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永い余白の総括(お伽話の終わり)

「おじいちゃん、またその『光る板』の話をしてよ」


マカオの午後の陽だまり。膝元で孫が、俺の手を揺らした。 老いさらばえた俺の手は、かつて発電機を回した豆の跡も消え、ただペンを握り続けたタコだけが残っている。


「ああ。それはね、世界中の知恵が小さな板の中に閉じ込められていて、遠くの誰かとも一瞬で話ができる。夜でも太陽のように明るい、魔法の道具だったんだよ」


孫は「おじいちゃんは想像力が豊かだね」と声を立てて笑い、庭の鶏を追いかけていった。 俺がこの世界から奪った、あるいは先送りした「輝かしい未来」の話。この子にとっては、龍や鳳凰が出てくるお伽話と何ら変わりはない。


「……また、あの子を困らせているの?」


隣に座った妻——かつて生薬を抱えてマカオの路地を駆け回っていた彼女が、お茶を差し出しながら微笑んだ。彼女だけは、俺が時折見せる「ここではないどこか」を見つめる瞳に、理由を聞かずに寄り添い続けてくれた。


「いいじゃないか。たまには遠い夢の話も」


「ええ。でも私は、今のこの『退屈なほど静かな午後』の方が、あなたの話す魔法よりもずっと好きよ」


彼女の手が、俺のしわだらけの手を包み込む。 俺が140年前から止めたマッチの火。そのおかげで、この港では一度も大きな戦火が上がらず、アヘンの煙に巻かれることもなかった。蒸気機関の煤煙も、電信の喧騒もない。ただ、季節の移ろいと、潮の満ち引きに合わせた、丁寧で遅い時間が流れている。


懐から、もう二度と光ることのない黒い塊を取り出す。 かつて世界を変えた「神の鏡」は、今ではただの冷たい石のようだ。


「……勝ったんだな、俺たちは」


誰に聞かせるでもなく、俺は呟いた。 劇的な進化はない。偉大な英雄もいない。 だが、歴史の教科書に一文字も刻まれないような、この「永い余白」こそが、俺がスマホ一台を持ってこの時代へ落とされた、真の報酬だったのだ。


夕刻、石畳を荷車の輪が噛み、ゴトと響く。 その音は、明日も同じように平和が続くことを約束するように、どこまでも穏やかに響き渡っていた。

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