第二十七話 約束
迷惑な神の力を借り、紫藤辰也は人生を謳歌した。
金は湯水のように使った。
興した会社は軒並み成功。
自分のために稼ぐだけでは飽き足らず、福祉事業や地域への貢献にも力を尽くした。
やがて、その活動は国内だけにとどまらなくなる。
戦争と飢餓を撲滅させ、医療分野の発展にも大きく貢献した。
さらには、宇宙人との交流まで噂されたという。
いつしか紫藤辰也は、超人とまで称されるようになっていた。
だが、そんな男にも、どうすることもできないものがあった。
寿命である。
いや、正確に言えば、どうにかする方法はあったのかもしれない。
ただ、辰也はそれを選ばなかった。
後に、息子や娘、そして孫たちに囲まれて大往生を迎えることになる。
これは、その少し前のことである。
老いた辰也が横たわるベッドの傍らに、青年がいた。
周囲の人間からその姿は見えておらず、二人の会話も聞こえてはいない。
『いいのか? 一応、今からでも若返って返り咲くこともできるが』
「もういいさ」
辰也は穏やかに答えた。
「君の忠告通り、寿命はいじらないことにする。今さら復活して口出しなんかしたら、周りも迷惑だろうしな」
『そうか。今夜でいいのか?』
「ああ」
少し間を置いて、辰也は笑った。
「楽しかった。ありがとう」
『こっちも楽しかったよ』
「しかし、あれだな」
『ん?』
「うまく行きすぎて、少しつまらなかったかもな」
『おいおい、贅沢だな』
青年は呆れたように笑う。
辰也もしばらく笑っていたが、やがて何かを思いついたように口を開いた。
「決めた」
『何を?』
「今度は冒険したい」
『過去に戻るのか?』
「俺はこのままでいい。あの世から見物させてもらうよ」
『変わった願いだな。じゃあ、俺だけ戻ればいいか?』
「ああ。出会った頃にでも戻ってくれ」
『わかったよ』
辰也は頷いた。
それから、ふと思い出したように付け加える。
「ああ、それからな」
『なんだよ』
「あんまりこっちに有利になるといけねえ。洗脳とか、思考誘導の類はあんまり使わないでくれよ」
『なんで?』
「冒険になんねえからな」
『注文が多いな、もう』
「頼んだぜ。見てるからな」
『わかってるよ』
青年は軽く手を振った。
『またこういうふうに繰り返さなくていいように、たっぷり冒険させてやるよ』
「そうしてくれ」
辰也は目を閉じかけて、最後にもう一度だけ青年を見た。
「じゃあ、そろそろ逝くわ。ピンピンコロリで、後はよろしくな」
『ああ。じゃあな』
辰也は目を閉じた。
そして――。
「それを俺に信じろと?」
現在の紫藤辰也は、実に疑わしそうな顔をしておりました。
『信じてくれないのかい?』
「正直言うと、信用できないな」
『ひどいなあ。ま、僕は冒険さえしてくれれば問題ないけどね』
「迷惑な神だなあ」
『よく言われる』
さて。
これにてひとまず、このお話は区切りとさせていただきます。
皆様、お読みいただきありがとう存じます。
体調に気をつけて、これからもお過ごしください。
ありがとうございました。
また会う日まで。
「お前が締めるのかよ」
『じゃあね』
本作はひとまず今回で完結となります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。




