↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪戯と黄昏の刻に・第二紀(条月大学附属高の3年教場)  作者: 嶋 秀
第二章(二学期篇)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/39

第38話(全てを失った令嬢)


 『何よ、これ。 こんな風にしてって、私の依頼じゃないわ』


 マスコミ各社が緊急生中継している首都副都心の七井記念ホテルにおける爆弾テロ現場。

 彩雪音は、その映像や報道から被害の大きさを知り、身を震わせていた。

 『偶然よ、偶然。 偶々アイツ等が出席すると言っていたパーティーの開催されるホテルでテロが有ったのよ』

 自身の都合の良い解釈をしたものの、やがてテレビや動画配信を全て遮断した彩雪音。

 大宴会場でも爆発があり、狙われたのは明らかにくだんのパーティーであると、誰もが報じていたからだ。



 『トン、トン、トン』。

 暫く経った時、部屋の扉をノックする音。

 それにビクッとなってしまう彩雪音。

 「お嬢様、立花理事長がお見えですが。 如何致しましょう?」

 入学時に、上条財閥ご当主様直々に差配され配属されている彩雪音専用の侍女の一人の声が聞こえる。

 「居ないって言って」

 最初はその様に返事をしたものの......


 『おかしいわ。 私のところに理事長が訪れて来るなんて、一年に一回有るか無いかの出来事。 それがこのタイミングで......』

 テロ発生現場では、国防軍の対テロ部隊が陣頭指揮をとっていると言っていた。

 そうなると、軍による所在確認?

 この学校は国防軍の関連学校でもある。

 ならば、ここに居るって証明をしておいた方が間違いなくイイわ。

 そのような思考の経路で、前言を翻した彩雪音。

 「やっぱり、直接お目にかかりましょう」

と返答をしたが、既に侍女は返事を伝えに移動してしまったらしい。


 部屋を出て玄関に向かうと、『不在』と告げ始めていた侍女と理事長が居た。

 「あら、不在だと今、お聞きしたのに」

 美月は嫌味を混ぜて、急に翻ったその意図を確認しようとする。

 「頭痛がするので、居留守を使おうと思いましたが......」

 「なるほど。 一つだけ確認したいのだけど」

 理事長の質問に身構える彩雪音。

 「本日、敷地外に出ていませんよね?」


 「ええ。 お嬢様は、放課後真っ直ぐこちらに戻って来られてからは、ずっと在室されておりましたよ」

 彩雪音が答える前に、侍女が事実をありのまま話す。

 「いえね、放課後外泊届けを出した生徒2名が、テロに巻き込まれたらしく音信不通なのです。 ですから今後は当面、外泊だけでは無く外出も禁止となりますから、その連絡で伺ったの」

 「わかりました」

 彩雪音は短く答えると、そのまま建物の奥に戻って行く。

 その姿を見詰めながら美月は、

 『ちょっと、様子がおかしいわね〜』

 そう感じたのであった。



 部屋に戻ると、イヤホンを装着し、音楽を聞きながら、ベッド上で布団を被る。

 『何も聞きたくない、何も知らない』

 自身のしたことが、大きな事件のきっかけになってしまったのでは無いかと、心が震え、何もする気が起きなくなってしまったのだ。

 そのまま、無為に時間を過ごす彩雪音。

 やがて、ウトウトと居眠りを始めたのであった。




 一方、財閥の本社に移動した潮音一行。

 そろそろ連絡をとっても良い頃合いかなと莉音に連絡を入れると......

 2人はコトの真っ最中であったようだ。

 直ぐ応答は有ったものの、何やら向こうから、最初に鏡水の喘ぎ声が暫く聞こえた後、続いて水の慌てたような声が聞こえて来る。

 「ちょっと、タイミングが悪かったみたいね」

 小声で石音と幼楓に、ニヤニヤ話し掛ける潮音。

 『絶対、ワザとだ』

 2人は顔を見合わせ無言で頷く。


 暫くして、潮音達の居る部屋に莉音が現れる。

 「あのさ〜。 直接僕の部屋に来ればイイじゃん」

 早速抗議をしようと切り出したが、いつになく真剣な潮音の表情に考えを改める莉音。

 そもそも、潮音に緊急要請をしたのは自身だからだ。

 「何が知りたいの、潮音ちゃん」

 あえて下手に出てみると、生体IDの詳細を問われたのだ。



 「上条のご当主様に会って話をするのだよね?」

 莉音は潮音の意向を確認する。

 「彩雪音を無罪放免する訳にはいかないでしょ? 貴方や鏡水にとって危険な花が咲かないように、蕾のうちに摘んでおくのも母の役目よ」

 その答えから、上条の当主から何らかの重いペナルティを彩雪音に課させるつもりのようだ。

 恐らく、一族からの追放。

 それぐらいは要求するのだろう。


 「それと、上条財閥系企業が開発した超小型携帯端末に欠陥が有るのならば、なお譲歩を引き出させ易いのだけど......」

 「発売中の製品の不具合というよりは、試作品の実証実験の際の配慮不足が原因じゃないかな? 最新の注意を払うべきところを払っていなかったことに尽きるね。 今回のような不正利用が発生した理由は」

