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悪戯と黄昏の刻に・第二紀(条月大学附属高の3年教場)  作者: 嶋 秀
第二章(二学期が始まり、やがて卒業篇)

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第34話(流血の宴)


 「馬鹿が引っ掛かったみたいだ」

 大金が振り込まれた口座を確認する若い男。

 「依頼主は、財閥のお嬢様のようだぞ」

 相手方がインストールした、こちら側提供の特殊なアプリで、その携帯端末内の情報を全て抜き取ってから、All削除機能が無事起動したのを確認。

 双方のやり取りや位置情報等、あらゆる情報が自動削除された後、一切の連絡が取れないようにする。


 「ほう~。 内容から上条財閥関係者か。 これはもうひと稼ぎ出来そうだ」

 この男達の居場所は、列島西部の中心都市だったKOS。

 かつて副都と呼ばれ、国による巨額投資で副首都機能が整備されたものの、完成直後に巨大地震が発生。

 津波襲来で湾岸部が壊滅的被害を受け、その後異能者への不適切行為による懲罰的豪雪被害の直撃も喰らったことで、首都機能代替えどころか都市としての機能を著しく喪失した元大都市である。

 近年では国際関係の極めて悪い、大陸の大国に近いことが影響し、国全体としては経済的に復興しつつあるものの、人口が五千万人以下に半減したこともあって、大都市としての再建を放棄し、放置されたままとなっている。

 そういう状況からKOSは、治安の著しい悪化で、アングラ組織が蔓延るようになり、『列島の悪の巣窟』とも呼ばれている。


 結局、彩雪音が手付金を支払った相手は、暗殺や誘拐を請け負うような組織では無く、依頼金を受け取ってから姿を晦まし、抜き取った情報を転売して二度儲ける、ただの国際的詐欺組織の一味であった。




