彼女は、Ⅶ
リコト。
彼は私に似ているようでいて、正反対である。
私は一週間のうち2日間だけ、放課後に化学準備室に行く。
そこにはリコトがいて、苦いブラックコーヒーの匂いが充満している。
私はその匂いが、言いようもなく好きなのだ。
化学準備室の扉を叩く。
中からリコトのくぐもった声が聞こえてきて、私は中に入る。
コーヒーの匂いと、だるそうなリコトの顔。
いつ見ても飽きない。
「ノックしなくても入ってくればいいのに。君って律儀だよね。」
顔と声のギャップが激しくて笑いそうになる。
「リコトも、律儀ですね。いつもの喋り方はどこいったんです?
ああ、皮が厚すぎたんですか。」
私は手近にあった椅子に腰掛けた。
「うるせーな。
お前、今日来るの遅かったろ。
…なんでだ?」
きた。
リコトは私が早く来ないと怒って、拗ねてしまう。
実際のところはそんな可愛い感情じゃないけれど、リコトは優先されないのを嫌う。
それを私に求めているだけなのだ。
「…図書室ですよ。
あの人に勉強を教えていたんです。
頼まれたら、断れませんよね?」
私も、あなたも。
「またあいつか。
あの茶髪野郎、成績良いくせしてお前に聞きたがる。
…これ以上長くなるなら許さねぇからな、2人とも。」
カップを片手に持ち、苛立たしそうに溜め息をついている。
「へえ。まあ、どうでもいいですが。
ところで、あの不良の件、調べてもらえましたよね。」
「ああ。
分かったのは、うちの生徒って事だけだな。
ただ金を渡されたからやった、顔は眼鏡をしていたぐらいしか覚えてない、って言ってたな。
それぐらい薄い顔だったつーことだ。」 コーヒーを煽りながら、机に頬杖をついている。
私は手持ち無沙汰な事が気になっていた。
「やっぱり怨恨ですね。
確実に私を狙っていますし、関わりを持っているとなると、一方的な恨みでしょう。」
やりきれない気持ちを抑えて、気丈に振る舞う、ふりをする。リコトはそんな私を見て笑う。
「だろうな。
お前が恨まれるなんて、そいつの彼女でも奪っちゃったか。」
有り得ないことを呟く。普通逆だろ、普通。
「それはいいんですが、今日は先生にお願いがあって。」
一拍おいてから、改めて姿勢を変えてリコトに向き直る。
リコトの戸惑った目と視線がぶつかった。
「リコト、いつぞやの話、覚えてますよね?」