 「どういう意味?」


 莉音は、自身の予測を説明し始める。

 「璃月財閥では実証実験参加者を、実際に資産基準をクリアーしている僕や叔父等を対象にして実施。 ところが上条はクリアーしていない彩雪音等を参加させた。 この部分が最も危険な要素になるんだ」

 「ふ~ん」

 「生体チップは技術的仕様が完全非公開なので、ブラックボックス同然。 製品を作る側も苦慮しているのさ。 何処で想定外の問題が発生するか、予測が付かないから」

 「確かに、そうなるわね」

 「今回の件が、まさにそれだよ。 上条側の試作機に技術者も気付かない予期せぬ複合的な問題が発生したってこと。 恐らくだけど、試作機で生体IDを登録した際、その精緻で膨大なデータが何らかの要因でチップ外のメモリに保存されてしまい、試験使用終了後に通常端末へ機種変更した時、生体IDデータも移行されていたということだよ」

 「なる程」

 理路整然とした莉音の説明は分かり易い。

 『我が子ながら、本当に優秀ね〜』

 惚れ惚れする潮音。


 「全容解明には、彩雪音の現在使っている携帯端末と上条側が彩雪音に使わせたプロトタイプを入手出来れば一発で分かるけど......」 

 「それが出来れば、苦労しないわ。 下手に動けば彩雪音は今使っている端末を破壊して、証拠隠滅を図るでしょ?」

 「そこを上条のご当主にやらせるという計画か〜。 テロに関し、彩雪音絡みの詳しい情報が世間に流布されれば、上条のイメージダウンは計り知れないって暗に脅して」

 「あの老獪な御仁を手玉に取れるのは、この国では魔術を使える私ぐらいだものね」

 潮音はそう答えると、面談実施の決断を直ぐ下し、早速側近達を呼ぶ。

 上条のご当主に、璃月詩音が緊急会談を求めていると伝えるよう指示したのであった。




 事件発生から約4時間後。

 首都中枢部にある上条財閥本店に、璃月詩音の姿があった。

 老けメイクをせず、普段通り本来の姿での登場に、案内役であるご当主最側近も驚いている。

 『璃月の大御所は歳を取らないと噂されているが、まさか本当だとは......数十年前と外見はいささかの変化も無い』

と。

 ほぼ、秋月潮音の姿での登場には、上条のご当主を騙す訳にはいかないという詩音の意向が反映されている。



 「夜分遅くに恐れ入ります」

 「いや、儂と貴女様との仲では無いか。 余計な気を遣わずとも一向に構わない」

 「そう言って頂ければ、誠に幸いです」

 「詩音様は、いつお会いしても若く美しいまま。 羨ましい限りだ」

 「その話の噂は耳にしていますよ。 でも私は不老ではありません。 少しずつ年を取っているので、その点は誤解無きよう、御側近の皆々様にお伝え下さいね」

 笑顔で答える潮音。


 「ところで、火急の用件と聞いたが」

 「七井記念ホテルでの爆弾テロ、その件で非常に重大なお話がありまして......」

 そのような切り出しで始まった両者の極秘会談。


 そこで、犯行の裏には上条彩雪音の小さな陰謀が隠されていたと潮音は説明する。

 「私の最愛の一人息子莉音が選んだ花嫁を、結果的にテロリスト共を引き込んで襲撃させたという由々しき事態、私どもとしては決して見過ごせません」

 「それは御尤もだ」

 「更に、私の異母弟の孫に当たる一族の三条流月までもが、彩雪音の小賢しい陰謀の結果襲撃され、莉音を含め出席していた璃月一族全員が怪我をしたのです」

 証拠を示しながら、ここまで言われてしまうと、上条の老獪な当主とは言え、何も言い返せない。


 「詩音様の仰られることはよくわかりました。 それが事実であれば、儂も必ず彩雪音に罪を償わせ、厳正な処分を下すであろう」

 そのひとことを待っていた潮音。

 ここで潮音は魔術を使って、テロ発生に至るまでの彩雪音の行動を上条のご当主に直接見せることにする。

 当主の脳内に浮かぶ、数々の光景。

 これは、今眠っている彩雪音の記憶をそのまま見せたものだ。

 更には、先程尋問したテロリスト3人の記憶映像をも。



