僕は私。Ⅲ
電車がやってきた。
眩い光を撒き散らしながら直ぐ前を横切って、僕の目の前には今にも開こうとしている電車の扉があった。
ふと、視線を感じた。
後方、すこし左斜め後ろ、誰かの刺すような鋭い視線。
僕に絡みつくようにまとわりついて、離れない。
誰が見ているのか?
知り合い、それとも…
入り口に突っ立ったままだと人が出入りしにくいと思って、思考をそこで中断する。
まだ粘り強く絡む視線からは逃れられず、また、やむことは無さそうだ。
いつになれば、このよくわからない視線はなくなるのか。
分からないことが余計に苛立ちを増幅させ、更に気分を重たいものにしようとしていると、誰か別の人の気持ちが僕の心に滑り込むようにして染み込んできた。
その人は気分を害していて、気持ち悪いと感じているらしかった。
僕とはまるで違うその思考に驚きつつも、ちょっとだけ納得もする。
―ほんとに、さっきから気になってしょうがないんだよなぁ。
僕は後ろの、視線を感じる方を勢いよく振り返ってみたい衝動に駆られるが、すぐにその気持ちはしぼんで鎮火してしまう。
まるで誰かに消されたかのように。
心に灯った勢いの炎は、冷たくなっていた。
それでもやっぱり、いつまでも僕は気になっていただけだった。
気分が悪くなることも、嫌な気持ちも、全然感じていなかったのだ。
やまない視線に少しだけ後ろ髪を引っ張られる思いをしつつ、中に入った。
少し暗くなりかけで、中途半端さが拭えない黒い影と景色が交錯するようにすぎていく。
電車が三駅ほど過ぎ、僕はようやく切符にあった地名までたどり着いた。
断然ゴミ駅より綺麗。そんなことがまず最初に頭に浮かんで、次に売店から立ち上るいい匂いが僕の鼻を掠めていく。
ゴミ駅とは違い、人が沢山いる。夕方だからか、帰ろうとする学生服が多数を占めていた。あれはどこの高校だろうか。
青、白、紺色、黒…、色とりどりな制服が僕の視界を埋め尽くして、僕を楽しませる。時には色が混じりあい、陽気な調子で踊り狂う。駅からの光が、所々に彼らの影を作り出して、影は、彼らを取り込んでしまおうとするかのように、長く、細い大きな存在になっていた。
色彩なんてよく分からない僕でも、そこに絵の具が沢山あれば何故だか楽しくて嬉しくなる。
僕の心がままるで小学生の子供みたいだと言われたことも、そういえばあった気がする。
これといって特に駅に用がなかった僕は心なしか足取りが覚束ないままに、ふらふらと駅を出て、これから何をしようかと考えていた。
いや、正確に言うと、僕は具体的には何をすればいいのか、ということだけを考えていたのだ。
電車に乗ったときから思って、ずっと心に留めていた。
僕が此処までわざわざやってきたのは、僕自身の欲求を優先する前に、絶対に果たさなきゃいけないことがあったからだ。
それはこの身体の持ち主がやりたかったこと。
やり残したこと。
つまりは、
「彦都 夕日、
君がやろうとした事は、一体何…?」




