↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪戯と黄昏の刻に・第二紀(条月大学附属高の3年教場)  作者: 嶋 秀
第二章(二学期が始まり、やがて卒業篇)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/39

第35話(奇跡の力)


 爆風が、パーティー会場である七井記念ホテル三階の大宴会場内で膨張。


 会場内に窓が設置されていないことで、重厚な鉄筋コンクリートで密閉された空間が逆に仇となり、猛烈な爆発の威力と、殺傷力を増すために爆弾に組み込まれた、無数の特殊な超強化プラスチック弾の力を逃がすことが出来ず、室内でグルグル回ってしまい、阿鼻叫喚な地獄絵図となる。


 そして、かなりの重量がある、閉じられていた宴会場の4箇所の出入り口ドアが吹っ飛び、ホテルの通路の複数の窓を窓枠ごと突き破って、外に落下してゆく。

 ホテルの外に居た人々は、あまりにも酷い爆発に恐れ慄き、バラバラと降って来る構造物の破片から逃げ惑いながら、恐怖に体を震わせていた。



 ホテル外で、敷地内外の不審者の有無や来場者のチェック、所持品検査等の警戒警備に就いていた、国防軍対テロ特殊部隊の隊員達。

 爆発音が響き、慌てた様子でホテル内へ向かおうとするが......

 一階玄関やロビー内のあまりの惨状に、思わず顔を覆う。


 パーティーには多くのVIPな参列者が居たので、それに伴い非常に多くの関係者が、ロビーや玄関付近で談笑しながら終了するまで待機していたのだが、複数の時限爆弾が時間差で作動するように仕掛けられた爆弾テロに巻き込まれ、瀕死の重傷者が続出。

 死者も一目しただけで数十人以上居そうだという、一面血だらけの悲惨な状況にあった。

 しかも、複数の爆発によって20階建てのホテルの躯体に大きなダメージが与えられたのか、建物全体から、

 「ギ〜、ギ〜」

と不気味な軋み音が聞こえ始めている。


 「無闇に中に入るな」

 「しかし......」

 「建物全体が倒壊しそうだ。 そうなれば、救助に入った我々も無事では済まない」

 隊員達は、上官の指摘と指示に従う他は無い。

 ひとまず負傷者を救出したいが、装備も人員も不足しているし、二次被害が発生してしまっては、全く意味が無いからだ。

 無傷の彼等に出来ることは、とにかく関係各所に応援要請をして、事態の後始末を進めていく。

 ひとまずそれしか出来ないのであった。




 一方、三階のパーティー会場内。

 爆発物の強力な爆風で、4箇所の非常に重いドアが吹っ飛び、中に居た百数十名の大半の者は怪我をしていた。

 しかし、仕掛けられた最新型の時限式プラスチック爆弾によるテロだったにも関わらず、死者はゼロ。

 重傷者もかなり少なく、その大半は我先に逃げようと出入口に殺到し、将棋倒しとなったところに、吹っ飛んだ重量扉の損壊の直撃を受け、巻き込まれた人々であった。


 だが何故、被害者が少ないのか。

 それは、絨毯上に伏せている、莉音と流月の視線が見詰めている人物のお蔭であった。

 会場内で一人だけ立ったまま、宴会場内のあらゆる水分を操り続けている九堂鏡水。

 彼女の覚醒しつつある能力が、この時の最悪の事態の発生を防いでいたのだ。



 爆発した瞬間。

 急いで自身の周囲に、小さな薄いパネル状の水の防壁を無数に作り出した鏡水。

 そのパネル状の水壁一つ一つが、まるで意思を持っているかのように、爆発で拡散し始めた超強化プラスチック弾や爆発物の破片、爆発で生じたガラス片やコンクリート片等のあらゆる危険物へと自発的に向かっていき、その運動エネルギーを吸収する。

