奇妙な城 7
言い合いで興奮しすぎたラファエロが「眩暈がする」と零したら、ルカが診察モードに入ってしまったので、ミカエルとパトリックは席を外しました。
今ごろラファエロは迂闊な発言を後悔しながら、検査を受けていることでしょう。
「領主の居城なだけあって広いですね。しかもこの手の建物には、隠し通路や秘密の仕掛けがつきものなので、一通り見て回るだけでも時間がかかります」
「どこから手を付ける? オレに手伝えることある?」
「見取り図のようなものがあればありがたいです。ぼくが一人で彷徨いていたら咎められそうなので、それなりの権限を持つ同行者を手配してください」
「りょーかい。城に関する資料なら、図書室じゃなくて執務室にあるかな」
「図書室があるんですか!?」
淡々としていたミカエルのテンションが急上昇しました。
「どのくらいの規模ですか? 入室制限はありますか? 貸し出し可能ですか? 貴族の蔵書ってどんなラインナップなんですか?」
「ストップ! ストップ! ちょっと落ち着いて。え、そんなに本が好きなの?」
「大好きです! 起きている時間はずっと読んでいたいくらい!」
「あー……。でも色々読んでるみたいだし、本当に好きなんだね」
「パトリック様は何が好きなんですか?」
「うーん。買い物? お洒落なお店って、見るだけでもテンション上がるよね。異国の雑貨とか、何に使うんだって小物とかも面白いけど、ファッションとかインテリアは別格で好き。お気に入りの店はシーズン毎に新作チェックしてるし、新規開拓も続けてるからどんどん通う店が増えちゃうんだよねぇ」
好きと豪語するだけあってパトリックは洒落者です。
美容師だったパウロは垢抜けていましたが、彼の場合は安い物を上手に着こなすタイプです。
ロベルトは上質なテーラーメイドを着ていましたが、パトリックのような遊び心はありませんでした。
パトリックの服装は適度な抜け感や遊び心を加えながらも、上品さを損なわないギリギリのラインを攻めています。着道楽なのでしょう。
「……師匠を観光案内に連れ出して、ついでに買い物してもらうことってできますか?」
「構わないけど。あれだけ意固地なってたら、連れ出すのは無理じゃないかな」
「あ。師匠の意地は長続きしないので大丈夫です。認知症じゃないですよ。脳天気なので負の感情が長続きしないんです」
「言うねぇ。もしかしてさっきの仕返し?」
「まさか。ぼくは知り合いから古着もらえるので大丈夫なんですが、師匠はずっと昔買った服着てるんです。なまじ見た目が変わらないから、一生物の服を言葉通り一生着倒そうとするんです」
「いやまあ、何十年着ても型崩れしない仕立てとか、上等な生地はあるけど、デザインは流行廃りがあるからね。マジで一生着るとかないわ~」
ラファエロが服を買うときの基準は「皺になりにくい」「埃が目立たない」「季節関係なく着れる」の三つです。逆にこれを満たしていれば、どんなデザインでも構わないのです。
「実は年に一度、通信鏡を使った二つ名持ちの会議があるんです」
「うわ、凄い面子」
「ですよね。でもうちの師匠だけ、いつも普段着なんです」
「マジ?」
「しかも先日は寝間着かってくらいヨレヨレな生地の服着て出席しようとしてたんです。丁度ジョンさんとパウロさんが来てくれたので助かりましたが、クローゼットを一新しないとさすがにヤバイです」
あの日は偶然にも本の配達に来たジョンと、野菜のお裾分けにやってきたパウロに救われました。
ラファエロの手持ちの中でも比較的マシなのをパウロが選び、ジョンとパウロからベストやベルトといった小物を借りてなんとかやり過ごしました。
パウロに至ってはヘアセットまでしてくれたのです。
噂に聞く【怠惰】の魔法使いですが、意外なことに彼女はちゃんとした恰好をしていました。
「面倒だから全部専門家に任せている。ヘアメイクが得意な使用人を雇って、服はブティックと契約して定期購入すれば全部解決」と、これまた極端な人物でしたが、実際それで体裁が保てているのでラファエロより遙かにマシです。
ファッションに興味のないミカエルですら、あれはないと思ったのに、本人はまるで理解していないのが困りものです。
「ダサいからと孫が捨てた小物を、お祖母ちゃんが平気で使っていたりするじゃないですか。あんな感じです」
「何となくわかるかも。それが気に入ったとかじゃなくて、見た目なんて気にしない、なんでも良いの域に達しちゃってるわけね」
「そうなんです。でもぼくに紳士服のコーディネートなんて芸当はできません。パトリック様なら、お洒落だし良い物選んでくれそうだなと」
「んー。わかった。どうせ町に繰り出そうと思っていたし、あれだけ美形ならプロデュースしがいがあるよ」




