判断が早い。

「凄いですね。是非頑張って実現して下さい」

「ありがとう。でも本当に良いのかい? 

 ハルトのところで仕切ることもできただろう?」

 それなりに儲かる話だろうとでも言いたいのかな?

 そうですね。でも、

「あまり手を広げすぎるのは宜しくないかと。ウチは主に育てていただいた物を買付け、加工するのが仕事ですから」

 ハルウェルト商会は国家ではない。

 民を救うのは国の仕事。自領の民というならばまだしも、素人が下手に手を出すより農業経営に詳しい人がやるべきだ。父様が既に兄様に跡を譲って私のところへ来てくれていたなら話は変わっていたかもしれないが、慣れて事情も知っている食糧生産量の多い各地方、地元に任せた方がいい。

 職を失う人々が多ければその地方の経済も治安も悪化する。

 だが働く場所があればそれも防げる。

 そういった政治はハルウェルト商会の分野ではない。

 マルビスが手配出来るとは言っていたし、ロイも父様の秘書をしていただけあってそれなりに詳しい。でも仕事が増えすぎて管理が行き届かなくなっては本末転倒だ。国で管理してもらった方が私を敵対視してウチを敬遠している領地でも問題が起きにくい筈だ。

「なんの話ですか?」

 フィアと私の話に興味を持って、取引先の一つである領主が声を掛けてきた。

 私のところで管理するわけではない以上、口出しし過ぎるのは良くないだろうと私は事情説明をフィアに任せ、二歩ほど後ろに退がって聞き役に徹する。

 

「今回の一件で捕まった大地主の管理していた農地で差し押さえになった規模が結構大きくてね。このまま耕作放棄地になると国の食料事情にも影響が出てくるんじゃないかって話が出たんだ。それで今後のことも考えて、新たな経営者が見つかるまで国でそこで働いていた人を雇って食物生産をしたらどうだって提案があってね」

「それはまた先を見据えた素晴らしい提案ですね」

 ハイ、国の食糧生産率が落ちればウチも困りますから。

 是非実現させて頂きたい。

 地方領主達から感嘆の息が漏れ、興味深そうに耳を傾けている。

「ハルトが基盤となる仕組みを考えて提案を持ち込んでくれたんだ。これからも違反者の取締強化をすればこういう事態が出てくるかもしれないだろう?

 だから今はそれを議会でどうやったら通せるか監査局で検討しているよ。朝会会議に出席することがあったら是非いい案があれば協力してくれ」

 いやいや、ウチが絡んでいることは口に出さなくてもいいんです。

 こっちはこっちの都合で持ち込んだ提案。

 むしろここで名前は出さないで欲しかった。

 こういう場合、大抵回り回って私の耳に届く頃には話が大きくなって伝わっているものだ。そうなるとまた坂道を転げ落ちるように、いや、過大評価、誇大解釈されて伝聞されることが多いから坂道は駆け上がっているのか? 

 とにかく本人の意志とは無関係の妙な方向に転がるので是非とも止めて欲しい。

 だが今更否定するわけにもいかず、フィアに口止めしなかったことを悔いる。

「良いのですか? そのような話を議会にかける前に私達の前でしても」

 尋ねられてフィアが答える。

「勿論だよ。既に法案を通す目処はついてるし、近々議会で議題にも上がる予定でいる。後はどう頭の固い上層部を説得するかなんだ。ここにいるのはハルトのところのビニールハウス経営に関わりがある者達だろう? 

 ならば農業経営には詳しいかと思って意見を聞きに来たんだ」

 それで挨拶が終わるや否やフィアは真っ直ぐにこちらに向かって来たのか。


 確かにそれならば彼等に聞けば間違いはない。

「成程、そういうことですか。

 ならば私達でも多少なりとも殿下のお力になれるやもしれません」

 ヨシヨシ、上手い具合に私から話題が逸れた。ここはそうっとさりげなく退席、役立たずの私はこの場から消えてしまえば下手な流れ弾に当たることないだろう。

 顔に笑顔を張り付けたまま、そろりそろりと後ろに一歩、また一歩と足を引くと、それを目敏くフィアが見つけた。

「ハルト、何処へ行くんだい?」

 しまったっ!

 これは邪魔をしないようになどと言わず一目散で逃げるべきだったか?

