↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/27

第二十四話 河川敷の戦争


さて、場所は変わりまして、とある河川敷。


辰也と悟空が連れてこられた先には、なかなかに異様な光景が広がっておりました。


少し離れた場所に立つ、一人の少女。


銀色の長髪をなびかせ、その姿かたちは傍らにいる生徒会長と瓜二つ。


風祭蒼――の、はずでございます。


けれども顔色は悪く、こちらを見ても何の反応もございません。


そして何より、その周囲。


黒い影が、うようよとうごめいております。


一体や二体ではありません。


数える気も失せるほどの影を引き連れて、蒼らしき少女は河川敷に立っているのでありました。


『そういや、この語り妖怪も連れてきてしまったな』


青年が今さらのように言いました。


悟空は如意棒を肩に担いだまま、面倒そうに言います。


「一度住み着くと、そいつ剥がすのはもう無理だぜ」


「まあ、どうでもいいじゃないか。そんなこと」


辰也も大して気にしていない様子。


皆様、今後ともよろしく、お願い申し上げます。


辰也は改めて辺りを見回しました。


河川敷には蒼と、大量の影。


どう考えても、通報の一つや二つでは済みそうにない光景です。


「異様な状態なのに、周りには誰もいないんですね。まあ、人通りは少なそうな場所ではありますが」


見える範囲に、一般人の姿はありません。


「危険がないように、辺りは封鎖してもらったわ。それなりに暴れてもらって大丈夫よ」


雫が答えます。


「そうですか」


ずいぶん準備のよろしいことでございます。


雫は悟空へ目を向けました。


「その方は、兄を襲ったお猿さんかしら?」


『実はこの方が本物の孫悟空でしてね。偽物が暴れているということで、来てもらったのです』


青年がすかさず横から話を合わせます。


悟空も腕を組み、


「ふん。そういうことだ」


と、当然のように頷きました。


雫は少し首をかしげます。


「そうなの? ホテルで会った気がするけど」


「部屋の前のことを言っているなら、それは俺の方だ。いきなり猿と鉢合わせると驚くと思ったんで、宿屋の従業員に化けたのさ」


「あら、そうですか。お気遣い感謝しますわ」


「俺の変装を見破るとは大したもんだ」


なんとも堂々としたものでございます。


「それで、僕はどうすればいいですか」


辰也が話を戻すと、雫は蒼へ視線を向けました。


「蒼の動きを封じて。そうすれば私が弓で射抜いて浄化するわ」


『そのあと私が中に入るのよだわ』


霊体の蒼も続けます。


「なるほど?」


なんとも気のない返事でございます。


その横で、悟空が如意棒を握り直しました。


「じゃ、久しぶりに暴れますかね」


言うが早いか。


悟空の姿が消えます。


次の瞬間には、影の群れのど真ん中。


如意棒が一閃。


黒い影がまとめて吹き飛びました。


辰也も手元に光る剣を作り出します。


どこかの映画で見たような光刃を振るい、迫ってきた影を斬り払いました。


黒い身体が裂け、霧のように散っていきます。


少し離れた場所からは、雫の放つ矢も飛んでおりました。


影を一体、また一体と射抜いていきます。


ところが。


「キリがないわね」


雫が小さくこぼしました。


射抜いても。


斬っても。


吹き飛ばしても。


次から次へと、新たな影が湧いてまいります。


先ほどより減ったと思えば、いつの間にかまた増えている。


まるで終わりがありません。


悟空が如意棒で影をまとめて薙ぎ払いながら、辰也へ叫びました。


「おい坊主! あそこにいる女を何とかしねえと、終わらねえみたいだぞ!」


辰也は影の向こうにいる蒼を見ます。


相変わらず、少女は動きません。


「気が進まないなあ」


「影どもは俺が引きつけておくから、とっとと行ってこい!」


「仕方ないな」


悟空が自分の毛を何本か抜き、ふっと息を吹きかけます。


すると。


一人。


二人。


三人。


悟空の分身が、次々と現れました。


さらに術を使い、竜巻や火を起こします。


如意棒が乱れ飛び、火が噴き上がり、風が巻き起こる。


影の群れがまとめて吹き飛ばされていきます。


さながら戦争でございます。


「あまり暴れすぎないでほしいのですけれど」


雫が少々困ったように言いました。


「てめえの妹のためだ。我慢しろよ」


その隙に、辰也は蒼へ近づいていきました。


少女は逃げません。


攻撃してくる様子もありません。


ただ、そこに立っております。


近くで見ると、顔色は明らかに悪い。


瞳にも、ほとんど光がありません。


辰也が目の前まで来ても、何も喋りませんでした。


『うーん、これは』


青年が蒼の顔を覗き込みます。


何を考えているのかは、やはりよく分かりません。


その時。


「蒼を押さえつけてくれないかしら」


背後から、雫の声。


「え?」


辰也は振り返りました。


他にも、いろいろな手があるように思います。


拘束するなり、眠らせるなり。


そもそも迷惑神もいるのだから、もっと便利な方法もあるのではないでしょうか。


しかし。


「……もうめんどくさい。言われたとおりにするか」


『そうしよう』


これでございます。


辰也は蒼の手を取り、その身体を後ろから押さえ込みました。


少女は抵抗らしい抵抗をしません。


『どさくさに紛れて胸を触ったりしないでほしいのだわ』


誰がするかよ。


声には出しませんでした。


「よし、じゃあ、行くわよ」


雫が弓を構えます。


弦が引かれました。


光を帯びた矢先が、こちらを向きます。


蒼だけではありません。


そのすぐ後ろには、当然ながら辰也もおります。


ふと。


辰也には、雫の顔が笑っているように見えました。


――ああ。


このまま撃てば。


蒼ごと、自分まで射抜ける。


そうか。


これが目的だったのかもしれない。


そのために、ずいぶんな手間をかけたもんだなあ。


『大丈夫だよ』


傍らの青年が、いつもの調子で言います。


『もし昇天しても、呼び戻してあげるよ』


それもそうか。


雫の指が離れました。


矢が放たれます。


辰也は目を閉じました。


そして、次に目を開けると。


――今度は、随分早かったな。


どうやら、本当に昇天したらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。