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第二十六話 二人のはなし


「珍しいですね。あなたが一人とは」


風祭雫は、目の前に霊体で現れた青年を見て言いました。


「ちょっとお話をしにね」


「何のお話でしょうか」


「いろいろあるんだよね。そうだなあ、例えば」


「たとえば?」


青年は少し考えるように首を傾けました。


「最初に蒼ちゃんと会った夜、悟空と戦ってる時に弓が飛んできたけど――」


「あれは私ですわ。兄を助けようと思って」


雫はあっさりと認めました。


「なぜ今まで言わなかったのかな?」


「言ってませんでしたか?」


「聞いてないよ」


「そうでしたか。それはすいません。聞かれたら答えるつもりでしたが」


悪びれた様子もなく、雫は答えます。


「その結果、お兄さんが襲われたわけだが」


「残念な結果ですわ。兄には悪いことをしたと思っています」


「白雪ちゃんにも当たってたかもしれないし」


「白雪ちゃん?」


雫は一瞬考えます。


「あ、あの女の子のことですか? 普通の人間には当たっても危険はないはずです」


「じゃあ問題ないか。あの子、いい子だし」


「ええ。私と違って」


「あはは」


「うふふ」


二人は笑いました。


笑いが収まったところで、青年が続けます。


「そもそも、蒼ちゃんは影に操られてなんかいたのかなあ」


「私のそばにいた蒼の魂は本物です」


「向こうに入ってたのも本物でしょ。あの探偵の言っていたみたいにさ」


「ありえませんわ」


雫は即座に否定しました。


「その自作自演がバレかけたから、辰也と悟空を仲間割れさせようと考えた。それで過去の俺に、辰也に化けて悟空を襲わせたんだろ?」


「言いがかりですわ」


雫の表情は変わりません。


「仮に本当だとしても、悟空様を襲ったのはあなたの暴走ではないですか」


「まあ、そこは認める」


「ほらみなさい。人のせいにしないでほしいですわ」


「最後に一つだけ」


「なんですか」


「蒼ちゃんは何故、生き返ったんだい?」


雫は少しだけ首を傾げました。


「あなたが生き返らせたのでは? 過去のでしたか?」


「でも、僕が蒼ちゃんに初めて会ったのは、あの新宿の夜だったはずなんだよね」


「ですから、その前に過去のあなたが蒼を生き返らせたのでは?」


「その時にはもう、蒼ちゃんは実体を持って逃げていたんだ」


「じゃあ、蒼は何故目を覚ましたのですか?」


「それは分からないけど」


青年は少し考えてから言いました。


「辰也の代わりに学校で使ってる分身が、最近一つ足りない気がするんだ」


「不思議なこともあるものですね」


「不思議だよね。誰かにパクられたのかな」


「過去のあなたが蒼を生き返らせた時に、使われたのでは?」


「それもなくはないけどなあ」


「その時のことを忘れているだけではないですか?」


「うーん」


「それを棚に上げて、人を疑うのはどうかと思いますけど」


「うーん。旗色が悪いなあ」


青年はしばらく唸ってから、ふと思い出したように口を開きました。


「あ、そうだ。ちょっと言っときたいんだけど」


「最後の一つではなかったのですか」


「これで最後だよ」


「なんです?」


「今の僕は辰也と契約している。その辰也と敵対する気ならば――」


「先に契約したのは蒼では?」


雫が遮りました。


「その契約も、まだ果たされていないように思いますが」


「まあ、聞きなよ」


青年の声から、わずかに軽さが消えました。


「俺は辰也を守るために動く。たとえ、この世界を破壊してもね」


「その結果、蒼がどうなろうと知ったことはないと?」


「事故は起きるものさ」


「ご自分で決めたというルールに反するのでは?」


「まあ、それはそうだが」


青年は否定しませんでした。


「蒼ちゃんと辰也、どちらかを取れと言われれば、僕は辰也を取る」


「そうですの」


雫は、やはり表情を崩しません。


「でも心配ありませんわ。私、喧嘩を売る相手を間違えたりはしませんもの」


「今回、結構危うかったよ」


「元はと言えば、あなたの暴走が原因では?」


「それを言われると弱い」


「どちらにせよ、辰也君とあなたは合格です」


「合格?」


「無下にしたりはしません。それどころか、以後協力してもらいたいと考えています。いろいろと」


青年は露骨に嫌そうな顔をしました。


「あまりうれしくはないな。我ながらポンコツとはいえ、神を手玉に取るような人間に褒められてもさ。裏で何を考えているんだか」


「また近いうちに会いましょう」


「俺は会いたくはないね」


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