 とりあえず言い訳がましく話題を逸らしてみる。

「私はそちらの経営については詳しくありませんので、父が会場にいた筈だと思い、呼んで来ようかと」

 こういう時の父様頼み。

 父様がこういうことに関して頼りになるであろうことも嘘ではない。

 すると上手い具合に地方領主の一人が話を繋げてくれた。

「グラスフィート侯ですか。シルベスタの穀倉地帯と呼ばれる領地を経営するあの御方であれば確かに私達よりもお詳しいでしょう」

 そうそう、父様の方が頼りになりますよ?

「はい、父であればきっと私よりもお役に立てる筈です」

 だから私を巻き込まないで下さいね?

 折角フィアに押し付け・・・違う違うっ、提案を持ち込んだのですから。

「そんな御謙遜を。近隣諸国の中でも最大規模を誇るハルウェルト商会のオーナーであるハルスウェルト様が何を仰いますやら」

「そうですよ。是非ともその経営手腕についてお伺い申し上げたいものです」

 経営手腕? 

 ナニソレ?

 確かに私は商会オーナーですが、実際に取り仕切っているのはマルビスですし、領地経営もシュゼットとロイとビスク達にほぼ丸投げですよ?

 私は単なるお飾り、不本意ながらの広告塔。

 たいしたことはできません。

 第一、事あるごとに陛下が余計な仕事を押し付けてくるんです。

 私の身体は一つだけ、分身の術など使えません。

 ってことを言い訳にしてきたわけですけど。実際、陛下にも『シュゼットを送ってやっただろう』、『マルビスやゲイル、ビスクもいるだろう』、『お前のやっていることは一体なんなのだ』と、言われれば反論もできないわけでして。

 決して仕事をしてないわけではありません。

 色々なものに手を出し過ぎた結果、自分の首を絞めてるだけで。

 私より仕事ができる人達が周りに沢山いるだけで。


 ・・・・・。

 なんだか言い訳してたら自分が情け無くなってきましたよ。

 いやいやいや、私はこれから、これから。

 領主として領民のために無料の学校と図書館の建設計画を。って、それも殆どマルビスやゲイル達が仕切ってくれている。私は予算計画書が回ってきたらサインして、ロイに手伝って貰いつつ、隠し部屋ならぬ金庫室から金貨を出して。

 これってもしかしなくても単なる金庫番?

 資金さえ提供すれば私がいなくても仕事が回るのでは?

 私は結局のところ雑用係?

 落ち込みつつも乾いた笑いを浮かべつつ、正直に答える。が、

「すみません。私は思いつきだけで中身が付いて回らないのです。恥ずかしながらおおよそのことはわかっても詳しい話まではちょっと」

 正直に話したところで十中八九、謙遜だと取られているんだろう。

 まごうことなき真実なのに。

「ハルトの壮大な思いつきを形にできる者達が君のところにはいるからね」

 そうですよ。

 壮大かどうかは別としてフィアの言う通り。

 行き当たりばったりに頭に浮かんだことをうっかり口にし、それを商魂逞しいマルビスや珍しいものや新しいものに目がないテスラが片っ端から形にしてるだけですよ。前世の知識がなければ魔力量が多いだけの凡人以下の存在ですから。魔獣(ムシ)避けにはなっているようなので役立たずではない・・・とは、思いますが。

「彼等がいなくては私の商会も領地もきっとすぐに経営傾きますよ」

 私がいなくても回るのがハルウェルト商会。

 だが、それで良いとも思う。

 誰かが欠けた途端機能停止しては大勢の従業員達が路頭に迷う。

「ですが、それもハルト様の発想無くして成り立たないでしょう?」

「そうだよ、ハルトの考えるものはいつも面白いから」

 イシュカとレインがそう言ってくれたけど、それは違う。

「形にできなきゃそれもただの夢物語、マルビス達がいてこそだよ」

 面白い話を語ったところで空想で終わるだけなのだから。

 私は苦笑して告げる。


「申し訳ありませんが諸用が御座いまして、そろそろ失礼させて頂こうかと思っておりますので、父に声を掛けてから退席させて頂きますね」

 以前よりもマシになったとはいえ社交場は相変わらず苦手だ。

 ボロを出す前にサッサと退散するに限る。

「ハルトも主賓の一人でしょ。そんな早く退席してもらっちゃ困るよ」

 フィアはそう言うけど、私がいない方が良いと思ってる方々は多いと思うよ?