 金曜日の放課後。

 外泊許可が承認された鏡水と流月。

 特に流月はかなり浮かれていた。

 「じゃあ、九堂様。 パーティー会場で再会しましょう」

 明らかにルンルンな様子。

 『外に出たかっただけなのかも』

 同乗をやんわり断った鏡水は、迎えの車に乗って附属高を去ってゆく流月を見送りながら、呆れた顔をして立っていると、

 「あの子もそうだけど、水も浮かれ気分よね?」

 図星の指摘。

 潮音であった。


 「先生は出席されないのですか?」

 話題を変えようと、あえて質問。

 これが功を奏し、莉音と逢える嬉しさを茶化されずに済む。

 「国防軍の幹部が多数出席するパーティーなんて嫌だわ、そんな無粋な方々の相手をするなんて」

 「単に老けメイク姿を晒したく無いのでは?」

 その言葉にぐうの音も出ない潮音。

 「まあ、大御所たる私が出席するレベルの宴では無いってことね。 それに余程の場合でない限り、莉音と私が同時に出席する方が珍しいのよ」

 「それって、万が一の事態が発生した場合にって意味ですよね」

 「うちは一族が少ないし、トップ二人が同時に居なかったら、誰も緊急時の指揮を取れないでしょ?」

 「なるほど」


 そんな会話をしていると、ど田舎にある学校の正門前に向かって走って来る車両の姿が。

 「やっと無人タクシーが見えたわ。 気をつけて行ってらっしゃい」

 「ありがとうございます、先生」

 「向こうには連絡入れておいたから。 いつも通りドレスは好きなのを使って」

 潮音は鏡水の服装を見ながら、少し気を遣う。

 相変わらず、ちょっとだけ高級感あるスポーツウエアの上下姿だったからだ。

 それでも、相当似合っているのは鏡水の背が高く、プロポーションも抜群だからであろう。

 やがて、タクシーに乗り込み、駅に向かうその車を見えなくなるまで見詰めていた潮音。

 『娘が居たら、こんな気持ちになるのかなあ~』

 そんなことを考えながら、学校の敷地内に戻って行くのだった。




 高速鉄道の終点首都中央駅に到着すると、改札付近に出迎えが来ていた。

 潮音が手配した璃月家の関係者で、鏡水も見覚えがある初老の人物。

 「九堂様、大御所様からお話は伺っております」

 「いつもすいません。 お世話になります」

 「さあ、こちらへ」

 鏡水はVIP扱いされるのが嫌なので、普通の改札口を使う。

 そして、車の送迎では無く、徒歩で本社ビルに向かう。

 中央駅近くにそびえ立っているのだから、歩きで十分という理由でだ。

 それでも案内が付くのは、あくまで本社ビルや付随の邸宅に入る為に必要だからであった。




 「今日の会場は、七井記念ホテルでしたよね?」

 「はい、そうです」

 流石にドレス姿で電車や公共交通機関に乗るわけにはいかない。

 会場までは送迎車でだ。

 先程出迎えに来てくれた、如何にもベテラン執事という方が無人車両の助手席に同乗。

 鏡水は異様に広い後部座席で小さくなって座っている。

 場所を再確認されたということは、時間が掛かるという意味。

 そこで鏡水は一応確認してみる。

 「遠いのですか?」

 「首都中央駅から30分ほどかかりますので、どうぞお寛ぎを」

 「はい」

 しかし結局、落ち着かないまま、会場のホテルに到着。

 そのまま執事の方の手際良い手配で、莉音が使う待機室へとスムーズに入ることが出来たのであった。




 午後7時。

 到着後間もなく、宴は始まった。

 だが、莉音は案件の処理が終わらず、少し遅れるとの連絡が直接鏡水の端末に入っていた。

 一人で会場に行っても、ただ好奇と妬みの視線に晒されるだけ。

 そう思う鏡水は、そのまま莉音を待つことに。


 約30分後。

 ようやく莉音が到着。

 待機室に入るなり、抱き着いてきたのは莉音の方であった。

 「逢いたかった」

 「私も」

 そんな会話から再会が始まる二人。

 周囲の者達が顔を赤らめる程のラブラブっぷり。

 莉音は着替えることなく、そのままの姿で会場に出ると言う。


 「今日のドレス姿も素敵だね」

 「大御所様のお蔭で」

 「......」

 「どうかした?」

 「いや、自分の母親のドレスかと思うと」

 「ちょっと恥ずかしい?」

 「鏡水の方が似合っていると思ってね」

 「ふふふ」

 「どうしたの?」

 「きっと、潮音ちゃん。 今頃くしゃみをしているわよ」

 「そうかも」

 そんな会話をしながら、会場の入り口で二人は改めてキス。

 戦場に出る前の恋人同士の儀式のようにであった......




