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奇妙な城 15

 あてがわれた客室に戻ったミカエルは、届けられた城の図面をベッドの上で広げました。


「これ。先に荷物の整理をせい」

「はぁい」


 今日買った物が、それぞれの店の袋に入っているので、一度取り出してまとめます。

 ラファエロの着古した服は、迷わず屑籠(くずかご)にインです。


「うおい! 持ち主に無断で捨てるでない!」


「だって家には雑巾が沢山あるので、ここで処分しても構わないでしょう。」


「その『雑巾』って、家にあるわしの服のこと!? 相手の持ち物を勝手に処分するのは、離婚理由になるくらいマナー違反なんじゃぞ」


「……ぼく絶縁&破門されちゃうんですね」


 ミカエルがしゅんとすると、ラファエロは慌てて手を振りました。


「しないから安心せい! だが勝手に捨てるのはナシじゃ」


「はい、師匠。家に帰ったら、すり切れて明るいところで見たら襤褸(ぼろ)さ加減が際立つ服を処分します。寝間着にすると言っていましたが、この服は寝るときの恰好として相応しくないので、荷物を減らすためにここで捨てますね」


 瞬時にいつもの調子に戻ったミカエルに、ラファエロは揶揄われたのか、異様に切り替えが早いのか判断がつかず困惑しました。


「へ、部屋着にする」


「外できっちりした恰好をする人が、家でリラックスして過ごす為に着るのが部屋着です。師匠は区別するような生活をしていないから不要です」


 せっかく新しい服を買ったというのに、ここで許可したら一日中部屋着で過ごすのが目に見えています。


「なら普段着に」


「言い方変えてもダメです。ぼくも(オーガ)じゃありません。特別な思い入れがあるなら、取っておきますが、何か謂れがあるんですか?」


「いんや。いつ買ったかも、どこで買ったかも覚えとらん」


「捨てますね」


 ミカエルは戻しかけた服を、再び屑籠に突っ込みました。

 少年は学習能力があるので、今度はちゃんと宣言してから実行しました。



「お土産、結構買いましたね」

「一つの店で一個くらいしか買わんかったが、いかんせん店の数が多かったからのう」


 営業を延長してくれたのに冷やかして終わるのが申し訳なく、ちまちまと買い物をしましたが塵も積もればなんとやらです。


「これはなんじゃ?」

「眼鏡拭きです。ジョンさんにあげようかと」


 ラファエロが手に取ったのは、オプショナルツアーの店で売っていたクロスです。ヒッポグリフの空中散歩という、市内を見下ろせるアクティビティがウリの店で購入しました。


 ヒッポグリフは前半身が鷲、後ろ半身が馬の魔物(モンスター)です。鷹は視力の良い生き物です。日中は人族の約六倍と言われていますが、暗くなると同程度にまで低下します。

 ミカエル達が訪れた時にはもう今日のツアーは終了していましたが、お土産だけは店頭で売っていました。

 上空から見たスレイの市街図が描かれたグッズがなんともお洒落でつい買ってしまったのでした。


「他のお店は竜で溢れかえっていたので新鮮だったんですよね」


 最初は興味深く見ていたミカエルでしたが、どこもかしこも竜、竜、竜ですぐにお腹がいっぱいになってしまいました。


「ふむ、こう見ると計画的に作られた都市じゃとよくわかるな。まるで魔法陣のようじゃ」


 クロスを眺めたラファエロがこぼしました。

 歴史ある都市は、活気があればあるほど増改築を繰り返し、城壁や道が歪になるのが普通ですが、クロスに印刷されている城壁は綺麗な円形です。大きな道も左右対称で歪みがありません。


「師匠。何でもかんでも魔法に結びつけるのは――」


 呆れ顔になったミカエルでしたが、最後まで言い切らずに城の見取り図に飛びつきました。


「師匠。これを見てください」

「なんじゃ藪から棒に」

「これが魔法陣だとして、師匠の知識で何か思い当たることはありませんか?」

「……ふむう」


「パトリックさんのマンドラゴラ畑。領主様が一蹴したのは水源が理由だったんじゃありませんか? 山から水を引いて、都市の地下に秘密の水路があったとしたら?」


「動力源じゃろうな。エネルギーの転換じゃ。水の流れ、人の動き。水に関しては清らかであるほど転換が容易じゃ」


「そうです。開発で水源に影響が出たら取り返しがつかないことになります。だから検討の余地なく切り捨てたんです」


「歩きやすいように進行方向を区切っていると思ったが、あれは力の流れを安定させるためか。この城にかけられた術。わしなら一人で賄えるが、どうやって維持しているの不思議じゃったが合点がいったわい」


「隙あらば自分語りするの止めてください。嫌われますよ」

「そっ、そんなんじゃないわい」

「無自覚ですか」


 はあ、と溜息をつくミカエルに、ラファエロはそわそわしました。


「……あのな。わし、年々居心地が悪くなって同窓会に出んようになったんじゃが、もしかして無意識に自分語りしとったのが原因じゃろうか?」


 子供相手に人生相談をする後期高齢者。しかしながら本人はいたって真剣です。


「嫌われていたら、そもそも誘われませんし、最初から居心地が悪かったはずです」


 ある程度成長したら性格――言動は固定されます。


「在学中や、初期に居心地が悪くなかったのであれば、師匠が凄すぎて、気後れされたか嫉妬された可能性が高いです。それに若い姿を保っている師匠と一緒にいると、自分の老いを痛感して憂鬱になる人もいるでしょう」


「そんなつもりはないんじゃが」


 思い返せば褒められるのと同じくらい、独身でいることについてあれこれ言われました。

 柔らかな言葉の奥に、何とも言えない棘を感じたものです。


「仕方のないことです。どちらも悪くありません」


 ミカエルは断言しました。

 九歳とは思えない悟りようです。

 同級生から負の感情を感じつつ、もしかして自分に問題があったのではと不安に駆られたラファエロは、きっぱり否定されて安堵しました。


「パトリックさんは今の師匠と同じです。理由もわからず、領主様に嫌われていると思っています。どうして後継者である息子に話さないのかは謎ですが、仮説でも気が楽になるかもしれません」


「話せない縛りがあるのかもしれんのう。ほれ、代替わりの時にしか教えられない制約があるとか言っておったじゃろ」


「ああ。形だけの代替わりを提案した時ですね」


 ミカエルは昼間の会話を思い出して頷きました。

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