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魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~  作者: 茅@溺愛超え発売中!


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奇妙な城 22

 さて失敗に終わったかにみえた邪竜(イビルドラゴン)の解放ですが、実は成功していました。

 スレイの水道局員は真面目揃いだったので、ちゃんと指示に気付いて水を止めていたのです。


「ほほう。これが終末の赤き竜か。実物は迫力満点じゃのう」


 資料館で見た模型とは、サイズも圧も比べものになりません。

 封印と城のルールは連動しています。封印が解かれた瞬間、スレイ城は魔法使用可能になるのです。


 縛りが消えると同時にラファエロは探索魔法を展開して、秘密の地下空間に転移しました。


 光源がひとつもない空間ですが、初級の光魔法で照らせば問題ありません。

 ドーム型の封印の間は、伏した竜を中心に水路が張り巡らされていました。複雑な文様を描く水路は、水が流れていれば光を反射して美しくきらめいたことでしょう。

 残念ながらラファエロが灯りを作り出した時点で、水は動きを止めていました。


 静かに水位が下がっていく一方で、終末の赤き竜はゆっくり瞼を開きました。

 縦長の瞳はラファエロの姿を捉えると迷わず、大きな顎をひらきました。


「寝ぼけている間に終わらせたかったが、竜って寝起きが良いんじゃな」


 長い眠りについていたはずですが、もしかしたら体が動かせないだけで意識はあったのかもしれません。

 暗い場所に閉じ込められて身動きすらできず、ただ時が過ぎるのを待つ日々。思わず同情しそうになりましが、すべてはラファエロの想像に過ぎません。


「ちとその口を閉じてくれ」


 飛び上がったラファエロは強烈なアッパーカットで、竜の息吹(ドラゴンブレス)を不発に終わらせました。


 黒光りする鱗に覆われた皮膚は、攻城兵器である投石機でも傷つけられないほど固いにも関わらず、枯れ枝のような細腕が肘まで埋まっています。

 魔法で肉体強化したラファエロの一撃は口を塞いだだけでなく、竜の脳をも激しく揺らしました。


「ちょっと弱らせておくか」


 暢気に宣うラファエロですが、竜に打ち込んだ腕は見るも無惨な状態になっていました。

 血で染まった腕は変形し、骨らしきものが見えています。


「しまった! しばらくこの体じゃったから、忘れてたわい」


 素早く魔法で腕を治し、いつもの術で若返ろうとしたところで、復活した竜が腕を振りかぶりました。

 横薙ぎに遅いかかる巨大な爪。かするだけで致命傷を負う一撃が、ちっぽけな人間の体を捉えました――が、ラファエロは瞬時に魔法で回復すると、己の血で濡れた竜の爪に掴み掛かかると、容赦なく剥ぎ取りました。


「じゃから口を閉じろと言うておろうに」


 竜の息吹(ドラゴンブレス)ではなく絶叫のために開かれた口は、音を発する前にラファエロの踵落としを食らいました。


 パワー・スピード・スタミナ。

 ラファエロは人族でありながら、獣人の戦士以上の動きで何日でも何ヶ月でも不眠不休で戦い続けることができます。

 強化された肉体はオリハルコン級に頑強となり、仮に負傷しても即座に治療(ヒール)で完治。

 戦闘による脳の疲労も、消費する体力も、尽きることのない豊富な魔力で瞬時に癒やすからです。


 戦闘スタイル・ゾンビアタック。

 特技・敵を倒すまで戦い続けられる。


 これが【不滅】の二つ名の由来なのです。


 魔法使いでありながら、最大の特徴が魔力にものをいわせた脳筋スタイルなことが恥ずかしく、ラファエロはミカエルに「わしは平和主義者じゃからな。軽く懲らしめる程度で、敵を殲滅することがないからじゃろう」と嘯いています。


 拾った経緯と二つ名の由来。

 ラファエロは弟子に二つの嘘をついているのです。


 地上に影響が出ないように、ラファエロは竜が移動したり、壁や地面に激突しないよう攻撃を繰り出しました。

 攻撃魔法は城を振動させるので、攻撃は全て素手(ステゴロ)で行います。

 そして竜には狭く、人には広い空間でひらりひらりと立ち回りながら、ラファエロは新しい魔法陣を描きました。


「ほい。チェックメイト」


 最後に竜の正面に降り立った時、陣が起動して竜を取り囲みました。

 何重にも施された結界が竜を包み込んで圧縮します。

 最後には手のひらサイズの球になったそれを、ラファエロはキャッチしました。


「土産物屋でよく似たもの見たのう。なんて名前じゃっけ?」


 季節に関連した名称だった気がします。喉まで出かかっているのに、思い出せなくてラファエロは悶々としました。



 ラファエロがパーティー会場に戻ると、ミカエルが駆け寄ってきました。


「師匠。遅いですよ、どこに行ってたんですか」

「トイレじゃ」

「着替えてますが、もしかして……いえ、ぼくは何も気付いていません」

「間に合ったから! 粗相なんてしとらんからな!」

「折角ぼくが言葉を濁したのに、台無しにしないでください」


 城主代理が逮捕された直後です。歓迎会を再開したところで、楽しめる者などいません。

 パトリックは使用人達に料理を持ち帰って、各自同僚と楽しむように命じました。



 使用人達が去った後、パトリックはルカと師弟に礼を述べました。


「三人ともありがとう。未遂で済んだのは、君たちのおかげだ」


 父親が生きていること。そして叔父が殺人犯にならなかったこと。両方ともパトリックにとっては感謝しかありません。


「まだ終わってません」

「え?」

「乗りかかった船なので、最後までお付き合いします。領主様の部屋へ行きましょう」

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