 もちろん、一つの水壁では、エネルギーを吸収し切れない。

 力尽きると、輝きながら水蒸気のように霧散する水壁。

 すると、直ぐに新しい水壁が、運動エネルギーの吸収を引き継ぐ。

 こうした動きをマイクロ秒の間に繰り返すことで、超強化プラスチック弾や危険な破片が人体に衝突しても致命傷を与えないレベルにまで、エネルギーを減衰させていたのだ。

 これにより、会場内に居た殆どの人々は擦過傷程度の怪我で済んでいた。


 しかし、問題はもう一つ。

 上手く忍び込むことに成功した『日出る国』のテロリストは、不発等の不測の事態発生に備えて、予備でもう一つ時限爆弾を仕掛けていたからだ。

 操っている水達から得た情報で、爆発した不審物と同じモノの存在に気付いた鏡水。

 そこで、室内にある全ての水を一旦自身の元に結集。

 幸いにもパーティー会場であり、飲料水が沢山置かれていたことから、それらを操って大きな水壁を創り出す。

 やがて、時間差でもう一つの時限爆弾が起動。

 だが、その直前に強固な水壁で爆発物を包み込み、爆弾そのものを圧縮。

 圧縮力で爆発物自体に亀裂が入り、隙間から水分を入り込ませ、幾つかの起動回路をショートさせることに成功。

 信管の一部が正常に作動せず、爆発の威力が弱くなったことで、水壁で衝撃を吸収し切れ、続けての被害発生を防げたのであった。


 この間は、ほんの十数秒間に過ぎない時間であったが、鏡水が潜在能力をここまで発揮出来たのは、リミッター解除後の自主訓練や協力してくれている周囲に居る人々のお蔭、とりわけ莉音と潮音の存在によるものであった。




 「綺麗......」

 こんな危機的状況でも、流月がそんな言葉を呟いてしまう程、水壁を操る時の鏡水の動きは、研ぎ澄まされていながらも、何となしに優美さと可憐さを兼ね備えている。

 しかも、操る水壁が消滅する時、ダイヤモンドダストのような輝きを空中で放つのだ。

 これは吸収した運動エネルギーを放出する際、光エネルギーに変換するので発生する現象なのだが、鏡水が無数の水壁を操り続けている間は、宴会場内がダイヤモンドダストのような輝きだらけになっていた。



 「鏡水、出血しているけど大丈夫?」

 舞う様な動きを止めた鏡水の様子から、取り敢えずこれ以上の爆発は無いと判断し、起き上がった莉音。

 鏡水が水壁を操る間、爆発の威力に比して水の量が全然足りなかったことから、自身に恒常的な防壁を張れず、爆発物の飛散物が掠って出血し、着ていた綺麗な水色のドレスが所々破れ、赤く滲んでいたのだ。


 「こんなの掠り傷です。 それよりも、早く脱出しませんと。 まだ爆発物が有ったら危険ですし」

 「このまま建物外に出れる程にまで、状況が好転したとは言えないよね。 鏡水がひとまず僕達を救ってくれたけど......」

 その言葉に周囲を見渡す2人。

 爆発から2分程が経過したものの、階下に居た筈の警備の者達や出席者の関係者等は、誰一人として駆け付けて来ない。

 莉音は護衛を付けていないから誰も来ないのは当たり前だが、これ程の事態にも関わらず、璃月財閥関係者の側近が来て居る筈の流月の父の元にも、それらの者達が現れないのだから、階下では相当な被害が出ていると推察したのだ。


 どうすべきか、暫し考えていると、

 「ちょっと、ここで待機してみようよ」

 突然意外なことを言い出した莉音。

 「水の力では、この建物の損壊を防げないのです。 ここに居て大丈夫でしょうか?」

 建物の不気味な軋み音は、三階の大宴会場にも響き渡っている。

 鏡水は申し訳なさそうに自身の能力を説明。

 水壁は短時間しか存在出来ず、コンクリートの代わりにはならないのだ。

 すると、莉音は鏡水の網膜に自身の携帯端末の表示を映し出す。

 それは、

 「直ぐ行くから動かず待ってなさい。 潮音より」

という返事のメッセージであった。


 

