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奇妙な城 18

 夜の帳が落ちる前に、パトリックとラファエロは帰城しました。いつも通り脳天気そうなラファエロとは対照的に、パトリックは浮かない表情です。


「わしらの推理は正しかった」


 ラファエロはミカエルにこっそり耳打ちしました。

 地下水路を見つけたラファエロは、水に自分の魔力を混ぜて追跡することで、歩き回ることなく全貌を掴みました。


「魔法陣の効果はわかりましたか?」

「城内において魔法や魔導具を無力化し、有害な物を排除する――正確には、安全なものとして登録していない物を弾く。あとは封印じゃ。魔法なしでは感知できん場所――たとえば地下深くにでも、何かを封じてるんじゃろうな」


 都市全体を使って、城の地下に封じているもの。

 心あたりは一つしかありません。


「だから調理に必要な骨切り包丁は持ち込めるのに、最新の薬はダメなんですね」

「うん? 厨房に行ったのか?」

「はい。庭で収穫した桃を届けて、フレンチトーストのレシピをもらいました」


 苦虫を噛みつぶしたようなラファエロをスルーして、ミカエルは厨房でのやり取りを語りました。


「パトリック様。協力して欲しいことがあります」

「悪いけど、今そういう気分じゃないんだ」


 ミカエルが目で問いかけると、ラファエロが代わりに説明しました。


「領地に張り巡らされていた魔法陣じゃが、発動に条件があってのう」


 動力源は城壁を歩く観光客と地下を流れる水でしたが、魔法陣と城を繋ぐ要石によって術は固定されていました。


「パトリック様はそれを知って、落ちこんでいるんですね」


 ラファエロは頷きました。


「要石は領主――聖騎士ラウレンチオの血を引く者じゃ」



 聖騎士は神殿に仕える僧兵です。

 聖職者の中でも武に秀でた者が、自衛のために武器を手に取ったのが起源です。中でも騎士団として独立した部隊は、異能者で編成されていたといわれています。

 グレゴリオ騎士団に属する聖騎士ラウレンチオも、なにかしらの異能持ちだったのでしょう。


「異能はいわば特異体質。魔法や種族的な特質ではなく、個人が生まれ持った特性にあたります。そして一部の異能は遺伝することが証明されています」


「……父さんがオレに後を継がせようとしないのは、異能を受け継いでいないからかもしれない。それどころか――」


「ストップ。それ以上は止めておきましょう」

「そうじゃ。憶測で悪い方に考えるでない」


 二人に止められて、パトリックはセルジオと血が繋がっていないかもしれない、という言葉を飲み込みました。



 城を出ないのと、出れないのとでは大きく違います。城を出れない夫に不満を持ったパトリックの母は、幼い子どもを置いて出ていきました。護衛の男と駆け落ちしたのです。


 幸いにもパトリックの容姿は、セルジオに似ていました。

 他ならぬセルジオの両親――パトリックの祖父母が「子供の頃のセルジオに瓜二つだ」と言ったので、今まで親子関係を疑う者はいませんでした。


「憶測じゃなくて推理だよ。術を維持したいなら、より寿命が残されている者の方が適役なのに、たった数歳しか変わらない叔父さんを代理に選ぶなんて、オレに資格がないと考えるのが自然だろ」


 領主代理として過ごす時間が長くなるほど、セルジオの地位は盤石なものになります。

 入り婿であるロベルトがボスコ商会の会長になったように、正統な後継者がいようが、何だかんだと理由をつくればその座を奪うことはできます。


「ヨセフ様が野心家であることは認めます」


 領民に慕われているパトリックですが、実権も実績もありません。

 結婚していれば妻の実家が後ろ盾になったでしょうが、それもありません。放蕩者というレッテルと、セルジオが代理として指名しなかったという事実を組み合わせれば、家督を奪うのは可能でしょう。

 ヨセフは歴としたスレイ家の血筋なので、ロベルトよりも容易な筈です。


「きっとセルジオ様を亡き者にしたら、繰り上がりで領主になられるでしょうね」


「ちょっと待って、亡き者にするってどういうこと? 叔父さんが父さんを殺すって意味に聞こえるけど?」


「その通りです。まあ、治療を妨害した方法(トリック)は見破ったので、間も無く領主様は完治なさると思います」


 闘病生活でだいぶ体力が落ちていますが、患者の肉体改造に定評のあるルカに任せればなんとかなるでしょう。


「悪いけど信じられない。だってあの人はオレの叔父で、父さんの弟なんだよ。百歩譲って父さんが死ぬのを待っていたならまだしも、そんな……」


 親戚にも色々あります。ヨハンの末の弟――先代の三男は、長いこと故郷に戻ることすらしていません。

 パトリックはもう一人の叔父の顔も覚えていなければ、従兄弟が存在するかも知らないのです。


 対してヨハンは城を離れられない兄の補佐をすると言って、ずっと近くにいました。

 パトリックにとっては優しくも、理解あるタイプでもないけれど、信頼できる人物なのです。


「なら確かめてみませんか?」


 出会ったばかりの少年と、子供の頃から付き合いのある親戚。片方を信じるということは、残る一方を疑うことです。

 苦悩するパトリックに、ミカエルは提案しました。


「ついでに治療の妨害に関わっていた人物が、利用されただけなのか、共犯者なのかも確認しましょう」

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