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奇妙な城 13

「師匠。家に帰ったら、今までの服は全部雑巾にしましょう」

「全部!? 思い切り良すぎじゃない!?」

「服を一着買うなら、一着捨てないと。アレキサンダ―著『質の高い暮らし。一生使える収納術』に書かれていました」


 沢山買ったので、購入品は後で城に届けてもらうことになりました。


「師匠。新しい服キマってますよ」

「そ、そう?」

「はい。だから馬車にある抜け殻、捨てますね」

「そっちが狙いか! あれは寝間着にするからダメ!」


 二人は言い合いながらパトリックを探しました。

 目的の人物は、ブティックの斜め向かいにある輸入雑貨店の店員と盛り上がっていました。



 異国の品が並ぶ店内は、独特の雰囲気に包まれています。

 時間帯によるものか、他の客は見当たりません。


「パトリック様、お待たせしました」

「全然いいよぉ。オレも近いうちに来ようと思ってたしね。店主さんありがとう、また頼むね」

「こちらこそありがとうございます。領主様のご子息に贔屓にしていただいているおかげで、なんとかやれています」

「店主さんのセンスが良いからだよ。オレはもっと色んな店が増えて欲しいと思ってるんだ。困ったことがあったら言ってね」


 パトリックは作りものではない笑顔で断言しました。



「パトリックさんが買い物好きなのは嘘じゃないと思います。でもそれは物欲じゃないですよね」


 馬車に乗り込むと、ミカエルは断言しました。


「領主の息子が通っている――自分の肩書きを使って、経営が安定していない若い店や、領地から撤退して欲しくない店に箔を付けるためですよね」


「半分正解」


「残る半分は土産物通りですね。パトリックさんがその気になれば、営業時間を延ばしたり、イベントの開催を命令できます。でもそれでは意味が無い。だから距離を詰めて、彼らが仕事に意欲的になるよう誘導しようとしている」


「おお~」


 拍手の音が車内に響きました。


「イヤイヤ働くと、客にも伝わるものだからね。上に言われたからじゃなくて、自主的に働いてもらいたいんだ。でもオレそんなにわかりやすかった? わかってもらえて嬉しい反面、ちょっとショック~」


 易々と見抜かれてしまうなど、貴族としてはよろしくありません。苦笑いするパトリックに、ミカエルは首を振りました。


「ヒント――本で言うところの伏線が散りばめられていたからですよ」


「ふむ。領内を見回るように外出して、平民相手に気さくに声をかける。ただ顔を見せるだけだと効果が弱いから買い物をする。なにも知らない人から見れば放蕩者だと勘違いされるじゃろうな」


「実際お金使ってるし、物欲が強いのは嘘じゃないからね。オレの部屋、物で溢れかえってるし。でも一つだけ訂正したいな。オレに営業時間の延長を命じたり、大規模なイベントを開催する権限は無いよ」


「……もしかして既に領主様に提案して却下されたんですか?」


「うん。領地の開発もね。観光だけじゃ先細りだから、収入の柱を増やそうって言ったけど、相手にしてもらえなかったよ」


「ううむ。たしかにあの景観を損いたくないというのはわかるが」


「オレだってそのつもりは無いから。開発するのは城壁から見えない場所。近くに山があったでしょ。今は植林と間伐で整えてるだけなんだけど、水源が豊富だから裏面を切り拓いて棚田にするのはどうかなって」


 風通しの良い棚田は害虫が発生し難く、木を切り倒したとしても雨水を貯蔵するので、土砂崩れを防ぐことができます。

 用水の確保と、台風の影響を受けやすいのが懸念点ですが、水源が豊富なら問題のうち片方はクリアしています。暴風についても結界系の魔導具を使えば解決しそうです。


「ちゃんと土壌に合いそうな植物も見つけてるんだ」

「なんですか?」

「マンドラゴラ」

「良いですね。人里離れた山なら騒音問題になりませんし、幅広い病気に使われているので需要がなくなることはないでしょう」


 マンドラゴラの叫び声は、耳にした生き物の体の機能を極端に低下させる効果があります。その為か根は免疫抑制、地上に突き出している葉は抗炎症作用があるので、飲んで良し、塗って良しの魔性生薬なのです。


 世界の医療現場で使われているマンドラゴラですが、その歴史は意外にも浅く百年も経っていません。

 薬学者レイクが、野生動物が葉を啄んでいた光景を見て薬効があるのではと考え、声さえ聞かなければ無害だと証明したことで大々的に研究が行われるようになったのです。そのため学術名はマンドラゴラですが、マンドレイクと呼ばれることもあります。


「そうそう。ナイスなアイディアだと思わない?」


「切った材木を売って田畑の整備費用を捻出し、マンドラゴラ畑で農夫という新たな雇用を作る。収穫したマンドラゴラは原材料として出荷してもいいし、領内に工房を作って加工すれば更に雇用が生まれますね」


「そうなんだよ。色んな理由があって一人で子どもを育てなきゃいけない親とか、孤児院を卒業する年齢になった子とか、とりあえず職を確保したい人の受け皿になると思うんだよね」


「その案について、領主様はどんな反応だったんですか?」

「『無理だ』の一言で終わったよ」


 当時のことを思い出したのか、パトリックは吐き捨てるように言いました。


「領主殿がどうして取り合わなかったのか不思議じゃのう。見通しが甘い部分や、問題点があるなら話せばよかろう」


 パトリックが知らない情報があり、それを理由に棄却するなら説明すべきです。怠れば今のように親子仲が悪化するのは自明の理です。

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