 この日の最もVIPな人物の遅れての登場に、会場は大きな拍手に包まれる。

 司会者から紹介を受け、ひと通りの挨拶をスマートに済ます莉音。

 『そんな姿も素敵だな』

と思っていると、流月が待ってましたと鏡水のところに。


 「鏡水様、遅かったじゃないですか?」

 「ごめんなさい。 莉音さんが少し遅れたので待っていたの」

 「そんなことだと思っていました。 それでは早速行きますよ」

 「えっ、何処に?」

 「先ずは私の家族のところにです」

 そのまま流月に手を引かれ、雛壇に最も近いテーブルへ。

 そこには、このパーティーの財閥側の責任者である流月の父親等が座っていた。


 「パパ~」

 「どうしたルナ」

 隣席に座る七井重工業の会長との談笑を止め、カワイイ愛娘の呼びかけに反応する。

 「私の新しいお友達を紹介したくて」

 「おお、そうか」

 「こちらが九堂鏡水様よ」

 「ん?」

 流月から紹介の名前に聞き覚えがあったルナの父。

 ただピーンと来ず、ありきたりの挨拶をする。

 「私がルナの父です。 娘が学校でお世話になっているそうで」

と。

 それに対し、深々と一礼してから挨拶を返した鏡水。

 すると、流月が不満そう。

 「パパ~、もう呆けが始まったの?」

 「いやいや、まだそんな年じゃないぞ」

 「九堂様よ、九堂様。 まだシナプスが繋がらない?」

 そこまで言われてしまい、考え込む流月の父。

 そこに、

 「社長の呆けは今に始まったことでは無いからね~」

という追い打ちが。

 「これは御当主様。 わざわざお越し下さりありがとうございます」 

 急に改まる流月の父。

 鏡水の背後には、挨拶を終えたばかりの莉音が立っていたのだ。

 「莉音様、お久しぶりでございます」

 流月が慌てて挨拶を始めると、同じテーブルの者達も次々と挨拶。

 経済界の幹部であれば、莉音のことを知らぬ者は居ない程の有名人だからだ。

 莉音は軽く挨拶を返しながら、

 「社長。 今日はルナの活躍に感謝しないと」

 「ええ、まあ」

 まだ意味がわからないという表情。

 「今日のこのパーティー、鏡水は出ないつもりだったんだよ。 それを出席に変更させたのが、流月の説得って訳だ」

 「ということは......こちらの方が御当主様の」

 「鏡水が出席しなければ、僕も欠席していたさ。 現に今日の仕事、全く終わっていないんだ」

 莉音が軽妙に事情を説明したことで、流月の父にも鏡水が莉音の婚約者だと漸く理解出来たのであった。


 「これはこれは、大変な失礼をしてしまいました。 なんとお詫び申し上げれば良いやら......」

 璃月一族としての大失態に、冷や汗ダラダラの流月の父。

 『父娘って、やっぱり似るのね』

 そんな感想を抱きながら、丁寧に自己紹介をした鏡水。



 その後流月に、知り合いの間を一巡りさせられていると、莉音が二人の元へ。

 「流月、お披露目はそれぐらいにして。 鏡水、そろそろお暇しようか?」

 「はい」

 「え~~莉音様。 あと少しだけ。 ねっ」

 「いや、ダメだ」

 「う~~、グレてやる」

 「どうぞ」

 「冷た~い」

 「ルナに対して、僕はいつも冷たいだろ?」

 「ぐ~~、言い返せん」

 そんなやり取りに周囲では笑いが起きる。


 そして、莉音が鏡水の手を握り、会場をあとにしようと一歩踏み出した時であった。

 「莉音、ちょっと待って」

 急に立ち止まった鏡水の声に振り返ると、今まで見たことの無いような深刻な表情を浮かべている。

 「どうし......?」

 その質問をジェスチャーで制止。

 何か集中したいようだ。

 目を瞑る鏡水。

 その姿を見守る莉音と流月。

 『危ない、鏡水。 暴風に身構えて。 僕達私達を周囲に張り巡らせて、直ぐに......』

 そんな声が頭の中に響く......

 「もしかして、水さん達?」

 呟いたその時。

 爆風に包まれる自身の姿が見えたのだ。


 「みんな、その場で伏せて~」

 その大声にシーンとなるパーティー会場。

 3秒後。

 会場外で爆発音のような轟音と振動が響き渡る。

 「何が起きている?」

 誰かが叫ぶ。


 次の瞬間、時間差で再び爆発音。

 多くの人々が事態を把握する。

 「これはテロだ~」

 「みんな逃げろ~」

 その大声に、鏡水は、

 「ダメ~、とにかく伏せて~」

と叫び、莉音と流月の手を引いて、二人だけは強引に伏せさせたが......

 ホテルの外や玄関、ロビー、廊下、エレベーターホールに続いて、会場内でも大音響と共に、仕掛けられた爆弾が爆発したのであった......




 テロ発生時から、少し時間を遡る。

 彩雪音から大金をせしめ、個人情報を抜き取った男達が売った情報の相手。

 その夜のうちに、即金で買った者達が偶然居たのだ。

 それがKOS市内に拠点を置くテロ組織

 『日出る国』。

 貧富の差が著しく広がり、貧しくなったこの国を、かつての輝かしい世界に冠たる大国として復活させようと目論む、国際的にも認定されているテロ組織である。


 粛清対象は腐敗した政治家や軍人、財界関係者等が主。

 数十年前に金融危機が発生し、世界恐慌の震源地となったこの国の経済が崩壊して以後、少数の財閥が経済を牛耳るようになり、政府の財閥依存度も極めて高い。

 それに伴い、『日出る国』の活動は政財界に照準を絞り、より活発となっている。


 「上条彩雪音、条月大学附属高校三年生か。 国防軍との結び付きの極めて強い超エリート高の、しかも上条というわが国第二位財閥の一族にも名を連ねるこの人物の端末から抜き取られた生体IDがあれば、たとえ国防軍の対テロ精鋭部隊が警備に就いている場所であっても、出入り自由だぞ」

 「それは凄い。 我等の活動範囲や成果も格段にレベルアップ出来るな」

 テロ組織のメンバー達は、10代とはいえ国家の最上位VIPな人物の生体IDを入手出来たことに興奮状態にあった。


 「それで提案だが......」

 「早速実戦で使ってみようというのだな?」

 「そうだ。 この彩雪音なる人物は明日首都の高級ホテルで行われる財閥系のパーティーで、一部の人物を狙った軽いテロを引き起こして欲しいと依頼している。 それを実現させてやろうじゃないか?」

 「出席者は?」

 「情報によると、国防軍次官○○○○、経済大臣×××、国防軍参謀本部◇◇中将といった政府や軍部の要人に加え、璃月財閥当主璃月莉音や七井重工業の会長・社長等、財界の首脳も多数出席するらしい」

 「ほう、なかなかのメンバーだ。 これは警備が厳重だろうし、試してみて損は無い」

 「新型兵器の共同開発に伴い、AM国に拠点を置く多国籍軍事複合企業のAKIZUKIインダストリーと我が国を代表する軍産複合体の七井重工との業務提携記念パーティーだからな。 高級軍人の出席が多い理由だ」

 「軍部の利権屋さんが大挙して押し寄せるパーティーか。 やり甲斐だらけだな」

 「よし、やろう!」

 「では、早速だが......」



 彩雪音の世間知らずぶりと浅慮さが、とんでもない事件を引き起こしてしまったのだが、当事者達はまだ何も知らないのであった。


 

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