しゃべる家電もといマスコット
「はぁ~。やっぱり我が家が一番じゃのう」
久しぶりに家に帰ったラファエロは、ソファに直行するとごろりと横になりました。
ボスコ邸、スレイ城と豪華な部屋で過ごしていましたが、どうにも寛げませんでした。
「師匠。何か落ちましたよ」
足下に転がってきたものをミカエルが拾いました。
「邪竜のスノードーム? こんな物買ってましたっけ」
見覚えの無い土産物に(二日目にパトリックと二人で出かけた際に買ったのかな)と、ミカエルは考えました。
「ああー、それじゃ。スノードーム! すっきりしたわい」
「実用性無さそうですが、師匠が気に入ったのなら仕方ありませんね」
「いんや。王都から飛んできた連中に見せたら、わしが管理することになってしもうただけじゃ」
いつものパターンです。取り扱いに困る危険な物を、ラファエロなら何があっても対処できるだろうと押しつけたのです。
「……もしかしてこれ、本物ですか?」
「うむ。その中でちゃんと生きとるぞ」
幾重にも重なった結界の中は、一種の異界と化しています。時の流れからも外れているので、竜は身動きどころか瞬き一つしないのです。
「通常、竜は卵から生まれて幼体から成体に成長します。しかし時空のひずみから生まれる終末の赤き竜は、誕生した瞬間から成体で、手当たり次第に文明を破壊すると書かれていました」
「ほう」
「その破壊衝動は子ども時代がないからでしょうか? もし普通の竜のように成長したら、何か変わるんですかね」
「よし。やってみよう」
あっさり決断したラファエロは結界をほどきながら、竜の体に魔法をかけました。
むしゃくしゃしてやったのなら、鎮静魔法が有効なはずです。最初から成体ならば意味が無いかもしれませんが、肉体に時戻しの魔法をかけます。
このまま封印し続けても死んだも同然。ならば可能性に賭けてみても良いでしょう。
もし失敗したら、再封印するまでです。
*
かくして終末の赤き竜は、ミカエルの肩に乗るサイズの子竜として解き放たれました。
「うむ。文明の塊であるこの家を見ても破壊衝動はないようじゃし、実験は成功じゃ」
「上位存在である我を弄ぶなど何たる屈辱!」
意外なことに竜は、人の言葉を解しました。よく見ると口の動きと音が合っていないので、思念を飛ばしてあたかも喋っているように振る舞っているのでしょう。
「無害そうなので、どこへなりとも行って構いませんよ。あっ、この森は他の魔物がいないのでオススメです。先住民もいなければ、引っ越して来たりもしないのでご近所トラブルを回避できますよ」
「なんだその扱いは。我は終末の赤き竜だぞ、簡単に野に放とうとするな」
プリプリ怒って見せますが、全く怖くありません。
「いやでも今ちっちゃいし。力も封じられてますよね。野性で生きていけるか怪しいレベルなので、森に還しても問題ないかなと」
「野生で生きていけるか怪しいレベルにしておいて放逐するとは鬼畜どもめ! 我をこんな体にした責任を取れ!」
「責任を取れといわれてものう」
「我をこの家に住まわせるのだ!」
小さな翼で移動した竜は、我が物顔でソファにふんぞり返りました。
「わしはモフモフ派なんじゃ。鱗系はちょっと……」
「愛玩動物扱いするな!」
「愛玩動物じゃないなら、可愛くない居候ですよね。ただ飯食らいを養うなんてごめんです」
「血も涙もない奴らめ! 我死ぬぞ! こんな状態で、野生動物や魔物が跋扈する外の世界に放り出されたら五日ももたんぞ!」
「予想がわりとリアルですね」
強気に出ても駄目、弱みを見せても駄目。
どうしたものかと子竜が頭を悩ませていると、救世主がやってきました。
*
「こんにちは。二人とも帰ってきてたんだな」
「ジョンさん、こんにちは。丁度良かった、お土産があるんですよ」
目当ての物を取り出したミカエルは「眼鏡拭きです」と説明しながら渡しました。
「ありがとう。ところでその生き物は……サラマンダーのキメラか?」
「違う。我は竜だ!」
「へえ、初めて見た。子竜ってこんなに可愛いんだな」
「わ、我が可愛い……だと?」
「ああ。成長すると格好いいけど、小さいと可愛いな。しかも喋れるのか、意思の疎通ができるとか凄いじゃないか」
「それだけではない、我はとっても有能なのだ」
台所まで飛んでいった竜は、竈に向かって口から火を噴きました。
「見よ! 我の炎は自由自在。我の意のままに燃え続けるのだ」
「へえ、すごい。燃料使わずに火力を一定に保てるのか。煮込み料理を作るのに便利だな」
スプーンで簡単にほぐれるゴロゴロ肉のビーフシチュー。舌で押しつぶせる人参入りのホワイトシチュー。表面をキャラメリゼしたスイーツ。直火で炙ってパリパリになった魚の皮……
子竜が居れば、手間のかかる煮込み料理から、高温が要求される料理まで簡単に作れてしまいます。
「驚くのはまだ早い。我の力はなにも料理だけではないぞ」
素直に感心するジョンの姿に気を良くした竜は「見せてやるから、ついてこい!」と外に飛び出しました。
*
「井戸水をどうするんだ?」
えっちらおっちら水を汲み上げた竜は、チラリと三人が見ていることを確認すると、水がたっぷり入った桶に頭を突っ込みました。
頬を水でパンパンにした後に、井戸の外壁に吹きかけます。
「すごい! 石の汚れがみるみる落ちていく!」
なんということでしょう。その姿たるや、まるで高圧洗浄機です。
「竜の息吹との合わせ技だ。我にかかれば汚れなど敵では無い!」
「でもうち木製の小屋じゃからな。おぬしの特技が役に立つのって石造りの井戸くらいじゃろ」
「ぼくたちは、手の込んだ料理作らないので」
しかしながら渾身のデモンストレーションは、掃除も料理も最低限でいいと思っている二人には刺さりませんでした。
「何言ってるんですか二人とも。こんなに賢くて役に立つとか、一家に一匹欲しいくらいですよ!」
しかし刺さった人物もいました。完全に便利な魔道具扱いなのはご愛敬です。
「お前、イイやつだな……」
これまで塩対応続きだったので、竜は不覚にもうるっときました。同時に素早く打算しました。
今の姿は保護してもらわねば、生きていくことすら困難です。
ラファエロの強さは身をもって知っているので、彼の庇護下に入るのが最も生存率が高いのですが、あまりにも扱いが雑すぎます。
対してジョンは脆弱な人の子に過ぎませんが、どうやらラファエロたちと親しいようです。土産物を買って渡すくらいなのですから、相当良好な仲なのでしょう。となれば、ジョンが困った時に彼らは力を貸すに違いありません。
「よし決めた! ジョンとやら、我はお前の家に世話になる!」
次回最終話
「マスコットキャラ出した途端終わる小説があるってマジ!?」




