めでたしめでたし
「やっほー。二人とも元気してた?」
師弟が山小屋へ帰って数週間後、一人の若者が訪ねてきました。
「パトリック様じゃないですか。わざわざこんな所まで、どうしたんですか?」
「勿論依頼だよ。頼み事があるんだ」
久しぶりに見たパトリックは、別れ際よりも雰囲気が明るくなっていました。
「あっ。その服着てくれてるんだ。やっぱり似合ってるねぇ」
パトリックはラファエロの服が城下町で買ったものだと気づいて褒めました。ゆったりとソファに座る姿は、憑き物が落ちたような余裕が滲み出ています。
「依頼内容を伺ってもいいですか?」
「叔父さんが逮捕されただろ。だから今はオレが領主の補佐をしてるんだ。とはいえ、経理とか法務は専門家がいるからね。オレは観光担当」
父親が犯罪者として捕まったヒルデガルドも、お嬢様生活を維持できなくなり、今はパトリックの部下として働いています。
「そうですか。適任ですね」
「そう思ってくれるなんて嬉しいなぁ。それでちょっと思いついたことがあるんだよね」
顔を綻ばせたパトリックは、二人に計画を打ち明けました。
*
「――……今時の若いもんは面白いことを考えるのう」
「あの爆竹で思いついたって言ったら、叔父さん気を悪くするかもしれないけどさ。結構良いと思わない?」
「夜間に行う幻影魔法のショーですか。目新しいですね」
「そっ。花火も良いかなと思ったんだけど、魔法使い何人か雇って、夜空とか城壁に色々映し出してもらうの。野外で無料公開すれば誰でも気軽に楽しめる。夜も人が集まるなら土産物通りの店は営業するでしょ。毎晩お祭りって感じでテンション上がらない? レストラン街だって、ショーを見ながら食べられる席は、プラス料金で予約できるようにすればテーブル単価が上がる。逆に見えない席はチャージ料なしにすれば、お得感があるから、そっちを選ぶ人も絶対いると思うんだよねぇ」
「なるほど。魔法使いのアテはあるんですか? 人件費はどこから?」
「ほら。城の魔法が無効化した時に、魔搭からも魔法使いが何人も来たじゃない。仲良くなった人たちに声かけよっかなって」
流石のコミュニケーション能力です。
「ショー目当てに観光客が増えれば、食事なり宿なりで滞在中はお金を落としてくれる。お店が儲かった分だけ、税収が増えるでしょ」
「領主様はなんて?」
以前のセルジオは、パトリックの提案を一蹴しました。
「自由にやってみろって。邪竜伝説が古いなら、新しい目玉を作ればいいんだよ。ショーの内容を定期的に変えてさ、オレはスレイ領を何度でも来たくなる場所にしたいんだ」
「いい考えだと思います」
「でしょ。見ててよ。国で一番イケてる都市にしてみせるからさ」
*
「パトリック様はタイミングが良いですね。ご希望の魔法なんですが、実は丁度完成したところなんです」
「嘘! 既に誰かが同じ内容で依頼してたってこと? アイデアかぶりとかヤバいじゃん!」
「安心してください。師匠の誕生日祝いで披露しようと練習してただけです」
「ミカエル……!」
「師匠。ちょっと早いけど、お祝いの気持ちです。師匠のおかげで、ぼくはここまで成長できました」
育ててくれたラファエロに、教育の成果をお披露目する。
普段は命じられない限り魔法を使おうとしないミカエルが、率先して魔法を使う。
ラファエロは二重の喜びに打ち震えました。
「うわー! すごっ!」
「ふふふ。そうじゃろう、そうじゃろう」
魔法で作り出した光が宙を舞いました。
疑似花火や、壁に動く絵や文字を写し出したりと、演出の種類が豊富で飽きさせない気遣いを感じます。
ミカエルの魔法はそれだけでは終わりませんでした。
立体感のある映像を生み出して、妖精達が目の前で踊っているように見せたり、転写した空を眼前に見せることであたかも空を飛んでいるように錯覚させました。
「ヤバ! こんなの初めて見るよ!」
「え、ちょ。わしも初めて見るんじゃけど。こんなの教えた覚えないぞ……」
興奮するパトリックの隣で、身に覚えのない高度な魔法を使われてラファエロは震えました。
*
ミカエルは魔法を行使しながら、狼狽えるラファエロをチラリと見ました。
ラファエロは凄い魔法使いです。
普通の魔法使いであれば、できることが限られていますが、ラファエロはほとんどのことを可能にしてしまいます。
これでラファエロが「いくら出せる?」と強気な交渉をするタイプなら問題なかったのですが、彼は根っからのお人好しです。自分にとっては大した労力ではないからと、お願いされたらほいほい引きうけてしまいます。
するとどうなるか。
周囲は何かあると簡単にラファエロに頼るようになるのです。
お互いにそのつもりはなくても、依存と搾取が繰り返される関係のできあがりです。
交際相手を駄目人間にしてしまうタイプがいますが、ラファエロはその亜種です。
容量限界で隠居したにも関わらず、ラファエロの性根は変わっていません。
このままでは以前の二の舞です。
限界が来て引っ越して、その先でまた頼みの綱にされて……どこへ行っても、同じことを繰り返すでしょう。
ミカエルはラファエロを尊敬しています。
力に溺れず、素直なお人好しであり続けているのは奇跡であり、美徳だと思っています。
だからこそ敬愛する師匠が、他人にいいように利用されるのは我慢ならないのです。
ミカエルは本を読むのが大好きです。
娯楽としてもですが、魔法の代わりになる叡智を学ぶことができるからです。
この先もミカエルは魔法で依頼をこなすつもりはありません。どうしても使わざるを得ない場合は別として、極力知識で解決するつもりです。
ミカエルは依頼人だけでなく、ラファエロの意識も変えたいのです。
魔法は手段の一つであり、万能ではない。知恵と工夫で大抵の問題は対処可能なのだと――
【END】
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