 やがて魔術を解き、ご当主の表情を凝視する潮音。

 あえて無言を貫き、決断を迫る。

 「相わかった。 ここまで全てを見せられたのに、儂がなお手心を加えるのであれば、あらゆる事実を公にすると、貴女様は言いたいのだな?」

 「英邁な上条のご当主様が、この場に及んで鼎の軽重を問うようなことはしないと、私めにはよく分かっておりますので」

 「では、儂の考えた処分内容をお話してよいかな? 彩雪音に少しは期待しておったが、所詮、表向きだけ小賢しく振る舞ってみせるだけで中身の無い小娘に過ぎなかったというだけだ。 庇う気は最早毛頭ない所以、ご不満は抱かれぬとは思うがの」


 そのまま、厳しい処分を含める提案を出した老主。

 一部訂正を求めた上で、最終的に受け容れた潮音。

 これにて会談は終了し、テロ事件の裏事情は一部の関係者間を除き、永遠に封印されることが決まったのであった。

 

 


 「あれっ? 端末が無い......」

 彩雪音は真夜中に目覚め、時間を確認しようと、普段から身に付けている携帯端末を探すが、いつの間にか外れ、失くしたことに気付いたのだ。

 慌てて部屋内を捜す、彩雪音。

 だが、見つからない。

 『困ったなあ〜。 端末が無いと何も出来ないのに......』

 学校内では、授業中だけは外さねばならないが、それ以外の時間は装着を認められている。

 それだけ、生活の必需品となっているのだ。


 ただ、寝ぼけ眼で、事態が動いていることに、この時は気付いていない。

 やがて、再び睡魔に襲われ、端末捜しは後回しにして、眠りに就いてしまうのだった。




 「起きなさい、彩雪音」

 何度も大声で呼ばれていることに気付き、ようやく目を開くと、そこには、学校内で彼女に仕えている面々の姿が並んで、彩雪音の顔を覗き込んでいた。

 そしてなんと、首都中枢部にある本宅で余生を過ごしている筈の、ご当主様の側室である祖母の姿も。


 「彩雪音、何の不満があって、このようなだいそれたことをしでかしたの」

 よく見ると、祖母は涙を流し続けている。

 そう言えば、学校で仕えている者達の視線が非常に冷たいように感じるのは気の所為か?

 いや、気の所為では無いことを、次の祖母の言葉で思い知らされることになるのだ。


 「彩雪音。 早く荷物を纏めなさい。 最早、この学校に居ることは出来ないのですから」

 「えっ、どういう意味?」

 その時、部屋のモニターに、彩雪音がアングラ組織に依頼した、流月と鏡水の襲撃依頼の内容が映し出される。

 それを見て、ハッとする彩雪音。

 夜中に携帯端末が見当たらなかったのは、ご当主の命令で仕える者達によって回収され、消去した情報を全て復元されてしまったということだ。


 「貴女、あれを見ても、まだそんなことを言っているの? あのお二人はれっきとした璃月財閥の一族の方々。 私や貴女のように、上条を二度と名乗れなくなった似非一族とは比較にならないのですよ」

 「似非一族?」

 「貴女は、須々木彩雪音が本名でしょ? 私は上条のご当主様と正式な婚姻関係はなく、入籍もしていないですし、貴女も貴女の父も上条家の養子にすらなっていないのです。 だから私自身、今まで一度も上条を名乗ったことはありません」

 「でも......」

 「黙らっしゃい。 貴女は一体何人の無辜の人々を殺めれば、その罪を認めるの? 昨晩、貴女の小賢しい陰謀をキッカケにして、貴女名義の生体IDが悪用された結果、80人以上の方々が亡くなったというのに......」

 「生体ID? いったい何のことだか......」

 祖母はここまで説明すると、再びザメザメと泣く。

 孫のくだらない考えが引き起こしたとんでもない事態で、上条一族から追放されてしまったのだから。


 確かに彩雪音には、生体IDを意図して渡したり等の心当たりは無かった。

 だが、実証実験に参加したことは覚えており、それが何らかの理由で、自身が使っていた携帯端末に安易にインストールしたアングラ組織との連絡アプリによって流出、テロ組織に渡ってしまった。

