第36話(特権の恐怖)
NH国内における最大のテロ組織『日出る国』。
樋野嶺愛彩美は、そこに所属する女性工作員である。
今回、組織幹部からの緊急命令が下り、それは、
『上条財閥の傍系令嬢『上条彩雪音』に成り切り、上流階級が挙行するパーティーに潜入。 爆弾テロを引き起こせ』
というものであった。
『マジ? あまりにも無謀な』
と内心思ったものの、命令は絶対だ。
2つ返事で承諾すると、新たな携帯端末を渡された。
超小型で最新鋭。
これはなんと、個人を識別する世界共通の絶対的な最新認証方式である『生体ID』を登録・利用可能な超高級品であることに驚いてしまう。
生体IDとは、これ一つ有れば、現金・クレカ一切不要。
パスポート・運転免許証などの身分証明すら何も持たずに、国交のある国で有れば世界中何処にでも行くことが可能。
更には、どんな超高級施設であっても優先的に利用が出来、あらゆる場面で身分確認を求められることも無いという、最高ステータスの象徴と言われる特別な身分証明である。
NH国では、最上流階級の一部の資産家だけが利用出来る特権的な代物なのだ。
愛彩美に渡された超小型携帯端末は上条財閥系列の企業から発売されていて、価格は上級国民の平均年収ぐらい。
生体IDは複製が不可能。
しかも全てのID利用状況、場所等がリアルタイムで本人通知され、不正利用が直ぐバレるので、詐欺組織には使い道の無い代物。
だから、彩雪音が鏡水と流月の襲撃をアングラ組織に依頼した際、流出した生体IDを詐欺組織は転売したのだ。
本来は生体IDの流出自体が絶対に無いと言われている。
ところが今回流出したのは、上条財閥が専用端末を開発する際、条月大及び附属小・中・高の閉鎖環境下で、あらゆる場面での利用を想定した実証実験を実施したことに原因があった。
この時、開発段階の超小型携帯端末を彩雪音が数カ月間利用し、データをフィードバックしたのだが、プロトタイプで最新セキュリティーが未搭載だったことにより、その時取得した実験用生体IDが、現在利用中の携帯端末に機種変更した際、適切な暗号化をされないまま、移されていたのだ。
そんなことで、上条彩雪音に成りすまして、この日に上流階級のパーティーが開かれる七井記念ホテルに仲間と向かう愛彩美。
着慣れないドレスを着て、如何にも上流階級の女性のように振る舞い、ホテル敷地出入り口に設置されている臨時検問所に到着した2人。
激しく緊張していたので、実はカチコチであったが、警戒警備に従事しているのが国防軍では無く、ホテル側が雇った民間警備会社の警備員であったので一安心。
生体IDを専用端末に翳すと、恭しく敬礼されて、直ぐ検問通過を許されたことに驚く。
『これが、生体IDの効果なのね......』
通常であれば、身分確認はかなり徹底して行われるからだ。
高級車の後部座席に座ったまま、玄関前に到着。
そこでは、ホテルのベルボーイが慣れた手つきで後部座席のドアを開け、パーティーの参加者や宿泊客が次々と降りてゆく。
ただし、玄関内では国防軍の対テロ特殊部隊の隊員が改めて身分確認を実施している。
愛彩美は、車のトランクから小型のスーツケースを運転手役の同僚に下ろして貰うと、
「行ってきますわ」
と告げる。
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
の返事に軽く手を挙げ、玄関内へ。
そこで、国防軍の軍人に対して生体IDを端末にかざすと、直ぐに通過の許可が降りたのだ。
そのままチェックイン。
予約した部屋に入ると、早速、5基の超小型の新型プラスチック爆弾を時刻設定後起動させ、予定された場所への設置を始める。
先ずは、ロビー内に2個。
ロビーはかなりの人がおり、警戒はホテル側の従業員と首都警察の私服警察官が実施していることを確認。
新型の時限爆弾は、大陸の大国が開発した最新型のもので、とにかく小型で威力が強いのが特徴。
ロビーで座ったソファーの座面の隙間を工具で広げてから内部に押し込み、無事設置完了。
そして、二階へ。
ここも多くの人が行き来していたので、特に不審がられることも無く、1個の時限爆弾を置かれているソファーの中に埋め込むことに成功。
最後は、問題のパーティー会場。
上条彩雪音は招待されておらず、会場内に入るのは難しいと考えていたのだが......
