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第二十五話 一応の決着


「今よ、蒼!」


雫が声を上げました。


『はいなのだわ』


霊体の蒼が、倒れた自分自身へと近づいていきます。


二人の姿が重なる。


そして、そのまま霊体の蒼は、実体の蒼の中へ吸い込まれるように消えていきました。


次の瞬間。


河川敷を埋め尽くしていた黒い影が、一斉に揺らぎます。


一つ。


また一つ。


黒い姿が薄れ、霧のように消えていきました。


ほどなくして、あれほど大量にいた影は一体も残っておりません。


悟空も分身や術を消します。


吹き荒れていた風は止み、燃え上がっていた炎も消えました。


つい先ほどまで戦場のようだった河川敷に、静寂が戻ったのでございます。


さて。


それから、どれほど経ったでしょうか。


辰也が目を開けると。


真っ先に視界へ飛び込んできたのは、自分の顔を覗き込んでいる銀髪の少女でございました。


「……成功したのかい」


「したわ」


蒼が答えます。


「よかったな」


辰也は身体を起こし、辺りを見回しました。


河川敷は、すっかり元の静けさを取り戻しております。


しかし、生徒会長の姿がありません。


「会長は?」


「お姉ちゃんなら、もう帰ったわ」


「妹が心配だったりはしないのか……」


「お姉ちゃんはいつもどおりだわ。要件が終わったら、すぐに帰るの」


「ずいぶんと淡泊だな」


「お姉ちゃんがいないってことは、うまくいったってことなの」


そういうものなのでしょうか。


姉妹のことは、姉妹にしか分からないのかもしれません。


蒼は腰に手を当てると、どこか勝ち誇ったように胸を張りました。


「ありがと。あんたは合格だわ」


「何が?」


辰也が聞き返すより早く、蒼は続けます。


「あたしの下僕にしてあげる」


随分な告白もあったものです。


「断る」


「……は?」


蒼が目を見開きました。


まさか断られるとは、思っていなかったのでしょう。


「なんでよ」


「俺にも選択権がある。それに」


「それに何よ」


辰也は蒼の顔を見ます。


「影に操られてた時の口調に戻ってるぞ。本当に成功したのか?」


「え」


蒼の表情が固まりました。


「た、魂が少し混ざってしまったかもしれないのだわ。同じ魂だったようだし」


「大丈夫なのか、それ」


辰也が眉を寄せた、その時です。


河川敷の向かい側。


土手の上を、一人の少年が歩いていきました。


蒼が、ふとそちらへ顔を向けます。


ほんの少しだけ、その少年の姿を目で追いました。


「知り合いか?」


辰也が尋ねます。


蒼はしばらく少年を見送ってから、首を振りました。


「……多分、他人の空似なのだわ」


少年はこちらに気づくこともなく、そのまま遠ざかっていきました。


辰也も、それ以上は気にしません。


「とにかく、俺は帰る」


「あたしも行くのよ」


その時、少し離れたところにいた悟空が声をかけました。


「筋斗雲、乗るか? 少しは時間が稼げるぜ」


辰也は即答しました。


「乗りたい」


ゲームや本に出てくる乗り物に、一度くらいは乗ってみたい。


辰也は悟空の方へ歩き出します。


実は、蒼嬢は辰也のドストライクなわけなんですが。


どちらの蒼かって?


それは――


「なんか、とんでもないカミングアウトをされている気がするなあ」


辰也が足を止めました。


「タツヤ!」


背後から蒼の声が飛んできます。


「あんたの部屋の冷蔵庫飲みつくして、ルームサービス頼みまくって破産させてやるから! なのだわ!」


辰也はそれを無視して、悟空とともに飛び去った――ように見えましたが。


欲もあり、迷惑な神と付き合って好き勝手しているような辰也を、果たして純真な人間と呼べるでしょうか。


そういうわけで、辰也は筋斗雲には乗れませんでした。


結局、自分で宙に浮かび、悟空に掴まったまま新宿へ帰ることになったのでございます。


「余計なことは言うなって」


「こういうやつなんだ。とりあえずあきらめろ」


ともあれ、一件落着――と、言ってよいのでしょうか。


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