 

 

 「誰よ〜、せっかく寛いでいるのに〜」

 普段からしょっちゅう理事長室でゴロゴロしている秋月潮音。

 鏡水の出発を見送り、勤務終了した後も理事長室に居候していた。

 けたたましく鳴る呼び出し音。

 潮音は普段から、携帯端末を常時着用しておらず、適当な何処かに仕舞っている。

 理由は、財閥や軍からの緊急呼び出しが嫌だからだ。


 「潮音〜、早く出たら〜〜」

 隣接する自宅に居る理事長からの声。

 一向に潮音が出ないので、呼び出し音が鳴り続け、五月蝿いという苦情であった。

 「美月、わかったわよ」

 ようやく立ち上がった潮音。

 軍だったら応答するつもりは無く、そのまま切る予定だったのだが......

 掛けてきたのが莉音だったので、考えを改める。

 息子の莉音が直電してくるのは、かなり珍しいこと。

 『パーティー中よね、いったいどうしたのかしら?』

 そう思い、応答しようと手を伸ばした時、メッセージが目に入る。

 【テロ発生、直ぐ来て欲しい】

という。



 「ちょっとここ借りるわね」

 急に大声を出し、理事長に一言告げてから、部屋で何かを始めた潮音。

 「どうしたの〜〜」

 美月の確認に、

 「緊急事態、首都でだって〜」

 理由を超簡潔に説明をした後、魔術を使う。

 潮音がリヴ・レヴの魔術を使うのは、最近では珍しい。

 瞬間移動や恒星エネルギーを操れるのは、レヴ個有の能力であって、それ以外は人間が『魔術』と呼ぶ、異星人の超高度テクノロジーを源とする軍事技術の結晶を利用している。

 生まれた時点で肉体に埋め込まれる特殊な超テクノロジー生体チップによって、色々な力を引き出す代物だ。


 今回は緊急時とあって、召喚魔術を使う。

 潮音の目の前の空間が激しく輝き、やがて光が収束すると、2人の人物が目の前の床上に座っていた。

 「あれっ? ここは」

 「もしかして、理事長室?」

 びっくりして、キョロキョロ周囲を見渡してしまう。

 幼楓と石音であった。

 「良かった〜、コトの最中だったらどうしようかと思った〜」

 潮音は安堵の表情。

 2人が最近交際し始めたのを潮音は知っていたからだ。


 「まだ、午後8時にもなってませんよ」

 「私達、受験生ですから」

 流石に酷いと抗議を受けてしまう。

 「ゴメンゴメン。 でも、何故まだ制服姿なの?」

 潮音はふと疑問を口に。

 「あらっ、まあ、2人ったらヤラしいわね~。 制服プレイをする......」

 そこで、潮音の頭をポカりと叩く人物が。

 気付くと隣室から立花理事長が入って来ていた。


 「くだらないことを言ってる場合じゃないのでしょ?」

 その指摘に、用件を思い出した潮音。

 「理由は着いたら説明するわ。 2人共、私にしっかり掴まって」

 そういうなり、2人をそれぞれの手で掴むと、

 「行ってきます、美月。 外泊届け宜しく〜」

 そう言い残し、3人は直ぐに姿を消したのであった。

 


 

 

