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魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~  作者: 茅@溺愛超え発売中!


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奇妙な城 8

 領主の執務室に到着すると、パトリックは三回ノックをしました。

 部屋の主は寝室で横になっています。不在だとわかっていても、入室前にノックするのが貴族のマナーなのかとミカエルが不思議に思っていると、無人の筈の部屋から応えが聞こえました。


「叔父さん、仕事中にごめんね~」

「構わんよ。それよりどうしたんだ。お前がこの部屋に来るなんて珍しいじゃないか」


 部屋にいたのは上等な身なりの男性でした。

 スレイ伯と同年代ですが、衰弱した伯爵とは対照的に頑健な印象です。


「ちょっと借りたい物があってさ。この城の地図的なものが欲しいんだ。設計図でもなんでもいいから無い?」

「……兄さんの息子だとしても、理由も聞かずに渡すことはできん。何に使うつもりだ?」


 スレイ伯爵には弟が二人いました。

 三男は兄が当主になると同時に家を出て、今は異国で暮らしているとのことです。となると、この部屋にいるのは消去法で次男のヨセフになります。

 スレイ伯の弟であり、パトリックの叔父であり、ヒルデガルドの父親です。


「その子どもは誰だ?」


 ヨセフは穏やかそうな兄とは真逆のタイプでした。良く言えば威厳があり、悪く言えば威圧的。


「ヨセフ様とお見受けします。はじめまして、【不滅】の魔法使いの弟子・ミカエルと申します」

「位の低い者は、上の者に紹介されるまで黙って頭を垂れているものだ」

「失礼いたしました。若輩者なので、緊張のあまり直接問いただされたと勘違いしてしまいました」


 ミカエルは真面目くさった顔をして(うそぶ)きました。


「大魔法使いの弟子ということだが、生まれは?」

「生後間もなくラファエロ様の養子になりました。今は師匠が唯一の家族です」


 ヨセフが確認したかったのは、貴族か否かでしょうが、ミカエルは絶妙な言い回しで躱しました。


「はい、ストップ。叔父さんが礼節に厳しいのは知ってるけど、今回は例外ってことで。こっちは頼んで来てもらった身なんだからさ。大目にみてよ、ねっ!」

「私が領主代理であると知っていながら直視し、あまつさえ言い訳するなど言語道断だ」

「では帰ります」


 あっさり宣言したミカエルに、パトリックもヨセフもぽかんとしました。


「ルカ医師(せんせい)への義理で引きうけることにしただけで、協力する義務はありません。一挙手一投足に難癖付けられて、依頼とは関係ないことに気を遣うとかやってられません。既に気に入らない存在と認識されているのなら、今すぐお暇して縁を切るのが吉です」


「え? ええ!?」


「家の名を背負う貴族の子でもない相手を貴族のルールで叱責し、辞退するよう仕向けたと知られたら、ヨセフ様はお兄様の治療を妨害をしたと思われるでしょうね」


 どうやらヨセフはヒルデガルドと同じタイプです。というか親子なので、ヨセフの教育の賜物なのでしょう。


 ラファエロの教育を受けたミカエルですが、彼の場合は師匠を反面教師にして育ちました。

 きっとラファエロなら、ヨセフにイチャモンつけられても相手にせず、セルジオを助けようとするのでしょうが、ミカエルは違います。


「代理の肩書きを外したくてやった……そう邪推されても仕方のない行為ですが、もちろんご存じの上でされているのですよね。だって領地を運営できるほど頭が良くて立派な方が、その程度のことすら想像できないはずがありませんもの」


「ミ、ミカエルく~ん」


 パトリックに縋るような目を向けられましたが、ミカエルは無視しました。


「ああっ、わかりました。もしセルジオ様が亡くなっても、自分は絶対に領主にならないと立場を明確にされたんですね! 泥を被って正統な後継者であるパトリック様を後押ししたと!」


 治療妨害が直接の原因にならなくても、そういうことをした人物が、後釜に座るのを許すほど世間は甘くありません。


「でもその為に実の兄を危険に晒すのはどうかと思いますが、きっとぼくには想像もできないような深い考えがあってのことですよね」


 放蕩者と言われている嫡子と、非常時に領地に貢献した弟。

 どちらが後継者に相応しいか意見が分かれるところですが、言いがかりを付けてミカエルを追い出したとなれば、どれだけ実績を積もうが関係ありません。

 世間体を鑑みて周囲はパトリックを推すでしょう。


「う、うわぁ」


 言葉の裏を察したパトリックは蒼白になりましたが、ヨセフに至っては土気色です。

 生意気な小僧を締め上げてやろうとしたら、いつの間にか自分の首に縄がかけられていました。

 今やヨセフは絞首台の上です。ひとつでも間違った対応をすれば、その瞬間、足場が消えてなくなるでしょう。


「ね、ねえ、もう勘弁してくれないかな。叔父さんも悪気はなかったんだ。そうだよね?」


 取りなそうとするパトリックをヨセフは睨みつけました。

 このまま甥に助けられては面目丸つぶれです。


「……ここは領主の城だ。貴族の血が流れている使用人も多い。気をつけるように」

「ああ。厄介な連中がどんなものか、お手本を演じてくださったんですね。ありがとうございます」


 ミカエルは満面の笑みを浮かべました。ラファエロですら滅多に見ることのない大変貴重な表情です。


「……私は忙しい。欲しいのは城の見取り図だったな。後で届けさせるから、出ていきなさい」


 言いたいことだけ告げると、ヨセフは二人に背を向けて会話を強制終了させました。

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