状況を観察していると、一部の参加者が生体IDをかざすだけで、ほぼフリーパス状態で入れていることに気づく。
それは、今回のパーティーの出席者には国防軍の幹部が複数居ることで対テロ特殊部隊が配置されている安心感から逆に会場の警戒が緩く、しかも参加予定者が流動的で、チェックが甘かったのだ。
そこで愛彩美は、彩雪音の生体IDを使って潜入を試みる。
すると、あっさり会場内へと入ることが出来てしまった。
そうなれば、時限爆弾を設置するだけ。
各テーブルには豪華なテーブルクロスが掛けられているので、さり気なく物を落としたフリをしてテーブル下に設置。
あとは怪しまれないように人が多く集まって来たタイミングを狙って、受付でトイレの場所を聞くフリをして会場を出た。
その後は、着替えてチェックアウト客を装い、ホテルを脱出。
ホテルから出て行く人々の身分確認は実施されておらず、あっけない位簡単に準備は成功したのだった。
最後は成果の確認だけ。
やがて設定した午後七時半過ぎになると、次々と時限爆弾が爆発。
轟音が夜空に鳴り響き、時限爆弾が上手く起動したことが分かる。
「やったな〜」
嬉しそうな顔を見せる同僚。
運転手役だった若い男だ。
テロ組織の為、お互いの個人情報は知らないし、知る必要も無い。
だから愛彩美も、この時の共犯者の素性は何も知らなかった。
ただ、本当かどうかは分からないが、雑談の中で年齢は27歳だと聞いていた。
「ターゲットを殺れたかどうか、それが最重要よ」
浮かれる男に忠告をしていると、今回の計画の責任者である中年男が現れる。
「大臣か国防次官か将官以上の軍人が死ねば成功だ。 軍事産業のトップも殺れれば万々歳だな」
爆発自体は起きており、けたたましくサイレンが高層ビルが林立する副都心のあちらこちらで鳴り響いている。
会場となった七井記念ホテルは、国防軍の中央庁舎や陸海空三軍の拠点から少し離れているので、軍部が現場に駆け付けるまでには十数分程度の時間が掛かる。
それまでに、結果をある程度把握してから、悠々とKOS市内に戻る予定であった。
ホテル周辺は規制が掛かり、中にはもちろん入れない。
野次馬もかなり集まってきて、マスコミも到着。
現場を管轄する警察や消防、更には特別救急部隊も到着したが、国防軍の応援部隊はまだ現れていない。
また、野次馬達の中には事件事故専門の配信者も居て、彼等は無線を傍受したり、顔見知りの警察関係者から情報を集めたりと、結構出来る者がポツポツ居るのだ。
群衆の中に紛れ、そうした連中の声に耳を傾ける3人。
それによると、爆発は全部で5回。
負傷者は数百人に及び、死者も複数居るらしいとのことであった。
しかし、政権幹部や国防軍幹部、若しくは財界の首脳に瀕死の重傷者が出ていれば、生死の如何に関わらず、次々とドクターヘリ等が到着してもおかしく無いのだが、そうした動きが認められないことに、実行計画立案者の組織幹部の男は違和感を抱く。
そして、2人に、
「離脱しよう。 真の情報は、大本営発表をただ垂れ流すだけの大マスコミ幹部以外、手には入らないだろうから」
と皮肉を交えて指示を出すのだった。
違和感から幹部の男は少し危険を感じ始め、軍部の警戒態勢が強力な首都圏からなるべく早く離れようと、急いで手配させた車両に近付いた時であった。
何処からか放たれたエネルギービームが、その車両を直撃。
3人の目前で、爆発音と共に車両内で待機していた2人の人物が、燃え上がる炎に包まれたのだ。
「ヤバい。 女神に目を付けられたかも」
中年の男は悲鳴に近い大声を上げ、慌てて逆方向へと走り出す。
愛彩美と若い男もその後を追い掛けながら、燃える車両から急いで離れる。
副都心繁華街での車両炎上により、現場は騒然。
取り敢えず、人の少ない小さな公園の前まで駆け抜け、息切れしたことで漸く中年男は立ち止まる。
「ゼエゼエ、ハアハア」
言いながら。
「あの〜、目をつけられたというのは?」
愛彩美が責任者に質問すると、
