閑話:ある職人の話~その2
編集者が悪戯小人の呪いを解除した次の日。
”小人の鉄床”のギルドマスター執務室で、
1組の男女が取引を交わす。
「相変わらず、いい仕事をしている。」
「師匠の玉鋼さんにそう言ってもらえると、
私も自信が持てますね。」
「茶化すな。」
「茶化してませんよ。
私が師匠と呼べる人は玉鋼さんだけですから。」
「だったら、弟子はとっくに師匠を超えてるよ。
とりあえず、これは俺から依頼人に渡しておこう。
代金は幾らだ?」
「ん~、そうですねぇ・・・
予算は30で聞いてましたけど、
”ゴート山賊団” や ”長机の騎士団” から安めに素材を分けてもらえましたし、
材料費だけなら12を切るかどうかってところですね。
幾らくらいが妥当でしょう?」
「材料費はともかく、
制作にかかった時間と手間賃を考えれば+7ってとこか。
その上で、今回のは時間短縮に消費減少だろ?
魔法職がこぞって欲しがるぜ。」
「効果に関しては、狙って出せる物は出してますけど
素材と色で出せる効果以外は
流石に狙って出せる程、甘くないんですよね。
作る機会がある時は、研究を兼ねて試行してるんですけど。
蛮蝶の糸は前にも何回か使った事があるんですけど、
その時も消費減少は付いてましたね。
たしか、減少の割合は3~5%、大きい時でも7%くらいだったと思います。
でも、詠唱時間の短縮じゃなくて移動速度アップでしたし
その前は重量軽減だったんですよね。
刺繍する場所かとも思いましたけど、あの時は背中に大きくという依頼でしたし
効果が同じだった物もありますから、場所は関係ない気もするんです。
あ、でも星みたいに角張ってるっていう形の方が・・・」
「ストップ!
お前が良品を作るのは分かってるから。
で、お前はコレを幾らで売る気なんだ?」
「代金の方はお任せします。
なんなら、材料費だけで渡しますから
限度額で売って残りを仲介料として取ってもいいですよ。」
「そんなわけにもいかんだろ。
仲介料の方が仕入れ値より高いって、
それはいくらなんでも暴利過ぎだ。
効果を考えれば、セット効果で安めに設定しても
26~7辺りが最低ラインだろうよ。
ほら、これが代金だ。」
「えっとぉ、・・・はい、確かに。
でも、本当に仲介料をボッタくっても
私は気にしませんよ?」
代金を確認すると、それを仕舞って
本気とも冗談とも取れることを言う。
「俺が気にするっつぅの。」
冗談だと分かっているが、
玉鋼にはそんな気はないので、
いつものように怒るように、それを拒否する。
「ふふっ、玉鋼さんがそう言える人で良かったです。」
「そりゃ、どういう意味だ。」
「私の人を見る目が曇ってないと
安心できるからですよ。
では、後のことはお任せしますね。」
さよは用事も済んだし、ギルメンではない自分が
何時までも居るべきではないと思ったので席を立とうとした。
「これから用事でもあるのか?」
「いえ、これと言ってあるわけではないですよ。」
「だったら、お前に手伝って欲しいことがある。
俺からの制作依頼になる。」
「はい、構いませんよ。」
一度は席を立ったが、面白そうなので座り直した。
「今うちが受けている依頼なんだが、
布の服に隠されているように見える鎖帷子。
効果、色は指定なし。
とにかく軽くて丈夫な物を一式。
やれるか?」
「また、面倒ですね。
布っぽく見える鎖帷子ってことは
忍者系の人からの依頼ですか?」
防具の外見の自由度が、そこそこ高いこのゲームにおいて
見た目にこだわるプレイヤーは少なくない。
「そうなるな。
詳しくは言えんが、相手はLv90代の下忍。
投擲武器による中距離攻撃を得意とし、
PTでは主に釣り役らしい。
予算は1M(=100万)~1.2M(120万)。
布の服に見えるってところが、どうにも厄介でな。
俺らだと、どうしても金属鎧にしかならん。」
「それは・・・
さすがに私の手にも負えないかもしれませんね。」
「マジか。
お前が最後の砦だったんだが。」
目に見えて玉鋼が落胆する。
「あ、いやいや、勘違いしないでください。
飽くまで、私の手にも負えないかもってだけですよ?
