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生まれ変わったら天才少年? 〜いいえ、中身は普通のオバサンなんで過度な期待は困ります  作者: 藤村 紫貴
第三章

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第九十七話 珍しく、欲しいものがあるのです。


 マイエンツとレッドベルグはどう足掻いても覆せない事実を並べられ、絶望に打ち拉がれた姿を晒し、牢へと兵に連れられて行く姿を見送ったところで陛下の御前に二列で並ぶ。フィアを挟んで閣下、辺境伯、フィアの後ろに私、その左にイシュカと右の閣下の後ろにレインという配置。

 『面を上げよ』との御言葉にゆっくりと顔を上げる。


「良くやった。フィガロスティア、レイオット侯爵とその次男レイバステイン、ステラート辺境伯、アレキサンドリア侯爵、イシュガルド。

 よくぞ此度の不法奴隷所持者一斉検挙の任、見事に果たしてくれた」

 通夜のような暗い雰囲気の中、陛下の声が響き、空気は一転した。

 勿論、代表として応えたのはフィア、この国の第一皇太子殿下だ。

「お褒めの言葉を頂き、光栄至極に存じます。

 これも私を支えてくれる者あって成し得たこと。私一人で成せた功績ではありません。この場に呼ばれた者以外にも多くの者の力を借りられたからこそと存じます」

 陛下がフィアの言葉に頷く。

「当然だ。人は万能ではない。故に我々はこれからも己に力を貸してくれるより多くの良き理解者をよく見極めねばならない。そしてそれは権力に驕ってはそれは得られぬ」

「はい。私もそれはよく存じています」

 チラリとフィアが私の方に視線を流した。

 ハイハイ判ってますよ〜、これからもフィアの力になれってことでしょう?

 私の手伝える範囲、出来ることでしたら協力致しますよ。

 親友ですから。

「ならば良し。これからも国の繁栄のために私に助力してくれることを願うぞ?」

 フィアの言葉に満足して陛下が頷き、問う。

「勿論で御座います。この国の第一王太子として陛下のお役に立てるよう今後も精進し、努めて参ります」

「期待している」

 当然。フィアは充分私が居なくても立派に王太子のお役目果たしていると思いますけどね。優秀、有能な方達が周囲に揃ってるみたいですから。ただ今回のようにどうしても人手が足りないこともあるでしょうから、その時はお手伝い致します。

「其方達もよくぞフィガロスティアを支えてくれた。礼を言う」

「ありがたき幸せ。当然のことをさせて頂いたまでのことで御座います」

 閣下が私達を代表して答え、私達は閣下に合わせて頭を下げる。

 ここまでは問題ない。

 問題があるのはこれからだ。閣下と辺境伯が少しだけ間の空いた時間の意味に気がついてピクリと身体を強張らせる。普通なら褒美を取らせるから何が良いかと仰られるところだが、その言葉を掛けられない事情がある。