「碧海の女神って聞いたことがあるか?」
逆に質問される。
「名前ぐらいは知っています」
その答えに、
「そうか。 秋月少将っていう航空宇宙軍の幹部だよ。 俺達組織にとっては女神じゃなくて悪魔だがな」
短く省略したその答えから、少し考えてみる。
碧海の女神は特別な人間兵器。
人智を超える存在。
それぐらいは知っている。
厳しい組織であるので、それ以上の質問は無意味。
その時だった。
幹部の中年男が、崩れるように突然卒倒したのだ。
驚く2人。
まばらだが通行人がおり、怪訝な表情を浮かべて3人の横を通り過ぎてゆく。
倒れた幹部の男は、いくら体を揺すっても、意識が戻らない。
「ひとまず、人目を避ける為、そこの公園のベンチに運びましょう」
愛彩美の提案に、若い男は黙ったまま頷き、何とか2人で公園内に運ぶ。
「救急車も呼べないし、どうしよう」
迎えの車は爆発。
幹部の男は意識不明。
実行役の2人は万が一に備えて、連絡手段や身分証明するものも含めて、生体IDを使う為の超小型携帯端末以外、何も持たされていない。
その時だった。
愛彩美の視界が急に暗くなる。
同時に若い男が急にその場で頭を押さえてうずくまり、うめき声が聞こえたのが最後......
愛彩美も意識を喪失したのであった......
やがて意識が回復。
「ここは......」
見たことも無い空間。
よく見ると、両手に手錠。
両足にも手錠が掛けられている。
周囲を見渡すと、鉄格子の中であった。
「女の方が目覚めたみたいだぞ」
鉄格子外から声がする。
人の気配。
「コツコツ」
と足音が聞こえたかと思うと、鉄格子の外から覗き込む若い男の顔。
「国防軍? それも航空宇宙軍の?」
覗き込んだ男は制服を着ていた。
警察では無く、国防陸軍の迷彩服でも無い、ビシッとしたパイロット系の制服姿。
それで事態を覚った愛彩美。
『碧海の女神は航空宇宙軍の所属。 幹部の男は、その人物に目をつけられたと言い残した後、意識喪失。 その女神に、私達がテロを引き起こした犯人だと見抜かれたという意味か......』
その表情は諦めに変わるのだった。
「隊長、ホテルの玄関やロビーが......」
建物の倒壊を恐れ、少し離れた場所で陣頭指揮に当たる国防軍テロ対策特殊部隊。
ある隊員が、突然の建物の変化に気付いたのだ。
「どうした?」
振り返った隊長。
その表情がみるみる驚きに変わる。
強烈な爆発で、玄関からロビーにかけては歩けない程にガタガタ、ボロボロ。
壊れた内装や天井等の瓦礫だらけだった筈が、綺麗になくなっていたのだ。
急いで建物内に向かう隊長。
すると、建物を支える大きな柱がほぼ元通りになっていた。
「おい、みんな。 手分けして、到着後敷地内で待機中の救急各隊に、建物内での救護活動へ移行するよう、連絡してくれ」
「了解」
隊員達が一斉に走り出す。
険しかった隊長の顔が一気に明るくなり、拡声器を手に取る。
悲惨な現場の情勢が急に好転したのは、きっとあの女神がやって来たからであろう。
部隊においてただ一人だけの、かつての戦役の経験者として、直感的にそう感じるのであった。
知久四大佐から、
『少将の指定した場所で、意識の無い男女3人を確保』
との連絡を受けた後、雛壇を降りると莉音から、
「しかし、まあ、よくそんな格好で、雛壇に上がったねえ」
と言われてしまう。
よく見ると潮音は、附属高のジャージ姿であった。
だが、エヘンという表情で、
「着替えもせず、ここに急いで来たっていうことよ。 感謝して貰わなきゃ」
と宣う。
「なるべく早く私達も外に出ましょう」
鏡水の言葉に頷く莉音。
「私達3人は軍人としてやることがあるので、ここでお別れね。 2人は水入らず、ごゆっくり〜」
潮音の誂いには反応せず、莉音は片手を上げながら歩き出す。
慌てて潮音に頭を深く下げると、その後に続く鏡水。
さっきまで騒がしかった流月が、疲れからか急に眠っていることに気付き、少し気になりながら......
