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魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~  作者: 茅@溺愛超え発売中!


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奇妙な城 16

 翌朝。ミカエル前に置かれた皿に乗っていたのは、大人達とは別の料理でした。


「これがフレンチトースト……」


 少年の大きな瞳は、目の前にあるお皿に釘付けです。


「材料は父さんのパン粥とたいして代わらないからねぇ」


 年相応の子供らしい反応に、パトリックは微笑ましくなりました。


 広いダイニングテーブルには、パトリック、魔法使いの師弟の三人しか着席していません。他の面々は自室で食事を済ませているとのことです。


 卵液をたっぷり染みこませたバゲットを、カラメリゼするまで焼いたフレンチトーストは、こんがりときつね色をして、ふっくら艶やかに光っていたパンケーキとはまた違った魅力があります。

 実は遠からず「フレンチトーストが食べたい」とリクエストされると読んだラファエロが、昨夜こっそりパトリックを介して頼んだのでした。


「これがフレンチトースト……」

「全く聞いてないねぇ。そんなに気に入った?」


 パンケーキよりも弾力がなく、ナイフで切るというより裂く感じです。余すところなく黄色く染まった断面はぷるんとしています。


「ふわぁ……師匠。これ家に帰っても食べたいです」

「なぬ!?」

「毎朝フレンチトーストにしましょう」

「一回食べれば満足するだろうと思ったら、まさかの展開。朝からこんなん作るとか面倒極まりないんじゃが」

「後でレシピもらいましょう」

「わしはそこまで好きじゃないからな。自分で作るんじゃぞ」


 僅かな時間でも読書に充てたがるミカエルです。こう言えば諦めるだろうとラファエロは高をくくりました。


「わかりました。推察するに卵、牛乳、砂糖を混ぜた物をパンに染みこませて焼くだけなので、時間はかかりませんし、ぼくでも作れると思います」


「くっ、甘かったか」


「甘くて美味しいです」


 あの狭い家で毎朝作られたら、部屋に甘ったるい匂いが染みつくでしょう。これから始まるであろう甘い生活の予感にラファエロは顔を歪めました。



「計算ではこれが適量だ。他が効いているのだから、間違いは無いはず」


 経験を基にざっくりと投与量決める医師が多い中、ルカは患者の身体情報から投与量をきっちり計算して処方するタイプです。


「これ以上だと過量投与になりますが、試してみますか?」


 二十代とおぼしき男性薬師の提案に、ルカは首を振りました。

 薬は体内で一定の濃度に達することで効果を発揮します。

 濃度の範囲は薬ごとに違いますが、少なすぎれば効果を発揮せず、多すぎれば中毒域に入り副作用の原因になります。


「今の体力で副作用は避けたい。下痢や吐き気といった消化器症状ですら衰弱が加速してしまう」


「お話し中、失礼します。お城の中ををざっとみたところ、ルールの裏をかいた魔法の痕跡はありませんでした」


 夕方に診察室を訪れたミカエルは、途中経過を報告しました。

 スレイ城に到着して一日半。探索系の魔法が使えないので、肌感覚と知識で捜査するしかありません。


 感覚を研ぎ澄ませようとすると、どうしてもラファエロの存在が邪魔になります。真横で溶鉱炉がフル稼働しているようなものです。集中すればするほど、熱くて眩しくて感覚が麻痺してしまうのです。


 幸いにもパトリックの予定が空いていたので、今日もラファエロと一緒に出かけてもらいました。

 表向きは昨日に続いて市内観光ですが、本命は昨日立てた仮説が正しいか確認するためです。

 秘密の水路が見つかれば、城にかかっている術の全貌を知ることができますし、多少はパトリックの慰めになるでしょう。


「……これは領主様の処方ですか?」


 ミカエルは薬師の手元を覗き込みました。ある程度の知識があれば、薬から病状を推察することできます。


「そうだよ。飲みやすさ重視で、一回飲めば一日効果が続く薬を選んでいるんだ」


 一日に飲む回数は、薬の種類で決まります。

 今のセルジオは一日二食になることも多いので、規則正しく飲めるよう一日一回の薬に統一していました。


「体内の濃度を安定させるために、決まった時間帯に飲んでもらいたいけど、寝たきりの方は起床時間がまちまちだったり、食事の回数が減ることもザラだから、一日三回の薬は生活スタイルに合わないのよね」


 男性薬師に続いて、女性の薬師が解説しました。

 肉屋の女将さんに負けず劣らずの恰幅の良さで、成人した息子の一人や二人いそうな年齢です。


「解熱鎮痛剤が胃腸の粘膜に負担をかけるから、薬を飲むのは夕食後。食後に診察して、薬を飲むところまで見届けているんだ。毎日経過を確認して、確実に薬を投与してるのに、どうして治らないんだろうな」


「ハイリスクハイリターンの強い薬や、最新の薬が使えないからよ」


 女性薬師は部屋の隅を恨みがましげな目で見ました。視線の先には錬金術の道具一式が置かれています。何度も試しては失敗したのでしょう。


「この城のルールが恨めしいわ。分類が毒薬でも、医療現場で使われている歴とした薬なのに! 持ち込もうとしたら弾かれるし、敷地内で作ろうとしたら完成した瞬間に崩壊するのよ。この城で使えるのは、ルールができた時代に存在した安全性の高い薬だけ。つまり現代の医療水準じゃないのよ」


「そのおかげで、ここでは治療より予防が重要になるんだ。坊やも、手洗いとうがいはサボるんじゃないぞ」

「気をつけます」

「予防と言えば、あのお茶すごい人気よね」

「もしかしてボスコ商会のブレンドティーですか?」


「あら。知ってるの。そうそれ。最初は胡散臭い健康食品を大量に仕入れるとか、何を考えてるのかしらと思ったけど、調べたらかなりのもので、よく見つけたなと思ったわ」


「ああ。ボスコの名前は知ってたけど、香辛料の商会って印象だったから、いつの間にか健康食品も取り扱っていて驚いたな」


 二人の会話を聞いていたミカエルは、ふとロベルトの言葉を思い出しました。


『商会にとっても必要だ。なにせ彼女のおかげでスレイの領主館と取引できるようになったんだからな』


 あの時、ロベルトは確かにそう言っていました。


「……この城は元々ボスコ商会と取引してなかったんですよね」

「厨房の仕入れまで把握していないが、少なくとも商会の紋章が入った馬車を見るようになったのは最近だな」

「私もブレンドティーが城に出回るまでは、商会の名前すら知らなかったわ」

「実績もないのに大量に仕入れるなんてリスクしかないと思うんですが、誰が決めたんですか?」

「ヨセフ様だよ」


 領主の弟がミス・グリーンを高く評価している、とロベルトから聞いていたので、返ってきた答えは予想通りのものでした。


「それだけの裁量権があるということは、領主代理になられてからの話ですよね」

「はっきりとは覚えてないけど、きっとそうだな」


「領主様が発症されて、最初はすぐに回復されると皆考えたの。百年前ならいざ知らず、今は一週間もあれば治る病気だから」


「でも、そうはならなかったんですね」


 治療開始から十日経っても回復しないどころか、セルジオの容態は徐々に悪化していきました。

 復帰に時間がかかると判断したセルジオは、息子ではなく弟を城主代理に任命しました。


「代理に立つなり、ヨセフ様が『日ごろの予防が大事だ』と言って、ボスコ商会から色々購入して普及させたんだ」


「ありがとうございます。よくわかりました」


 ――ヨセフ様が怪しいということが、とミカエルは内心で付け加えました。

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