第十九話 帰ってきた孫悟空
さて、迷惑な神が化けた偽辰也に、後ろからばっさり斬られました孫悟空。
身体は跡形もなく消えてしまいましたが、これで天下の元斉天大聖がおしまいかと申しますと、そう簡単には参りません。
次に悟空が目を覚ました時には――。
「……ん?」
そこは青空の真ん中。
雲よりも高いところで、筋斗雲の上にあぐらをかいて座っておりました。
皆様、お初にお目にかかります。
もしくは、お久しぶりでございます。
ここからしばらく、私が語りを務めさせていただきます。
どうか、よろしくお願い申し上げます。
「元の日本に戻って来ちまったようだな。語り妖怪もいるようだし」
どうもお久しぶりでございます。
ともあれ悟空、辺りを見回します。
自分が戻ってきたのならば、白雪も何かの拍子に一緒に戻ってきているかもしれない。
まずは探してみようかと考えた、その時でございます。
「まだそこまで考えてなかったんだが、まあいいか」
下の方から、何やら聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえてまいりました。
「てめえ、親じゃねえとはどういうことだ!」
「そうだそうだ!」
悟空が筋斗雲から身を乗り出して見下ろします。
どうやらそこは日光。
東照宮の修繕も、ほとんど終わっているようでございます。
そして地上では、案の定と申しますか、何やら揉め事の真っ最中。
怒鳴っておりますのは、隻腕の剣士、丹下左膳。
その隣では、すっかり左膳になついたちょび安が、同じように相手を責め立てております。
「だから見つからなかったんじゃって」
二人に追い詰められているのは、柳生対馬守。
「嘘をつけ! 式で紫の着物を着た奴が、こいつの親だって話だったじゃねえか! 着てたのはおめえだろう?」
「おめえだろう!」
「いや、あれはじゃな……」
何やら以前からの事情があるようですが、その辺りを一から申し上げておりますと長くなりますので、ひとまず先へ進みましょう。
「結局見つからなかったんじゃ。だからまあ、とりあえず代表であるわしということにしてだな……」
「世間の覚えが悪いから、そういうことにしただけじゃねえのか? お前らの住んでる伊賀の里の人間だって話だったじゃねえか?」
「じゃねえか!」
「探したんじゃが、出てこなかったんじゃ」
対馬守は困ったように髭を撫でます。
「そこのちょび安もな、わしより左膳が親と思ったほうがいいじゃろうが」
「それはそうだ。左膳おじちゃんは俺の父ちゃんだい!」
「話を逸らすな、話を」
そこへ筋斗雲が、すうっと降りてまいります。
「やってんな」
三人が一斉に空を見上げました。
「悟空か」
「悟空!」
「お主はいつも急じゃのう」
悟空はひらりと地面に降ります。
左膳は相変わらず不機嫌そうな顔をしておりました。
「お前もそろそろ身を固めたほうがいいんじゃないか。お藤あたりとよ」
「けっ、冗談じゃねえ。人ごとだと思って笑いやがって」
「年貢の納め時というやつじゃ」
対馬守は涼しい顔で申します。
「定期的に金子は渡すから。そのお藤もな、爺さんの覚えがよいようじゃから、これからもちょくちょく来てほしいからの」
左膳の眉がぴくりと動きました。
「それを最初に言いやがれ、まったく」
差し出された小判を、さっとひったくります。
先ほどまでの怒りはどこへやら。
現金な男でございます。
「ところで」
悟空が口を挟みました。
「白雪を知らねえか?」
左膳が悟空を見る。
「はぐれたのか」
「まあ、そんなとこだ」
「知らねえなあ」
ちょび安も首を横に振ります。
「ここには来てねえぞ」
「そうか」
悟空は少し考え込みました。
「とりあえず、江戸に戻るぞ」
「ん?」
左膳が悟空を見ます。
「おめえもついて来い。道連れだ」
悟空は面倒そうな顔をしましたが、やがて肩をすくめました。
「仕方ねえなあ。まあいいだろう」
「行くぞ」
「源三郎によろしくな」
こうして悟空と左膳は、ひとまず江戸へ戻ることとなりました。
さて、悟空がそんなことをしている頃。
実はすでに、江戸の外れには白雪たちが到着していたのでございます。
もちろん悟空は、そんなことなど知る由もないのでありました。