 陛下が躊躇いを演出しつつ、口を開く。

「この功績を褒め称えたいところだが、少々問題があってな」

 一旦言葉を途切ったのは言わなくても判っているだろうと言うことか。

「レイオット侯爵、ステラート辺境伯?」

 呼び掛けられて、だが俯くことなく堂々と御二人は前を向いた。

「はい。存じ上げております。此度の部下の不始末、面目次第も御座いません。どのような処断でも承る所存で御座います」

「部下の不始末は上に立つ者の責任。無様な言い訳を並べ立てるつもりは御座いません。容赦無き裁きをお与え下さい」

 そう言って揃って頭を下げる。

 どよめく場内は、その情報がまだ回っていなかったという証拠だろう。

 それはフィアの地方監査局が王都から離れているとはいえ徹底した情報統制管理がなされているという証拠だろう。

 流石は私の親友。しっかり部下の信頼を勝ち取り心を掌握しているようだ。

 二人の誤魔化しも、慈悲を乞うこともしない、その覚悟に陛下が微笑う。

「その潔さ、天晴れよな。アレらとは格というものが違う」

 陛下のチラリと向けた先は先程最後まで往生際悪く、処断されたマイエンツ達が消えた方向だ。

「だが、だからといって安易に許容するわけにもいかぬ。

 それでは下の者に示しもつかぬのでな」

 確かに。それで済めば警察、ではなかった、近衛と衛兵は要らない。

 それが辺境伯の言う、上に立つ者の責任というものだ。

「心得ております、それも当然で御座いましょう」

「どうぞ存分に罰をお与え下さい」

 閣下と辺境伯はそう言ってひと呼吸おくと再び口を開き、宣言する。

「ですが、必ずやまた陛下のお役に立ち、今の地位まで返り咲いてみせます」

「レイオット侯に同じく。落ちた名誉は己が代で取り戻してみせます」

 このままで堕ちたりしない、努力を怠らないというそれは宣誓だ。

「その心意気や見事。ではそれを期待して待つとしよう」

 陛下は満足そうに頷き、そしてこう続けた。

「しかしながら今回の件での多大なる力添え、その褒美も取らせねばならぬ。

 さて、どうしたものか」

 こういうところはやはり王たる器というものか。

 まずは戒めるべきところを戒め、誉めるべきところは誉める。

 上げて落とすのと落として上げるのではどちらが人にヤル気を起こさせるか。人を動かす術をよく判っている。そしてそれを陛下自ら口にしない方が良いことも。

「陛下。御二人は我が国でも屈指の武人。その御力は我が国の戦力、防衛にも欠かせないものであります」

 宰相が耳打ちというには大きすぎる声で陛下に進言する。

 おそらくこれは計算だ。

 自ら口にしては『甘い』とか『贔屓』とも取られかねない。

 閣下達の性格を理解した上で画策したのだろう。

 まあ私としては御二人に厳しい処罰が下らない方が良いのでシカトを決め込み無言を貫く。陛下の視線が御二人にでなくジッと私の頭上に注がれているのは気になるところではあるけれど。

 妙な期待はしないで下さいよ。

 私に『察しろ』は無理です。

 正面から言われても気づかない時があるのがオカシイと、ガイに太鼓判を押されているほどには鈍いんです。そういうのが得意な方に是非振って下さい。さりげなく視線を逸らすと陛下にギロリと睨まれた。

 おお怖い。

 小心者に国内最高権力者の人睨みはお止め下さいな。

 そんなことを口にすれば大嘘吐きと罵られそうではありますが。

 陛下が仕方がないと言った風情で溜め息を吐く。

「まあそうだな」

 だって御二人にも止められているんです。

 余計な手出し、助け舟は不要と。

 約束は破るわけには参りません。

 思案げな顔を取り繕った陛下に宰相が再び提案する。

「御二人の威厳崩すのは良策ではありませぬ。

 今回の一件、部下の不始末が無ければ褒賞と更に上の爵位を与えるに相応しいもの。しかしながら御二人は既に上位の位。それを鑑みるならば差し引きで御咎めなしとする代わりに褒賞を与えるのも見送るという形が宜しいのではないかと」

 だいたいサイラスの予想通りだ。

 功績を上げれば爵位も上がることが多い、だから上げたと仮定して下げる。つまり元のまま、プラマイゼロってわけだ。

 陛下が眉を顰めて苦言を呈する。

「それでは上に立つ者の責任として甘過ぎるのではないか?」

「ならば今回の処罰に関する罰則金だけ課すというのは如何でしょう。但し、恩赦の代償として、その倍額相当の支払いというのは?」

 ゲッ、なんてこと言うのっ!

 そう思ったのは私だけではないようで会場が大きく騒めいた。

 罰則金はそれなりに高い。位が高ければ尚更高額になるのがこの国の法律。普通の貴族であれば財政が逼迫、傾きかねない。そりゃあ二領とも財政は豊かな方だけど、その金額次第ではかなりキツイ。

 多分私が二人のところで散財したの、耳に入ってるんだろうな。

 意地が悪いですよ、陛下、宰相。

 私は心の中で舌打ちする。

 ギリリと睨みつけた私に陛下がしてやったりとばかりに目だけで嗤う。

「レイオット侯爵、ステラート辺境伯。宰相の提案に異論はあるか?」

「御座いません。仰せの通りに」

「謹んで私もお受け致します」

 陛下からの御言葉で反論できるわけないでしょうっ!