「莉音さん、流月さんが寝ちゃったのって」
莉音が会場を出る前、一瞬流月の方に視線を送ったので質問してみる。
「それは潮音の仕業さ。 流月は潮音のことを僕の姉だと思っているから、碧海の女神だと年齢が合わないだろ?」
「そうですね、でも......」
「当面は知らなくてイイのさ。 璃月一族なのだから、何れは知ることになるし、その時まで記憶操作されている方が幸せだという潮音の判断だよ」
「ただ単に、うざ絡みされたくないっていう理由のような気がしますが」
「正解。 本当の理由は多分それだね。 学校に戻ったら流月につきまとわれるぞ〜。 水は流月にとってテロ事件で多くの人を救ったヒロインだから」
笑いながら、鏡水の手を引いた莉音。
躓きそうになったので、助けてくれたのだ。
「後は軍人さん達に任せて、一般人の僕等は予定通り......」
その言葉で真っ赤になる、相変わらずうぶな九堂鏡水であった。
「さてと」
2人を見送った後、潮音は石音と幼楓を連れて、被害現場を見て回ることに。
パーティー会場には、建物の倒壊の危険が無くなったことで、階下等で待機していた多くの関係者が雪崩込んで来ている。
「あれは、国防次官ね。 もしかして無傷?フン、昔から運のイイ奴。 そもそもアイツとはソリが合わないのよ」
とか、
「経済大臣のクソエロジジイも腰を痛めたぐらいか〜、死んじゃえば良かったのに。 その方が世のため人の為」
とか、ブツクサ小声で呟き、何だか妙に悔しがっている様子に、石音と幼楓は顔を見合わせる。
『やっぱり、何処に居ても、潮音ちゃんは潮音ちゃんだと』
急に笑い出した2人を見て、潮音が質問。
「何が可笑しいの?」
と。
すると、同時に指を差され、不満そう。
「私?」
と言いつつ、
「少しぐらい愚痴ったってイイでしょ?」
そこに、ちょうど階段を上がって来た迷彩服姿の軍人の一団。
その中の一番偉そうな人が、潮音に気付き直立不動で敬礼。
取り巻きの若い軍人達は、意味が分からず立ち止まり困惑の表情。
それに対し、潮音は軽く答礼して、そのまま通り過ぎてゆく。
「あの人も、昔の私を知っているのね」
少し嬉しそうで、でもちょっとだけ恥ずかしさが入り混じった微妙な表情の潮音。
そんな顔を見せていることに、幼楓と石音は何だか嬉しくなるのであった。
ロビーまで降りた3人。
そこではトリアージが始まっていて、あちらこちらに瀕死の重傷者や死者が床上に横たわっている。
「随分な惨状ね」
ひとことだけ呟き、2人に見せ過ぎないようにと配慮し、足早で通り過ぎる。
とは言え、幼楓も石音も今や国防航空宇宙軍所属の軍人。
現実を見せておくべきだとの考えも有って、一緒に回っている。
それが分かっているのか、2人はひとことも発しないが、目を逸らすようなことは一切しないのであった。
ちょうど玄関先まで出たところで、タイミング良く現場に到着した知久四大佐等と合流。
「確保した3人は?」
「ひとまず、航空宇宙軍の拠点に護送しています。 詳細は司令官から軍上層部に報告して頂きたく」
大佐は真面目に直立不動の最敬礼の姿勢で報告しているが、相手がジャージ姿の潮音なので、石音がクスクス笑い出してしまう。
「ちょっと、不味いよ」
幼楓が石音を突っ突いて、笑いを堪えるように促すが、それが逆効果になるのだった。
