第六話 宇宙人の警告
※ここから新規エピソードになります。
高校の廊下を歩いていた時だった。
「紫藤辰也君だよね?」
突然、横から声をかけられた。
振り向くと、見覚えのない男女が立っている。二人とも制服を着ている以上、この学校の生徒なのだろう。
だが――。
「そうだけど……誰?」
辰也の記憶にはない。
「ちょっと来て」
「え?」
返事を待つ気はないらしい。女に腕を掴まれ、男には背中を押される。
「いや、ちょっと待てって。どこ行くんだよ」
「すぐ終わるから」
「何が?」
答えはない。
そのまま半ば強引に階段を上らされ――。
連れてこられたのは、屋上だった。風が吹き抜ける。昼休みだというのに、人影はない。
扉が閉まると、女が辰也へ向き直った。
「そいつとは付き合わない方がいい」
「……そいつ?」
「君と一緒にいる奴だよ」
男が続ける。
「僕たちは、それのせいで戦争する羽目になったんだ」
「戦争?」
あまりにも話が飛躍している。辰也が眉をひそめると、頭の奥から青年の声がした。
『人のせいにするのはよくない』
その瞬間。二人の背後に、ぼんやりと何かが浮かび上がった。
辰也は目を細める。
女の背後に浮かんでいるのは――トカゲのような人影。鱗に覆われた皮膚。人間とは明らかに違う顔。
そして男の背後には、灰色の肌をした細身の人影が浮かんでいる。大きな頭に、大きな黒い目。
「……宇宙人?」
どうやら二人とも、人間に化けているらしい。
少し前の自分なら、叫んでいたかもしれない。だが今さら宇宙人が二人増えたところで、驚く気にもなれなかった。
「そういうのもいるのか……」
辰也が呟くと、女が怪訝そうな顔をする。
「驚かないの?」
「最近、色々あったんで」
「……そう」
女はそれ以上追及せず、話を戻した。
「こいつが追放した将軍を呼び戻したせいで、私たちは結局、戦争することになってしまったの」
『僕が呼んだわけじゃないよ。勝手に突っ込んできたんじゃないか』
青年が即座に反論する。
『大体、自分たちのいざこざは自分たちで解決するのが筋ってもんだろ』
「こっちの兵器開発にも協力したんだ」
今度は男が言った。
『あんたら喜んでただろうが! 大体、協力させたのはそっちだろうに』
「…………」
辰也は黙って二人を見る。二人には青年の声が聞こえているらしい。だが、まるで存在していないかのように無視している。
女は辰也だけを見て言った。
「とにかく、警告はしたから」
「そんなのと付き合ってると、ろくなことにならないよ」
男もそれだけ言うと、屋上の扉へ向かう。
『こっちの存在は無視かよ。聞こえてるぞ、君たち』
二人は振り返りもしなかった。扉が閉まる。残された屋上に、風の音だけが響いた。
「…………」
辰也はしばらく扉を眺めていた。それから、小さく息を吐く。
「随分と恨みを買ってるみたいだけど、なんかやったの?」
『人助けをやっただけだよ』
「戦争になってるけど」
『結果的にね』
「兵器開発にも協力したって」
『人助けの一環だよ』
「ふーん」
辰也はフェンスに背を預けた。
「俺もそろそろ、君との付き合いをやめる時期に来たのかもしれない」
『え?』
「十分楽しんだし、普通の高校生に戻ろうかな」
『まあ落ち着けよ。契約は延長するはずだろ?』
返事が妙に早かった。
辰也は眉を上げる。
「なんでそっちが焦るんだ?」
『焦ってないよ』
「いや、焦ってるだろ」
少なくとも、いつもの青年とは少し違う。
辰也はそのまま続けた。
「最初は乗り気じゃなかっただろう?」
『まあ、そうなんだけど……気が変わったんだ』
「都合がよすぎる」
『まあとにかく、悪いようにはしないから。な?』
「…………」
妙だった。
最初に出会った時は、願いを一つ叶えたらさっさと帰ろうとしていたはずだ。それが今では、辰也の方から関係を切ろうとすると引き止めてくる。
「なぜそこまでする?」
少しの間。青年から返事がなかった。
『約束があるんだよ』
「約束?」
『そう』
「なんだそれ?」
『まあ、とにかく』
いつもの軽い調子に戻る。
『俺は君の味方だからさ』
「……余計なことはするなよ?」
『分かってるって』
「本当かよ」
辰也はため息をついた。
結局、何の約束なのかは教えてくれなかった。