 しかも御二人はさっき公衆面前で大見栄を切っている。

 否と言えるわけもない。

 ここ数年、ウチから多額の税金が国庫に入っているでしょうがっ!

 財政は豊かな筈ですよっ!

 ガメつく御二人からボッタくらないで下さいよっ!


「是等の処罰に反対の者はおるか?

 不服のある者がいるならば手を上げ、異論、代案を遠慮無く申し出よ」

 陛下に尋ねられて正面から反論できる強者は殆どいないだろう。

 しかも普通に考えれば結構な額になると思われるそれは罰として文句を付けられる筈もない。

 宰相はぐるりと会場を見回して呟く。

「いない、ようですね」

 ・・・そりゃあそうでしょうね。

 傍聴客は所詮他人事。関わりたくないに決まっている。

「ではレイオット侯爵とステラート辺境伯の褒賞、処罰はこの案で決定とする」

 陛下の声で処分決定が言い渡された。

 まあおそらく、御二人には私が付いているから問題ないと思っているんでしょうけどね。


 勿論、放ってはおきませんよ?

 私の心強い味方の方々を没落なんてさせてなるものですか。

 素直に援助の申し出を受けるような方達ではありますが、そこはそれ。押し付ける方法はいくらでもある。

 


「さて、ではアレキサンドリア侯爵、ハルスウェルト。

 今回も並々ならぬ助力と見事な手腕でフィガロスティアを支え、尽力してくれたことに礼を言うぞ」

 ケロリと何事もなかったみたいに言わないで頂けませんかね?

 陛下。

 私はこれ以上の地位も権力も要りません。

 そこのところ、判っているんでしょうね?

 微妙に上がっている口角がどうにも気になって仕方がない。

 また裏で何か企んでいるんじゃないでしょうね。

 本当に腹黒いったらないんだから。

 そうは思えどそれを口にするわけにもいかず、表面上はにこやかに対応する。

「過分なる評価、誠にありがとう御座いません。ですが」

「わかっておる。いつものことだ、其方だけの力ではないと申すのであろう?」

「はい。仰る通りで御座います」

 しれっと定番の文言を返す。

「ならばその褒美もいつもと同じく部下を労うための酒で良いのか?」

 そうですね。それも勿論考えていましたよ?

 ここに来るまでは。

 でも今は違う。

 ダメでもともと、言ってみるだけなら問題ないだろう。

 ここは公式な場。

 後から訂正では噂が先行してしまう。それはできれば避けたい。

 私は真っ直ぐ陛下を見て口を開く。


「いえ。今回は一つ、お願いを聞き届けて頂きたく存じます」

「なんだ? 申してみよ」

 陛下の許可を取ったところで願い出る。

「私への褒美はいりません。代わりにフリーディアス・ラ・アストラエル侯爵様への処分を撤回して頂けないでしょうか?」

 フリード様には多大なご迷惑をかけ、御世話にもなっている。

 もともと調査隊の同行も嫌がるであろう私のために付いて来て下さった。それを思えば私が彼の方を巻き込んだようなもの。絶対に不名誉な除籍なんてさせてたまるものか。

 私への褒美なんて要らない。

 地位も名誉も興味はない。

 欲しいものは自分で手に入れる財力もあるし、それが金で買えないものであるならば、尚更私はそれは自分の力で手に入れる主義だ。与えられたくなんかない。

 でもフリード様の処分だけは私の力ではどうしようもない。

 だがその願いも虚しく、

「それは出来ぬ」

「何故ですかっ」

 却下されたのが納得できない。

「これは当人の望んだものでもあるからだ」

 ・・・えっ?

 なんで? なんで、そんな不名誉なことを?

「それに己が犯した失敗は己の力で取り戻すものだからだ。他人の手を借りるものではない。

 違うか? ハルスウェルト」

 陛下に突き付けられた正論に、私は言葉を失う。

 そりゃあそうだけど、でも、今回のはフリード様に落ち度はない。

 マイエンツ達の息子が忠告を無視しただけだ。

 でも確かに調査隊の研究員達を護るのは騎士団の務め。責任を果たせなかったと言われたら言い返せないかもしれないけど、そもそもこちらの意見を聞く気がなかった相手だ。どう考えてもフリード様の処分はトバッチリだ。だが、責任を取れと言われたら連隊長とフリード様、どちらが被った方がマシかと判断された結果なのだろうけど。

 釈然としない。

 なんで立派な彼の方があんな犯罪者の馬鹿息子の犠牲にならなきゃいけない?

