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僕の彼女  作者: 密玄
一の章 はじまりは唐突に
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僕は私。Ⅱ

僕がいた場所は、駅のプラットホームだった。


ちなみに、命の危険を身にしみて感じる白線の外側に立ちつくしていた。

僕はそんな剛胆な性格でもなし、白線の近くにすら寄らない主義である。

つまるところ、よく分からなかった。

自分がここにいる理由が。


選択肢の件は僕の容量が人に比べて少ないと先生に言わしめた脳の隅っこに鎮座してもらう。消えない事を願っておこう。


はじめに感じた事は、見覚えがあるな、といった少しの懐かしさと既視感だ。

少ない記憶群の中からごりごり掘り下げていくと、ようやく思い当たることがあった。

二、三年前のこと。そういえば僕は、ここに来ていた。

時代からも人からも取り残され、人気がなく寂れてしまったここ、通称ごみ駅はごみと近所の人から以上に愛された駅であると記憶している。とにかくゴミなのだ。入り口付近には使われていないだろう錆び付いた自転車といつかのコンビニのレジ袋が乱雑に並べられているし、ここは山奥かと叫びたくなった、テレビと冷蔵庫のオブジェ。おまけとして地面にガムがこんにちは、としているのは愛嬌である。しかし実際足を踏み入れてみても、あら不思議、ゴミのにおいがなくなっているではありませんか!はっ、と切符売り場に目を寄せるとお見えになるのは芳香剤様であらせられる。近所の人がお金を出し合って続いているという、愛の結晶である。

愛があるならまずはゴミを片づけては…というみんなの気持ちは、おばさま方によって黙殺させられているのは、ここだけの話だ。いや、片づけようよ。


きた、と言っても、何回かだけである。もしかしたらもっと来ているのかもしれないが、僕は覚えていないからね。

辺りは暗かった。ひらけた天井からは夜空が覗いている。

改めて現状を認識した僕は、自分が外気にさらされている事に気付いて、体を小刻みにさする。ぽかぽかして暖かい。でも寒い。


今は冬である、らしい。息を吐くともやっと白い煙が口から出るわ、なぜかやけに冷たく感じる足とか、特に大根より細い(筋肉がありませんので)ふとももとか。

よくよく考えれば、やっぱ冬なんだよね。

実感がわかないまま、首に巻かれた黒いマフラーが僕を慰めるように優しく寄り添う。もふもふして良い奴だ。黒い手袋も、指先までぬくぬくだ。これでは通販の商品が負けてしまうだろう。なんてこと。


僕の他にはぱっと見て十人くらい、全員こちら側にいた。

携帯を手に持ってうつむいている人が多い。誰も彼もが下を見ているような気がした。このまま踊っても気付かれないんじゃね、くらいは調子こいた。


それより電車。

僕はここにいる限り電車に乗るという使命を果たさねばならぬ筈である。

肩に掛けていた黒い鞄に無遠慮に手を突っ込んで、宝探しのようなわくわくした気持ちで手を動かしていた。あった。携帯。うーん、これは今いらない。ぽいっ、中に投げ入れた。

それから僕は探し続けた。時間にすればたった二分。されど二分である。

一種の執念に取り憑かれた僕は、小学校時代の女子の更衣室を覗きに行くという恒例のおふざけをする時と同じくらい目を血走らせて手をがさがさしていた。

ついに自分が怖くなってやめた。ならばポケットはどうだ。

羽織っているパーカーのポケットを探り、指先がお目当てのものに触れる。切符だ。見た事もない地名が書かれている。

でも、なぜか知っているような、そんな不可思議な錯覚がおこる。


時刻を電光掲示板で確認する。真上にあった。いま地震が起きたら僕の頭は潰れるに違いない。絶対。


ぎいぎいとナニカがきしむ音をBGMとして聞き流しながら、切符をしまいこむ。



なるほど、つまりあと一分で電車は来るわけだ。


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