「大佐、もう少し楽にして。 この子が笑うなんて珍しいんだけどね」
潮音も、ジャージ姿の件で笑いが止まらない石音の様子に気付き、ざっくばらんな感じで報告するよう指示し直す。
「それでは失礼して。 先ず一つ確認です。 副都心繁華街で、突然車両が爆発、炎上。 一時は別テロかと騒ぎになりましたが......」
司令官が事情を知っていると見て説明を求める。
「テロリストが逃亡しようとしたことでの不可抗力よ。 ナンバーは偽造でしょ?」
「問い合わせ中ですが、そのようです」
「ここからだと、ビーム攻撃するしか手段が無くてね」
ちょっと派手過ぎたと、潮音は少し反省。
話題を変えようと、逆に質問。
「3人の方は、当然持ち物無しよね?」
「ええ。 身元は不明です。 しかし、女性工作員がこれだけは持っていました」
唯一押収した物品を見せる大佐。
「超小型携帯端末? 相当高価なモノの筈だけど、これをテロリストが?」
「ええ。 それで、最初に見ておいて頂きたくて」
「莉音〜......ああっと、もう行っちゃったわね。 直ぐ分析させたいけど、どうしようか......」
大佐の他にも同行の部下達もおり、少し躊躇した潮音。
だが重要証拠品だし、対テロ部隊や警察の捜査部門に引き継がねばならないので、時間が無い。
「私だけど、今から来てくれる? そう、直ぐに」
何処かに連絡を入れる。
どうも、財閥の調査部門のようだ。
その後も大佐と、これからについて打ち合わせを続ける潮音。
確保した3人は、引き渡し要請が有った部門に身柄を引き継いで構わないことや、司令官と本部長には潮音から速やかに状況報告すること等、種種の方針を決定。
そうこうしているうちに、出動要請した財閥の者達が到着。
巨大なトレーラーでやって来たので、幼楓や石音だけではなく、大佐も内心驚いている。
敬敬しく、潮音の前に進み出た財閥関係者の男女。
璃月家直属の幹部達であった。
「詩音様。 申し付け通りのモノをお持ちしました。 直ぐにでも解析可能です」
「これよ。 大丈夫かしら?」
潮音から手渡された超小型携帯端末の型番等を確認する幹部達。
上条財閥系列企業の最新型なので、一応解析可能か尋ねたのだ。
「上条のモノなら問題ありません。 海外他社製ならば、少し時間を頂かねばなりませんでしたが」
そのままトレーラー内に持ち込まれ、待つこと約5分。
再び先程の男女両名が潮音の前に進み出る。
「詩音様、解析結果です」
本名で二度も呼ばれ、眉間に皺がよる潮音。
ただ、璃月家直属の者には、潮音の偽名を使わせていないので、仕方ない。
「ご苦労様、迅速な対応ありがとうね」
「詩音様の為でしたら、どこにでも伺わせて頂きます」
深々と頭を下げると、車両に乗り込む。
トレーラーが走り去り、解析結果を改めて見て、ため息を吐く潮音。
「どうだったの?」
石音の質問に対し、周囲に居る大佐以下にも見えるように、解析結果の紙を広げて見易くする潮音。
それによると、
『超小型携帯端末内に残されているデータは、生体IDとその人物に関連する電話番号やメールアドレス、個人識別番号等のみ。
よって、不正に入手した生体IDを悪用する為だけにテロリストが所持していたと認められること。
そして、登録されている生体IDの人物の名は、
『上条彩雪音』
である』
という結果であった。




