彼女説明書 さん
彼女の周りには、沢山の人がいて、その中にはもちろん男がいて、彼女に好意を示す男子も多くいた。
別にいい。
それは良かった。
でも、一つ、許せないことがあった。
紙の束を掴んで上に掲げる。
「副会長ー。これ、先生が配っとけって言ってたから、配ってー。」
「なんで?
自分で配れよ、眼鏡。」
真顔で僕に冷たい視線を送る彼。
僕をあだ名で呼ぶな!
副会長は、その名の通り生徒会の副会長である。
中学からの付き合いで、その腹がいかに黒いかは間近で見てきた一人だ。
優しさだけを匂わせておいて、調子に乗って近づきすぎたら喰われる。まるで食虫植物のようだ。
そんな副会長は、もちろん女子に人気がある。
いつも違う女子と放課後帰っているのを、僕は知っている。
副会長は彼女をとっかえひっかえして、その周期は大体、もって一週間である。
気が続かないのだ、と副会長は言う。
一回、僕は副会長に、彼女を直ぐに変える理由について尋ねたことがあったのだ。
一週間経てばすっかり興味が失せて、どうでもよくなるらしく、副会長はそうしたことを繰り返しているようだ。
好意が嫌悪に変わるのが、僕の場合は人より早くて多いんだよ。
副会長は少し悲しそうに目を伏せて、身体を震わせていたが、あれはきっと笑っていたに違いない。
僕が副会長のことについて聞いたのは初めてだったから。
そんな腹黒い副会長も、彼女にはかなわない。
彼女がいれば彼女を優先するし、彼女にだけは執着する。
副会長が彼女と付き合おうともしないのは、きっと…
「聞いてる?
やっぱ配ってあげる。
ほら、半分ちょうだい。」
手を目の前に差し出されて、慌ててプリントを半分渡す。
不審なものを見るように、副会長が僕に視線を向けたが、直ぐに逸らされた。
「あ、ありがとう。
急に優しくてびっくりしただけだ。
それより…」
配りながら口は動かすという器用なことをする。
紙で指が滑ってつまみにくい。
「何?
10秒以内に言わないと聞かないから。」
「ひでえよ。
今日は塾、行くのか?」
少し考える様な仕草をする副会長。
見ればもう配り終えていた。
「行かないよ。
生徒会の仕事で長引きそうなやつあるからね。」
「そうか。
あっ、」
紙で指先を切ってしまった。
嫌な事は続くものだな。
「副会長ー?」
大声で呼ぶ声が昼休みの教室に響き渡る。
入り口付近には生徒会役員の姿があった。
「役職名で呼ばれるの、僕嫌いなんだよね。
眼鏡。君も気をつけといてよ。」
そう言い残して副会長は去って行った。
僕は知っている。
副会長が副会長と呼ばれるのを嫌う理由は、彼女が副会長と呼ぶからだ。
彼女に名前を呼んでもらえない辛さが、いちいち反芻するから、あだ名で呼ばれたくない。
彼女は副会長と中学の同級生であり、幼なじみのようなものだと言っていた。
そして、彼女は副会長の弱点の一つだ。
余ったプリントをゴムで縛りながら、
副会長は彼女が好きなんだろう、と思う。
好きというより、執着。副会長にとってかけがえのない何かであり、絶対に失いたくない何か。
彼女はどうなんだろう、という考えがふと頭を横切った。




