奇妙な城 19
遅まきながらラファエロとミカエルの歓迎会をひらきたい。
二つ名持ちの大魔法使いを城に招いておいて、歓待しないだなんてスレイの名折れだ。
そう領主の息子に言われてしまっては、反対できる者はいません。
現在城に滞在している客人は魔法使いの師弟とルカの三人。
ホスト側で出席可能なのはヨハンとパトリックだけです。
五名で黙々と食事しても盛り上がらないと、パトリックは無礼講の立食パーティーを提案しました。
使用人も参加すると聞いたヨセフは嫌な顔をしましたが、領主が倒れてから労働環境が変わり、今までにない負担を強いられた使用人もいる――彼らを労うと同時に、この城では功労者は報われるのだと目に見える形で示すことで、今回招待されなかった使用人に発破をかけることができると説明されると、一度の催しでそれだけの効果が得られるならばと渋々了承しました。
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「みんな! 今日は集まってくれてありがとう。本当は城で働く使用人全員を呼びたかったんだけど、流石にオレのポケットマネーじゃ難しくてさ。特に苦労をかけちゃってる人たちに厳選させてもらったよ」
主催者であるパトリックの明るい挨拶に、そこかしこで小さな笑いがおきました。
招待されることに恐縮していた裏方の人間も、パトリックの茶目っ気と大らかな雰囲気に、次第にリラックスしていきました。
「パーティーと言えばまずは乾杯。お洒落にシャンパンとか、飲み慣れたワインとか色々考えたんだけど、本日のメインゲストにはお酒飲めない年齢の子がいるからね。それに大人でも体質的に飲めない人もいるよね。折角の乾杯なのに、口を付けて飲むふりだけするとか、無理して一杯だけ飲むとかそういうことはさせたくないんだ。だから別のものを用意したよ」
パトリックが合図すると、盆を持った給仕がグラスを配りました。
「ちょっとスマン。なんか心臓がキュッとした。座っても構わんかのう」
参加者が次々にグラスを手に取る中、ラファエロが弱々しく手を上げました。
「どんな症状だい?」
「えーっと、ちょいと息苦しくて、胸の辺りが痛い感じ? 我慢できる程度の軽いもんじゃから、座っていれば落ち着くじゃろ」
「いいや。数日前から血圧が高めだった。薬を開始するほどではなかったし、診察時に緊張して高い数値が出る患者は多いから様子を見ていたが、狭心症の可能性がある。それどころか心筋梗塞だったら、一刻も早く治療すべきだ。診察室に行くよ」
「えっ? わし血圧高かったの?」
ルカは側にいた薬師たちに声をかけると、テーブルクロスで担架を作り、焦るラファエロを連れ出しました。
「師匠が心配なのでついていきます。様子を確認したら戻ってきて報告しますね」
「よ、よろしくねぇ」
「ぼくたちのことは気にせず、先に始めててください。あっ、そのリボンを巻いたグラスは特別な一杯です。他は普通に実を搾ったジュースですが、それは集めた種を割って胚乳をすりつぶしたものを入れています」
必要なことを言い終えると、ミカエルは医療班の後を追って部屋を出ました。
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「ゲストが全員席を外すとか前代未聞なんだけど。オレの日ごろの行いがわるいってこと?」
冗談めかして言うパトリックに、緊迫していた会場の空気が緩みました。
「運に見放されないように、今後は謙虚に生きまーす。ってことで、はい。特別なグラスは叔父さんに」
パトリックは迷わず、リボンがついたグラスを差し出しました。
「今日の主催者はお前だろう」
「父さんが倒れてからも、領地が恙なく運営されているのは叔父さんのおかげじゃん。だから受け取ってよ」
「――おれのような人間が口を挟むのは恐縮ですが、これは記念樹の桃で作ったジュースです。その一杯はあの少年が、小さな手で種を一つずつ割っていました」
厨房に持ち込んだとき、ミカエルはヨセフの許可で桃を手に入れたと説明しました。
少年はヨセフにお礼をしたかったのでは、と料理長は言いました。
「私もこの会場で特別な一杯に相応しいのは、ヨセフ様だと思います」
セルジオの介護をしているメイドも追従しました。
「領主代理になられてから、ヨセフ様は城の者たちの健康にも気を配っていただいております。それに兄君である領主様のお体についても、色々と考えていただいてとてもご立派でいらっしゃいます」
ヨセフは、ボスコ商会から取り寄せたブレンドティーや健康食品を惜しまずに使用人に与えました。
直接セルジオの介護をすることはありませんでしたが、彼女に苦汁を飲ませることを提案したのもヨセフなのだと、メイドは周囲に語りました。
「そこまで言われて断るのは、無粋というものだな」
セルジオは満更でもなさそうな顔で、ステムにリボンが巻かれたグラスを受け取りました。




