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魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~  作者: 茅@溺愛超え発売中!


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姿なき呪い 6

 厨房を出た三人は、他の区域もチェックしましたが、特に異常はありませんでした。

 建物内を確認し終えたので、外に出て庭や外壁を調べます。


 屋敷と商会は、歩いて数分の距離にありました。

 商会は一階が店舗スペース、上客用の個室。

 二階が事務所で職員が働く部屋と、商会長の執務室、給湯室。三階は倉庫でした。

 給湯室にはまたもやミス・グリーンのブレンドティーが置かれていましたが、中身は厨房にあったものと全く同じでした。

 三階にあるのは商会で使う備品や、保管しなければいけない書類です。


 商品は海沿いにある倉庫に置いているそうなので、そちらにも足を伸ばしましたが、これといって目ぼしいものは見つかりませんでした。



「――今のところ呪術どころか魔法の痕跡すらありません。残るはロベルトさんの執務室と私室、生活習慣の確認ですね」


 勝手に個人の部屋に入るわけにはいかないので、ロベルトが一番長く過ごしているであろう場所は後回しになっていました。

 マリアが案内してくれることになったので他を優先しただけで、嫌なことを先延ばしにしたわけではありません。

 ですが気乗りしないのは確かなので、ミカエルは憂鬱そうに言いました。


「うむ。ミカエルよ。おぬしの気持ちはよくわかった。じゃが、昼間のような態度はダメじゃぞ」


 大人になって働くようになれば、嫌いな人間とも付き合わなければいけません。

 ラファエロは、ミカエルを一人前の魔法使いに育てると誓いました。それは能力だけでなく、社会人として立派にやっていけるようにすることも含まれています。

 いつになく真剣な表情で諭され、ミカエルは素直に頷きました。


「……気をつけます」


 晩餐の用意ができたということで、三人は食堂に移動しました。



 会食の場に使われることもあるので、ボスコ邸の食堂は平民の家とは思えないほど広いものでした。

 五人が向かい合って食事できそうな長いテーブルには、五人分の料理が配膳されました。

 ロベルトを挟む形でミス・グリーンとマリアが座り、師弟は三人と向かい会う座席順です。


 秘書といっても一介の従業員のはず。ミス・グリーンを同席させるロベルトは、何も知らない人から見れば、従業員を家族同然に扱う度量の大きな人物に感じるかもしれません。

 しかしロベルトは妻の喪も明けぬうちに、娘と同等の扱いで、不倫関係にあった女性を座らせているのです。ミカエルには悍ましいとしか思えませんでした。


「部屋にあった果物もですが、どれも初めて食べる料理です」

「当商会は食品の輸入・卸業を中心に行っています。異国の食べ物をただ仕入れても、調理法がわからなければ売れません。売り出し方を考えるために、普段から食事に取り入れているんですよ」


 屋敷を案内した時と同じように、マリアが説明しました。

 一緒に過ごすうちに打ち解けたため、彼女の表情はかなり柔らかくなりました。


「鴨肉に掛かっていたソースや、サラダにも果物が使われていましたが、青果とその加工品を取り扱っているんですか?」

「それはたまたまですね。果物は試験的に増やしているだけで、うちのメインは茶葉、穀物、香辛料、健康食品、酒類です」


 昔から日持ちする食品の輸入を行っていましたが、最近は保存方法や輸送方法が進歩したので、賞味期限が短いものもどこまでだったら取り扱えるか実験中だとマリアは続けました。


「手広いですね。そういえば、地元で香辛料が品薄だと小耳に挟んだんですが」

「もしかしてうちの影響かもしれません。香辛料は遠距離輸送の対象なので、保険への加入が必須になります。母の名義で契約していたので、変更手続きが終わるまで船を出すことができないんです」

「なるほど。たしかに貿易にはリスクがつきものなので、保険は大事ですね」


 ミス・グリーンから淑女教育を受けていたということで、ミカエルはてっきりマリアは商会の仕事には携わっていないものと思っていました。しかし淀みなく説明しているところをみると、どうやらそうでもなさそうです。


「へー、知らんかったわい」

「師匠は引きこもりで、友達も少ないですからね。噂話に疎いのは当然です」

「わしはスローライフを目指しているだけで、引きこもりではないんじゃが。あと友達は普通におるぞ。普段連絡しないだけで」

「師匠。スローライフの意味をはき違えてます。本来はジョンさんみたいな生活のことを指すんですよ」


 ミカエルは、友達についてはあえて触れませんでした。

 ラファエロと生活して十年近く経ちますが、彼が知る限り小屋を訪ねてくるのは依頼人と村民のみ。

 たまにサリエルと通信鏡で話してはいますが、彼以外と通話や文通をしている形跡はありません。

 つまりラファエロだけが友人だと思っていて、相手にとってはとうに賞味期限切れ。縁が切れていると思われていても不思議ではないのです。

 そんな悲しい現実を、大勢の前で突きつけるのは、流石のミカエルも気が咎めました。


「マジで?」

「マジです」


 都合が良かったので今まで指摘しませんでしたが、ラファエロの認識はいささかズレています。



「余計なお喋りはそれくらいにしてもらおうか。依頼の方はどうなんだ? 何か見つかったのか?」

「このお屋敷と、商会の建物を確認しましたが目ぼしいものは見つかりませんでした」


 ミカエルの報告にロベルトは鼻を鳴らしました。答えが気に入らなかったようです。


「ただしロベルトさんのプライベートな空間は、勝手に捜索するわけにはいかないので、手つかずです。明日は朝から晩までロベルトさんに同行させてもらい、ルーティンや生活空間に仕掛けがないか確認させてもらおうと思います。普段通りに過ごしてください」


 ミカエルの提案に、ロベルトは顔を顰めました。

 初対面では社交的な印象でしたが、よそ行きの仮面を被っていたようです。しかもその仮面は氷製なのかごく短時間で溶けてしまう儚いもののようでした。

 元からそうなのか、原因不明の不調が続き神経がささくれ立っているのか。過去の姿を知らないミカエルは判断できません。


「商会の仕事を部外者に見せるなんて……」

「書類を覗き込んだりはしませんよ。部屋の隅で様子を伺うだけです」

「商談内容を聞かれたくないなら、結界魔法を使えばよかろう。あれは音も遮断するぞ」

「それなら、まあ」


 ラファエロの提案に、ロベルトはしぶしぶと言った様子で了承しました。


「今日は、あれから何か異変はありましたか?」

「頭痛が二回。だがどちらもごく短時間のことで、薬を飲む前に治った」

「頻繁に痛み止めを飲むと、薬が原因で頭痛になることがありますが、その可能性はありますか?」

「ありえません」


 それまで会話に参加しなかった、ミス・グリーンが断言しました。


「私は秘書として旦那様が口になさるものを全て管理しています。薬についても同様です。薬物濫用頭痛に至らしめたりはいたしません」


「……そうでしょうね。あなたはとても優秀な薬師です」


 ミカエルの言葉に、ミス・グリーンだけでなくロベルトとマリアも目を丸くしました。

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