↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/27

第十二話 もう一人の妹


翌朝。


辰也はいつも通り学校へ向かった。校内は変わらず平和だった。廊下では生徒たちがくだらない話をし、教室から笑い声が聞こえてくる。


こういう日常に戻ってくると、ここ数日の出来事の方が夢だったような気さえしてくる。


もっとも、夢で済ませるわけにはいかない。


辰也は廊下の先に見覚えのある姿を見つけ、足を速めた。


「会長」


呼びかけると、風祭雫が振り返った。


「あら、紫藤君。どうかしたの?」


「ちょっと、お話があるんですけど」


「私に?」


「はい。蒼さんのことで……」


その名前を出した瞬間だった。雫の目の色が変わった。ほんの一瞬のことだったが、辰也にも分かった。


「……そう」


雫は周囲を見回してから、いつもの落ち着いた声で続ける。


「場所を変えましょうか。放課後に準備室に来てくれる?」


「分かりました」


「では、また後で」


それだけ言うと、雫は何事もなかったように去っていった。


その背中を見送り、辰也は小さく息を吐く。


「さて……」


「やりやがったな辰也!」


「うおっ!?」


突然背後から声が飛んできた。振り返ると、いつの間に現れたのか、クラスの男子たちが立っている。


「会長ファンクラブ会員としては複雑だけど、祝福させてもらうよ」


「ちげえよ! お前らどっから現れた!」


「下手すると僕たちの出番はもうここぐらいしかないんだ」


「何を言っているか意味が分かんねえよ」


辰也はそのまま彼らを無視して教室へ向かった。


 ◇


「例の準備室か……」


放課後。扉の前まで来た辰也は、思わず足を止めた。以前ここで雫と向き合った時のことを思い出す。あまりいい思い出のある場所ではない。


だが意を決して、辰也は扉を開けた。室内にはすでに雫がいた。


「来たわね」


「どうも」


「座って。蒼の話を聞かせてもらえる?」


さっそく本題だった。辰也は椅子に腰を下ろし、どこから話すべきか少し考える。


「新宿で、偶然会ったんです」


「蒼と?」


「はい。正確には、助けを求められて……ちょっと色々ありまして。今は保護しています」


「蒼を保護している?」


雫の声がわずかに低くなった。


「ええ、まあ」


「どこに?」


「いや、あの、その……」


途端に言葉が詰まる。雫がじっと辰也を見る。


「何か言いづらいことでもあるのかしら?」


「いやあ……」


「まさか、ホテルとか言わないわよね」


「そのまさかなんです」


「そーう」


雫が微笑んだ。


「そうなんです。はい」


沈黙。時計の針が動く音まで聞こえてきそうだった。数秒のはずなのに、辰也には妙に長く感じられる。以前、雫に自分の正体がバレた時より、ある意味きついかもしれない。


「誓って何もしてないです。はい」


『それ言ったら逆に怪しくなるよ』


分かっている。口に出してから辰也もそう思った。


だが、雫は意外にもあっさり頷いた。


「分かっているわ。できるわけがないもの」


「え?」


妙な言い方だった。


「それは妹ではないのよ」


「……どういう意味です?」


「視えているのでしょう? 隠さなくてもいいわ」


雫が静かに言った。


次の瞬間、その隣に人影が浮かび上がる。半透明の少女だった。


「……なんと」


辰也は思わず声を漏らした。


少女は雫のすぐ隣に立っている。顔立ちを見れば分かる。ホテルにいる少女――蒼によく似ていた。


「妹は幼い頃に事故に遭って、それからずっと意識不明だったの」


雫は隣の少女へ目を向けた。


「その間、身体から抜けた妹の魂は私が保護していたのよ」


『ほんとに人間かこいつ』


青年がぼそりと言う。


「何か言ったかしら?」


雫がこちらを見る。


「僕じゃありません」


即答した。


「数日前、病院から連絡があったわ」


雫は話を戻した。


「妹が突然、目を覚ましたって」


『でも、私はお姉ちゃんのそばにいたの』


それまで黙っていた少女が口を開いた。声はホテルにいる蒼とよく似ている。


辰也は少女と雫を交互に見た。


「おかしいわよね?」


「ええ、まあ……」


確かにおかしい。本人の魂がここにいる。それなのに、身体の方は目を覚まして動き回っている。


「何かに乗っ取られている可能性も、あるかもしれないですね」


『そうよね』


少女も頷いた。


断定はできない。だが、少なくとも普通の状況ではなかった。


「それで、兄が病院に向かったのだけれど」


雫が続ける。


「着いた時には、もうもぬけの殻だったそうよ」


「逃げた後だったんですか」


「ええ。兄は気配を追って、新宿まで行った」


そこで雫は一度言葉を切った。そして、辰也を見る。


何となく目を逸らしたくなった。だが、なぜか逸らせない。


「そこで蒼を見つけて、連れ戻そうとしたんだけど――謎の猿に襲われたらしいのよ」


「それは……」


「死にはしなかったけど、満身創痍になって帰ってきたわ」


辰也の脳裏に、あの夜の光景が蘇る。如意棒で悟空に吹っ飛ばされた男。


「どうやら兄の話ではね」


雫の視線は、まだ辰也から外れない。


「近くにうちの高校――ミカガミの制服を着た人間がいたらしいのよね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。