あの人の手を借りることができれば、
おそらく作ること自体は可能だと思います。」
手を振って否定すると、
一度は落胆した玉鋼が顔を上げる。
「お前が手を借りるほどの職人が他にいるのか!?
誰だ!?」
「落ち着いてくださいよ、師匠。
あの人、職人といえば職人ですけど、違うといえば違うんですよ。
うちのギルメンなんですけど、居ないことが多い人ですから
うまく捕まえられれば御の字ということにしてください。」
あるプレイヤーを思い描きながら
どうやって力を借りるか思案する。
彼は魔将クエストが始まる少し前から
出会う頻度は高くなってはいるが
それでも毎日会っているわけではない。
「大親分さんっていう人なんですけどね。
あの人、自分は商人の派生系だって言ってましたけど、
どっちかというと、生産職の派生系にしか思えないんですよ。」
なぜなら、一般的にはMP消費が激しいとされる補助を
長時間持続させた上でケロリとしており
それを見て不思議に思って問うたところ、
自分で作ったアイテムでMPを回復させていたらしい。
彼は自作のアイテムで消費分をまかなっていたのである。
それが可能なジョブは3つあるが、
MPの消費を十分以上にまかなえるジョブは1つに絞られる。
これは召喚士が加入した直後のギルドハンティングの時の事なのだが、
そこまで言う必要はないので、そこは黙っておく。
「たぶん、錬金術師の派生系ですよ、あれ。」
錬金術師。
複数のアイテムを1つのアイテムにまとめ上げ、
様々な効果を持つアイテムを作り出す、消費アイテムの生産職でる。
玉鋼のジョブである鍛冶騎を装備アイテムに限定した万能な最高峰とするなら、
錬金術師は疑うことなく消費アイテム制作の最高峰である。
成りたての錬金術師であっても、前提条件である薬師を極めた者よりも
高い効果のアイテムを生み出すのだ。
「私も含めて ”ピンクボム” のギルメンを見た結果、
全員が全員そうだとは言えませんけど、
唯一職って、他のジョブの限界を超えたジョブだという仮説が
一応は成り立つんですよね。
大親分さんが錬金術師の上位に相当するジョブだったら、
消費アイテム以外でも合成できるんじゃないでしょうか。
鎧創職人の上位職みたいな私が
錬金術師に近い事をやれるんですから、
出来たって不思議じゃないですけど、
それでも、出来るって判明してるわけじゃないですから。」
さよは自身の出来ることを玉鋼に隠さず伝えてある。
「一応、私の方でも試してみますし、
私がダメだった時は、大親分さんに協力してもらう形になると思います。
私だけで済めばそれが一番良いんですけど、
大親分さんに頼む形になったときは人件費が嵩みますね。
しかも、成功するって決まったわけでもないですから、
玉鋼さんの方でもダメだった時の為に、
相手方へのフォローは考えておいてください。」
そう言いながらも、既に頭の中では幾つか図案を引いている。
このゲームをプレイしている間の彼女は
1人の少女ではなく、歴とした1人の職人なのだ。
「そういえば聞き忘れてましたけど、
依頼人は男性ですか?女性ですか?