 私がアイツらを煽ったから?

 もっと上手く立ち回っていたら?

 でもアイツらは最初から私を敵対視していた。どんな言葉で伝えたところで聞き入れてくれたとは思えない。それにあんなのの御機嫌取りなんて絶対私にはできない。ああいう輩は下手に出ればドンドンつけあがる。私に突っかかってくるだけなら適当にあしらいもする。でも私の仲間を下に見て、嘲笑ってた。平民だって馬鹿にして。

 あれは絶対許さない。

 仲間を馬鹿にされたまま黙ってなんかいるもんか。

 大馬鹿のド阿呆に仲間がコケにされるのは我慢ならない。

 あんなのの付き添い、押し付けて来たのは陛下でしょっ、なんとかしてよっ!

 そう叫びたいのをグッと我慢して唇を噛み締めて俯いた。

 でも他に欲しいものも、お願いしたいものも何もない。

 流れる沈黙を破ったのは宰相だった。


「ならば陛下。アストラエル侯爵がマイエンツ達の巻き添えを食ったということを考慮するなら除隊ではなく、退団扱いにするくらいならば構わないのでは?」

 除隊ではなく、退団扱い?

 私は思わず顔を上げる。

 それは騎士団所属で無くなることには変わりは無い。

 だが意味が大きく異なる。

 前世の言葉を借りるならクビか依願退社かの違いだ。

 つまりフリード様の騎士団在籍は叶わないが名誉だけは守られるということだ。

 私は希望を見出して身を乗り出す。

「ふむっ、どう思う? アインツ、バリウス」

 陛下が思案げに二人に尋ねる。

「私もあの化物退治に尽力、御力をお貸し頂いたことを思えばその程度の配慮は必要かと思われますが」

「俺もだ。アストラエル侯爵もある意味アイツらの被害者とも言えなくもない。罪人というわけではないし、今までの国への貢献度からすれば足りないくらいだと俺も思うが」

 連隊長っ、団長っ、ありがとうっ!

 そうだよね?

 フリード様の名誉はあんな馬鹿親子如きに堕とされて良いものじゃない。

 私は期待に満ちた目で陛下を見上げる。

「よかろう。では、それでよければ叶えてやろう」

 やったあっ!

 そりゃあ取消が一番ベストだけど、不名誉な汚名が刻まれないだけでも違う。

「ありがとう御座いますっ」

 私は思わず大きな声で礼を言った。

「イシュガルド、レイバステイン、其方達もそれで構わぬか?」

「ハルスウェルト様が望まれるのでしたら。あの御方には私も大変お世話になっておりますので異論はありません」

「僕も構いません。お願い致します」

 ホッとして安心したら目尻から涙が溢れた。

 良かった、本当に良かった。

 陛下から貰った褒賞で一番嬉しかったものであることは間違いない。


「ではハルスウェルト。今後も引き続きフィガロスティアへの力添え、期待しているぞ」

「御意に」


 それは言われるまでもなく。

 陛下がそれさえ叶えてくれなかったら逆恨みしてたかもしれないけど。


 名誉さえ守ってくれたなら後はどうとでもなる。

 退団扱いなら退職金も出る筈だ。

 屋敷に戻ったらまずはフリード様の御希望を聞いて、出来ればウチに是非スカウトを。


 そんなことを算段しつつ、閉廷となったそこを私は軽い足取りで退出した。

 この後、夜に開かれる舞踏会に出席し、真夜中の人目を避けて例の物を国の重鎮達にお見せすれば今回の王都での御役目も終わりだ。そしたらサッサと屋敷に帰って、やっと私も自領の仕事に本腰を入れられる。

 マルビスとシュゼットに任せておけば問題無いとは思うけど、そこはそれ。

 一応私も曲がりなりにも領主であることだし。


 やりたいことは山ほどある。

 だから私を陛下の悪巧みに巻き込まないで下さいよ?


 私はとても忙しいのですから。



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