僕は私。Ⅰ
本編です。
保存しますか。しませんか。
目を開けたら無機質な横並びの選択肢が、僕に迫って今にも襲いかかりそうな勢いである。
これはなにか、あれか。
どこかの神様がついに僕の全人類に対しても引けを取らない(少し欲張った)魅力に一目惚れをしちゃった末の求婚、とやらか。
多少困るがその神様の容姿を見てから決める事もなくもない。
――いつかの帰り道で思わず拾ってしまった七一四円の、男の夢が詰まったピンク色に染まった雑誌で決めポーズをしたお姉さんが脳裏に浮かび上がる。
ああ、肝心なところが見えないな、くそう!…じゃなくて、なぜ細部まで覚えているんだ、僕よ。
思わぬ機会に自分の変態具合が露呈したところで、目の前の現実に改めて向き合う。
横文字の選択肢だ。横文字の。
これは重要だ、なんせ文学を愛する僕からすれば縦文字こそが僕の真理!理想!
求めてやまない、めくるめく大人の世界が濃厚に綴られた文章は縦書きにこそ魅力がありますからねー、僕の脳内司会者が派手な装飾に彩られた台の上に手をついて、声高らかに叫んでいる。
よせやい、僕はソンナヘンタイジャナイヨ?
脳内司会者を壇上から引きずり下ろしたら、目の前が急に発光し、ストロボみたいにチカチカ点滅し始めた。
とても眩しい。
人の目では見てはいけない限界を超えた光の量、これは太陽をも凌ぐレベルだ。
日頃の行いが良すぎて逆に君の善行ポイントたまっちゃって私困っちゃった、だから僕を即刻始末、みたいなノリか、そうなのか。
ここで再復活を果たした脳内司会者が横やりを入れてくる。
転生ものの小説とか読み過ぎたんじゃないですかねー、にやにや。
にやにや、にやにや、今まではっきりしなかった司会者の顔の、口元だけがくっきりと視認できるようになった。
脂ぎった蛙のおじさん(の口端に色っぽい黒子が見えるが、あんなオプションいらない)を連想させるその口元は、在りし日の僕を嘲笑った叔父さんの口に、よおく似ている。嫌な思い出だ。
暗転。
暗くなった視界で、冷静さを取り戻した僕は文字の意味について考える。
保存しますか…、よく分からないけれど、そうした方が良いような気がしてYESの文字を空中に指を押しつけるようにして、選択する。
いいよね、消しちゃうのってもったいない感じしない?
日本人のもったいない精神を遺憾なく発揮した僕は、消えゆく選択肢を目にしながらふと思う。
…ええと、ここ、どこ?




