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魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~  作者: 茅@溺愛超え発売中!


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奇妙な城 1

 山小屋に戻った二人は、物々しい一団に出迎えられました。


 剣を腰に下げた男たちは、動きやすさを追求した軽装鎧を纏っています。鎧の胸元には揃いのシンボルが彫られていました。

 一匹の竜とクロスした剣。ミカエルの記憶が正しければ、それはスレイ伯爵家の紋章です。


「スレイ騎士団の方々ですね。ようこそいらっしゃいました。ぼくは【不滅】の魔法使い・ラファエロの弟子のミカエルと申します。ご領主様にはご子息がお一人いるだけだと思っていたのですが、ぼくの記憶違いでしょうか?」


 先んじて礼儀正しく挨拶してみせると、小屋の前で待ち構えていた騎士達に軽く動揺が走りました。

 名乗る前に正体を言い当てられたことも、こんな辺鄙な場所に住む人間が領主の家族構成を把握していることも、幼い子どもにしか見えないミカエルが落ち着き払った対応をしてことも、すべてが予想外だったのです。


「あら。なんて生意気な子どもかしら」


 大柄な騎士達に守られていた少女がパチンと扇を閉じると、ミカエルに歩み寄りました。手が届く距離まで近づくと、扇を使って少年の顔を持ち上げました。


「その顔で生まれたことに感謝するのね。もし美しくなかったら、打ち据えて躾してやるところよ」


 伸びた手がミカエルの顎から扇を引き剥がしました。手の主はラファエロです。


「この子はわしの弟子であり、養い子じゃ。危害を加えた瞬間、わしを敵に回すと心得なされ」


 ラファエロに睨まれた少女は、彫像のように動きを止めました。


「わしに用があってきたのじゃろう」


「……」


 完全に固まってしまったお嬢様に変わり、年配の騎士が素早く前に出ました。


「突然の訪問、失礼いたします。【不滅】の魔法使い様でいらっしゃいますか?」

「いかにも。弟子がおぬし等の身元を推測したが、正式に名乗られよ」

「あああああのっわた、わたくしっ! スレイ伯爵の姪・ヒルデガルドと申します!」


 ようやく動いたヒルデガルドでしたが、まるで壊れかけの自動人形(オートマタ)のようです。

 一度絞め落として再起動させたら、元の高慢なご令嬢に戻るのでしょうか。


「我々はヒルデガルド様の護衛を命じられた、スレイ騎士団第三部隊にございます」


 代表して名乗った男は、部隊長のノトブルガと名乗りました。


「わし等は外出から戻ったところで疲れておる。話は家の中で聞こうかの」

「ラッ、ラファエロ様の――! 出会ったばかりの男性のお部屋にお邪魔するなんてっ」

「お嬢様、落ち着いてください。部屋ではなく、家の中です」


「どうしましょう。淑女として、毅然とした態度を貫くべき? でもルームツアーよ。折角のチャンスを見逃すなんて、腰抜けもいいところじゃない」


「お嬢様、正気に戻ってください。『こんな粗末な小屋に入りたくないわ。ドレスが汚れるじゃない。こんなド田舎に長居は無用よ。スレイの名を出してさっさと城に連れていくわ』と言っていたのは貴女ですよ」


 散々な言われようです。ミカエルでさえもムッとしたのですから、お手製のマイホームをボロクソに言われたラファエロの表情は無です。

 東部では名のある貴族とはいえ、単なる伯爵家が二つ名持ちの大魔法使いを好きにできると思われていることも、ラファエロの怒りに拍車をかけました。

 お人好し爺さんだからといって、目の前で悪口を言われてニコニコできるほどではないのです。


「ふむ。高貴なお嬢さんは、我が家に足を踏み入れたくないようじゃな。たしかに男所帯じゃから、若い娘を招くのは気がひけるのう」


「いえっ、喜んでお招きにあずかりますわ!」


「家主の前だからと、無理をしなくていいんじゃよ。城で話をするつもりじゃったようじゃし、わしも余計な時間はかけたくない。とっとと移動しようではないか」


 ラファエロは、遠回しに「お前の本音は聞いたぞ。こっちこそお前を家に入れたくない。そっちがここに長居したくないように、こっちも早く縁を切りたい」と告げました。


「師匠って本当に宮廷魔法使いだったんですね」


 貴族相手に一歩も引かず、不敬で罰せられない範囲で言い返す姿に、ミカエルは感心しました。


「経歴詐称してると思われてた!?」

「いえ。信じてなかったわけではありませんが、こう世渡り的なものといいますか、折衝的なものは全部他の人に任せてたのかなと」


 肩書きは管理職でも、やっていることは現場で力をふるうことだったと思っていたのです。


「ちゃんと名実ともに宮廷魔法使いの代表やってたわい。現役時代の反動で、今は書類仕事アレルギーで、交渉ごとも想像するだけで吐き気がするけど、やろうと思えばできるんじゃからな!」


 胸を張って言うことではありません。


「勤め人だった頃は、言われた書類を埋めるだけだったのに、今は自分で色々手続きしなきゃいけないのだけがストレスじゃ」


 あの日、宮廷魔法使いを辞めたことを後悔してはいませんが、税金やら何やらの申請期間がくるたびに面倒だなと思います。


「それで、最近はぼくに任せきりなんですね」


 今も充分幼いミカエルですが、もっと幼い頃――具体的には七歳くらいから、数学の勉強として帳簿づけを任され、今では公的機関への提出書類も書いています。


「ど、どれもいずれできるようにならんといかん仕事じゃ。これも修行のうちじゃっ」


「ラファエロ様。もし再就職をお望みでしたら、スレイのお抱え魔法使いはいかがでしょう! ラファエロ様の実績であれば、即採用間違いなしです!」


「いや、それは御免こうむる」


 ラファエロは即答しました。


「お望みの条件があれば、最大限譲歩いたします。二つ名持ちの大魔法使い様ですもの、他の魔法使いと同じ扱いにはいたしませんわ」


「わしは身をもって知っとるんじゃ。採用面接では、こちらの希望に添うようなことを言っておいて、いざ就職すると完全な駒扱い。希望した場所には配属せず、あれこれ理由をつけて縁もゆかりもない場所に飛ばしたり、一時的なものと嘯いて万年人手不足の場所で酷使する。組織ってそういうものなんじゃ!」


「わたくしの専属魔法使いの座をお約束します! これならどうでしょうか!」

「尚お断りじゃ!」


 誰が好き好んで高慢ちきなお嬢様のお世話係になりたがるでしょうか。ラファエロは全力で拒否しました。


「この場で結論を出すのは早計でしてよ。わたくしのことを知ってください。そうすれば、きっと考えが変わりますわ」


 ヒルデガルドも負けてはいません。恋する乙女の皮が剥がれて、元の高慢さがチラチラと顔を出してきました。


「ご安心ください。わたくしにはまだ婚約者がいませんの」


 ヒルデガルドの外見は十代後半。由緒正しいスレイの系譜でありながら、婚約者が居ないなんてむしろ不安しかありません。何かしら問題があると言っているようなものです。


「おぬしの婚約事情など関係ない!」

「大ありですわ!」


 微妙にかみ合っていない会話を繰り広げる二人に、ミカエルと騎士達は蚊帳の外状態です。


「…………生まれて初めて、人が恋に落ちる瞬間を見てしまった」


 ミカエルの呟きを拾ったノトブルガが、無言で頷きました。ミカエルの三倍は生きていそうな厳つい男性ですが、彼も初体験だったようです。

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