 「莉音さん、目の前に突然光が......」

 鏡水はびっくりして身構える。

 「大丈夫だよ。 緊急事態だから、直ぐここに到着するみたい」

 主語は省略したものの、潮音が来るという意味である。


 暫くすると、目を開けて居られない程の眩しさに。

 その場に居る人達が、手を翳して自身の目を防護していると、やがて光が収まり、3人の人影が現れる。

 潮音と幼楓、石音だった。


 「どうしたの? ここの絨毯びしょ濡れだけど」

 潮音の第一声はそんな感じ。

 鏡水がエネルギーを与えていた水分が全て力を失い、普通の状態に戻っていたのだ。

 「説明は後。 ひとまず、このホテルの建物が崩壊しないようにして欲しいのだけど」

 莉音の要望に、石音の肩を叩いた潮音。

 言われる前から、いつも冷静な石音は周囲を見て状況を察知し、既に濡れた絨毯に両手を当てていた。


 「楓、石音の姿を周囲から見えないようにしてあげて」

 続く指示に、幼楓は小さな風を引き起こし、石音を渦の中へ。

 風の回転が増すにつれて、石音の様子は周囲から見えなくなる。

 好奇の目に晒されないよう、集中して作業をさせる目的の措置であった。


 「じゃあ、私は犯人を拘束しようかしら?」

 莉音や鏡水に向けて笑顔を見せる。

 「もしかして、この会場に?」

 「ノーノー、連中もそんな馬鹿じゃないわ。 ここに残っていたら下手すると死んじゃうでしょ? アイツ等自爆テロはやらないから」

 「では、何処に」

 「きっと、取り巻きの野次馬に紛れ込んで、様子を窺っているわ」

 「なぜです? だって、近くに居たらヤバいと思うのですが」

 「成功したか失敗なのか、それを知りたい訳よ、テロリスト達って」

 「でも」

 「時限爆弾は狙い通り爆発。 でも、ターゲット達が被害に遭っていなかったら?」

 「失敗ですね」

 「そうだったら世間にアピール出来ないでしょ? 報道規制が掛かるから、直ぐ結果は分からない。 それが嫌なので、暫く様子を見ているの。 多分ね」

 潮音は鏡水に説明を終えると、直ぐに誰かに電話。


 「大佐、私だけど」

 「少将閣下、今ちょっと手が混んでいまして」

 「知っているわ。 緊急出動命令出たの?」

 「ええ。 小官も残っていた連中を率いて、現場に向かっています」

 「じゃあ、七井記念ホテルに着く前に、今から送る座標に立ち寄って。 そこでテロの実行犯を拘束してあるから」

 会話の内容に驚く鏡水と幼楓。

 それは、副司令である知久四大佐も同じであった。

 今、着いたばかりなのに、司令官はもう犯人を捕らえたと。


 電話を切ると、潮音は、

 「ちょっと、術を使ったの。 犯人以外には効果が無いけど、犯人だけが抱いている潜在的な恐怖感を、極限まで増大させ、人間の精神状態を奈落の底に叩き落として、動けなくなる手品をね」

と、簡単な種明かしをしてウィンク。

 ちょうどその時、渦巻く風の中から、

 「潮音ちゃん、応急処置終わったよ。 取り敢えず、壊れた支柱を全部直して、階段やロビーも通れるようにしておいたから、当面は大丈夫。 それに不審物も館内には無さそうね」

という石音の声が。


 そこで、潮音は半ば壊れた雛壇に移動。

 「すいません、皆さん。 私は国防軍の秋月と申します。 建物の外に出れるようになりましたので、動ける方は徒歩移動を。 外には国防軍や警察、救急関係が集結しつつありますので、そちらの指示に従って下さい」

 その様に会場内に居る人々へ話し掛ける。

 すると、

 「おお、『碧海の女神』の登場だ。 みんな、再び彼女が奇跡を起こしたぞ」

 財界の幹部の一人が称賛の声を上げる。

 パーティー出席者は社会的地位の高さから、年齢層も高く、十数年前の英雄譚を覚えている人が大半。

 軍部は彼女の功績を忘れがちだが、大陸の大国に土壇場で苦杯を飲ませ、勢力拡大を防いでいるのは、いつも彼女の存在であった。


 自然と湧き上がる歓声と拍手。

 それを聞きながら、潮音は真の功労者を手招きして呼び寄せる。

 九堂鏡水が起こした奇跡。

 その勇気ある行動と、潜在的な異能の力に称賛が寄せられるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。