 それで爆弾テロ発生。

 ようやく、彩雪音の中でも、線が一本に繋がる。

 「ハハハハ、まさかそんなことが......」

 絶句し、全身の力が抜けてしまい、ヘナヘナと崩れ落ちる。


 

 ここで、今まで仕えてきてくれた者達から、上条財閥当主からの命令が彩雪音にも通告された。

 ◯ 須々木傍系全員の上条一族からの永久追放

 ◯ 上条姓使用の完全禁止

 ◯ 条月大及び附属小中高に在学中の須々木傍系の者は本日付での中退を受け入れること。

   拒否する者は退学処分を下す。

 ◯ 璃月一族への全面的接近禁止

 ◯ 財産・地位の全没収・剥奪

   (テロ事件の被害者への見舞金に充てる為)

 須々木彩雪音の犯した罪について、傍系須々木一族全員が連帯責任で負うこと



 他にも細かい条件を説明されたが、その言葉は最早彩雪音の耳には入らなかった。

 力無く座り込んだまま、呆然としている彩雪音。

 その周囲で、今まで仕えていた者達が遠慮なく片付けを始める。

 彩雪音が何も喋らないので、部屋の私物は次々と段ボール箱へと無造作に突っ込まれる。

 やがて、首都から両親も駆け付けてきたが、住む場所も仕事も財産も全て被害者を償う為に没収されてしまい、途方に暮れている。

 事実が公表されず、彩雪音がテロの共犯者として捜査当局に突き出されないことだけが唯一の温情だという。



 そして、追放通告から約2時間後。

 学校から退去する為、上条家専用の建屋から外に出ると、既に噂が学校中に広まっており、多くの野次馬が詰め掛けていた。

 「何が上条のお嬢様だ。 本当はスズキ姓だったなんて」

 「上条の名前が無くなれば、お前なんて人望ゼロなんだよ」

 「偉そうに今まで散々仕切りやがって」

 「そうだ、稀代の悪女」

 「流月様を殺そうとしたんだってね」

 「お前に学校を追放されて、辞めていった何人もの生徒達のこと、絶対に忘れるんじゃねえぞ」

 「都佐波や難分に謝れ。 アイツ等は人生で最も大事な高3の二学期に自主退学させられ、お前によって人生を狂わされたんだ」


 口々に罵られる彩雪音。

 これ程にまで人望が無かったのかと、彩雪音自身衝撃を受けている。

 やや単純な流月を上手く利用し、裏で彼女が学校内で振るってきた権力により、約6年間で10人の生徒達が自主退学していったが、みんな最後は少ない仲間達に涙で見送られていた。

 それが自分はどうだ。

 誰一人、涙を流す者は居ない......

 「私って、上条の名前が無ければ、何の価値も無いんだね」

 小さな声で自嘲気味に呟くと、建物前に止められたボロい軽トラックの荷台に、無造作かつ乱雑に載せられた荷物を見詰め続け、やがて両親の手招きで狭い助手席に乗り込む。

 すると軽トラは、ギシギシという鈍いシャーシ音と、ゴトゴトという低いエンジン音を響かせながら、ノロノロガタガタと附属高を去って行ったのであった。



 その後の彩雪音等の行方。

 最初は、首都から遠く離れた西方の、小さな地方都市で所在確認されていたが、上条一族ということで社長の座にあった父や専業主婦として何不自由なく暮らしてきた母という両親では、突然厳しい世間に投げ出されてしまえば、まともな職にあり就ける筈も無い。

 彩雪音も含め、家族総出のアルバイトやパート等で何とか生活を立て直し、急遽転校した高校を卒業したものの、やがて彩雪音に関してだけは、全く行方が掴めなくなる。


 方々探し回ったところ、歓楽街に身を窶したらしいとの噂話を入手したが、それは噂でしかなかった。

 真実は、どうも上条や璃月といった財閥一族に対する激しい敵愾心が芽生え、国内の小さなテロ組織に加入。

 組織の要として積極的に動いていたところを、七井記念ホテルテロ事件以降捜査当局に目を付けられていたこともあり、動向監視を続けていた上条財閥の諜報部門にリークされ、ある時運悪く射殺されて死んだ。

 この情報が、尤も彼女らしい最後だと思う......


 亡くなるその日まで、彩雪音のことを気に掛けていて、このような厳しい処分には内心反対の気持ちを抱いていた九堂鏡水の日記には、そう書かれていたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。