言うまでもありませんが、
そこで設計も変わってきますけど。」
「・・・そう言われると、俺も確認してなかった。
男にしちゃ声は高かった気もするが、
口調や外見だけなら男だったぞ。
覆面で顔は隠してたから断言できんが。
とりあえず、男物で頼む。
違ってりゃ、すまんがもう1回依頼を出すという形にして、
出来た物はギルドで買い取るから心配するな。
他に聞きたいことはあるか?」
「確認ついでになりますけど、
一式っていうことなので五部位全部 (頭、体、腰、腕、足) で良いんですよね。
頭は覆面込みの方が?」
「俺の見立てじゃ、覆面は装飾品だと思う。
頭に組み込めるんなら、空きができるし
そうしてやってくれ。」
「納入期限は?」
「10日以内で頼む。」
「了解です。」
自分が所属するギルドに帰り、与えられている部屋に入ると
手持ちの素材を確認する。
”ピンクボム”はギルドとしては規模が小さい。
人数も10人と人数が多いわけでもないので、大きなホームを必要とせず、
最も小さいホームを購入して使用している。
とはいえ、個室というものがないわけではなく
5つと少ないながらも個室は存在する。
ギルドマスターであるドクターは、
プライバシーの観点から、数少ない個室を女性に優先して割り振り、
残った1つは大親分の作業部屋として当てている。
最も広いマスタールームは予言者の部屋で、
残った部屋は広さに大差はなく、女性陣と大親分が使用している。
もっとも、編集者が実質使っていないに等しいので個室に空きがあり
調律師と召喚士が密かに狙っているのだが、
それについては、ドクターは気づかぬふりをしている。
「金属から変換した布製の服をベースに、
硬くて柔軟性のある服にしてみますか。」
帰る道すがら、幾つか考えていた図案の1つを引っ張り出す。
金属を布に変え、
「絹よりも麻の方が・・・。
いや、でも木綿を多く厚めにして・・・。」
重さや硬さ、手触りなどを確認していく。
仮想現実という非現実であっても、触覚として感じる以上は
やはり肌触りが良いに越したことはない。
こういう細かいサービスも仕立屋が人気がある理由の一つである。
「やはり、ここは
もう一度、布から金属に変換後、鋼糸にしてから
編み込んでいく方が楽でしょうかね・・・」
ブツブツと独り言を言いながら、スキルを順番に発動させていく。
候補に挙げていた布を金属に戻し終え、
試しにマフラーを編む要領で、襟布を編んでいく。
ただし、使っているのは毛糸ではなく鋼糸だ。
イメージするのであれば、針金で出来たマフラーだろうか。
「想像は出来てましたけど、
やっぱりこうなりましたか。」
出来上がったものを見て、
想像していたとはいえ、失敗したのでやはり落ち込む。
鉄糸の襟布 (アクセサリー・首)
防御+8
被クリティカル率-9%
斬撃に分類される攻撃を7%軽減
完全に金属が見えている。
これでは布には見えない。
「これを布の帽子に組み込んでみますか。」
気を取り直して、試作に取り掛かる。
「見た目は悪くないのですが、
布の帽子とは相性が悪いようですねぇ。」
概ね想像通りの物にはなってはいるが、
出来上がった物は、やはり布とは言いにくい。
「鉢金ではどうでしょう。」
布系防具に分類され、額部分に金属も使用しているので、
こっちなら相性が良いかもしれない。
試作品を解体して、今度は襟布を鉢金と組み合わせていく。
「相性は良いようですが、
今度は頭が無防備ですねぇ・・・」
やはりしっくりこない。
その他にも、思いつく限りの帽子や兜と組み合わせていくが
なかなか、これだという物ができない。
「やはり大親分さんに協力を仰ぎますか。」
気付けば、予定外に時間が経ってる。
明日にはリアルの都合でインできなかった調律師が合流し、
魔将退治を再開するはずだから、大親分も必ず現れる。
日数にも余裕はあり、協力を仰ぐのはその時でも遅くはない。
明日の予定を決めた仕立屋は
誰もいない部屋でログアウトした。
なんでだろう。
仕立屋の方が文章を思いつくのが早い・・・
5/6:一部追加