 別にいいケド。

「主役は一人いれば充分。殿下がおみえになれば大丈夫ですよ」

 ここは華を押し付け、逃げ出・・・違う違う、お譲りして退場の方が良いと思うのですよ。魔王様が降臨したままでは他の方々の気も休まらないでしょうから。

「本当に帰るの?」

 出席しないわけにはいかないから顔を一応出しただけ。

 本当はこんな堅苦しいところは出たくないし嫌いだ。流石に今回はシュゼットに押し付けるわけにはいかないので仕方なしに参加したけど。

「早く戻ってテスラとロイ達の手伝いをしたいんです。アレの準備は人手が要りますので」

 今日のとっておきのスペシャル。

 明るいうちでは目立つので人目を忍んでの決行だ。

 そのために今日は学院の競技場を陛下が空けて貸切にしてくれている。

 あそこは郊外に位置しているし、部外者は容易に入れない。ある程度広い場所もあって観覧席に囲まれているので尚更目につきにくい。夕闇に落ちたくらいからテスラが中心になって学院支部のメンツと一緒に取り掛かってくれているはずだ。

 私その言葉にフィアが軽いため息を吐く。

「そうか。そうだね、今日は仕方ないか」

 わざわざ今日のこの日にした理由。

 それは今夜、この城に注意が向いているからだ。

 深夜の闇に紛れての初めての有人での試験運転だ。

 意味深な私達の言葉に貴族達は騒めく。

「また何か計画されているのですか?」

 してるというか、まあそうですね。

 主に金持ち貴族相手のボッタクリ営業の。

 ここは秘密にしつつ期待値を煽っておくとしよう。

「ええ。ですが少しばかり特殊でして。申し訳ありませが秘密とさせて下さい。まだ御披露目の計画も目処も立っていませんので」

 私は曖昧に微笑って言葉を濁す。

「陛下と殿下は御存知なのですか?」

「話だけはね。でも本当にまだ準備段階にも入っていないから」

 尋ねられてフィアも適当に誤魔化した。


「では陛下に宜しくお伝え下さい。では失礼致します」


 ぺこりと頭を下げるとイシュカが会場から見つけてくれた父様に一声かけて、居心地の悪いこの場所からサッサと退散を決め込んだ。



 そうして一旦馬車別邸に戻り、動きやすい格好に着替えて獣馬に乗り換えると学院に向かう。

 年明け近くから更に多くの密偵に見張られていたようなのだが、獣馬の脚に付いてこれるわけもなく途中からいつも尾行も消えるらしい。そもそも私は探知能力がザルなわけだが私の取る移動手段は殆どが馬車ではない。だから追跡での尾行は難しいし、行動範囲が広いのでアタリをつけるのも厳しいので行動の全てを把握するのは普通のヤツには無理だろうとガイは言う。

 獣馬でなければ商会の船籍に乗ることが多いので船に不審者は紛れ込めない。運良く紛れ込めたとしてもそこから馬で移動すればその先が付いてこれない。なので張り込みは屋敷周辺が中心、それも屋敷内にはポチが徘徊しているせいで無理ゲー、放っておけばその内私の動きを探るのは難しいと判断して数も減るだろうというのがガイの見解。とりあえずは領地内の宿屋は全てウチの商会経営なので不審な客や異様に長い滞在客はチェック、そちらは気が付かないフリをしつつ適当に泳がせているということだ。

 大抵前もって予定が決まっている時は商会の定期便で荷物を先に現場に運び込み、殆ど身一つで移動する。忙しいが故の時間短縮に使っているこの手段が功を奏しているというわけだ。

 

 そうしていつものように獣馬を駆り、到着した学院内ハルウェルト商会支部。

 馬を繋ぐために向かった先の馬小屋に、ここにいるはずのない緑毛の獣馬を見つけて私は頭を抱えた。

 私の行動には予定外、想定外はつきものだ。

 その度に毎度毎度思うのは私に順調という単語がつくづく縁遠いということだ。

 

 私は何か悪いことをしたのでしょうか?


 そう思って天を仰いだ空には、哀しいほど綺麗な星々が煌めき、月が輝いていた。



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