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事件1-6 推理と共犯者

 ひどい頭痛と吐き気がして、廊下の壁に手を着く。 隣では、星野が切羽詰まったように警察に通報をしている。通報を終えた星野は、隣で吐きかけている私を心配するように口を開く。

「栂野さん?」

涙目の星野が私を見つめてくる。私の眼の前には少し開いた扉。セーブ地点に戻ってきた。

「犯人が分かった」

「もうですか!?」

「ロードしたんだよ。セーブ地点に」

私がそう言うと、星野は驚いたように目を見開く。


 私は壁に手をついて、ゆっくりと扉に近づくと、手袋をして扉を開ける。足元のライターを拾い上げ、事件現場を見回す。ロードする前に確認した部屋と状況は変わらない。犯人はわかっているが、どうせならちゃんと確証を持てる推理をしたい。

「星野さん、私の助手になってください」

「え?あ、はい!」

「この部屋、くまなく写真に撮って」

私はポケットから錠剤を取り出すと、喉に放り込む。すると、すっと頭痛と気持ち悪さが抜けていく。

「写真撮りましたよ!」


 「これで全員だな?」

阿久津の偉そうな声がエントランスに木霊する。所轄の制服警官が阿久津に返事をすると、他の警官たちが容疑者たちの心体検査をする。無論、私と星野もだ。

「おい、その男は時に念入りに検査しろ」

阿久津が俺を検査してる警官に告げる。

「手袋、メモ帳、ボールペン…」

警官は手に取ったもの一つ一つを声に出してから、私の足元に並べていく。

「ん?これは?」

警官がそう言って私のポケットから取り出したのは、錠剤が入った袋だった。

「頭痛の薬だ」

「違法薬物とかでは…」

「薬物検査でも何でもしてください」

嘘はついてない。嘘はついてない。

「じゃあ、これは?」

今度は懐中時計を手に持っている。

「懐中時計だ。怪しいものなんてないだろ?」

阿久津が小さく舌打ちをする。安心しろ、これからお前の点数に協力してやる。


 「皆さん、少しいいですか?」

私がそう言うと、エントランスの全員が俺を見る。

「私、栂野探偵事務所で探偵をしております、栂野刻です」

エントランスが少しざわつく。阿久津はまたかと呆れたように額に手を付き、首を振る。

「犯人が分かりました。被害者である倉坂を殺害し、そして私立図書館から古書と星野から身代金を盗んだ犯人がね」

「古書?身代金?」

阿久津が首をかしげる。

「つい先日、私立神楽坂図書館から一冊の古書が盗まれました。その古書はどうも重要なものらしくてですね。こちらの星野が身代金を持ってこのホテルに来たんですが、いろいろあって身代金も盗まれてしまいまして…」

「で、それを盗んだ犯人と殺人犯が一緒だと?」

「阿久津、部分的に正解」

私はホテルスタッフの三村と武田に顔を向ける。

「監視カメラの映像、見せてもらっていいですか?」

「は、はい!」

三村はそう言うと、スタッフルームにかけて行った。


 「お待たせしました!」

ノートパソコンを脇に抱え、軽快に駆け寄ってくる三村。三村はパソコンを開くと、監視カメラの映像を表示した。 

「では、昼ごろの映像を見せてください」

「ええ、分かりました」

映像が巻き戻されていくと、私が星野にタコ殴りにされている映像に差し掛かった。

「ここから再生してください」

「はい!」

三村が映像を再生する。映像の端で私は星野にタコ殴りにされている。

「こ、これは?」

阿久津が星野を見る。

「た、ただのじゃれ合いですよ〜?」

星野は今にも逃走しそうなほどに焦った口調で放つ。まあ、ここで星野が逮捕されたら私が困るから、援護してやろう。

「そこは問題じゃない。問題はこのバッグ」

映像の中央付近には、タコ殴りにされる前の私にフルスイングするのに使用した身代金入りのバッグが転がっている。映像内では、武田が駆けつけて星野を羽交い締めにしている。そして、私と星野がスタッフルームに連行され、エントランスに平和が戻った頃、一人の男が何食わぬ顔でバッグを抱えてエレベーターに向かった。

「こ、こいつは…」

阿久津が口元を押さえる。

「被害者の倉坂さん?」

星野が映像を覗き込んで呟く。

「なんだ栂野、被害者は自殺だとでも言い張るのか?バッグを盗んだのは被害者じゃないか」

「ええ、今の映像ではね。ですが、共犯者がいるんです。その共犯者が倉坂さんを殺害した。そうですよね、上田さん」

私は上田の方に振り返る。

「な、なんだよ。証拠なんてないだろ!」

「これ、被害者の部屋に落ちてました。あなたのですよね?」

私は銀色のライターを上田に手渡す。

「さてさて、私な推理はこれからです。上田さん、浅田さん、容疑者の中で喫煙者はこの2人だけ。ですが、浅田さん、あなたは電子タバコですよね?あまり歯が黄色くない」

「そ、そうだが、なぜお前が知ってんだ」

浅田は驚いたような顔をする。だがすまない。今お前の疑問に返答をしてる時間はないんだ。

「そんなの、被害者が喫煙者の可能性があるだろ!これもきっと、その倉坂ってやつのなんだよ!」

「では、その入っている上着を少し脱いでいただけませんか?」

「は?なんでそんなこと…」

上田が渋ると、阿久津が鋭利な目線で上田を貫く。上田は渋々脱ぎ始める。

「何もないだろ」

上田は私を見つめる。私は、上田の右腕をつかんで、少し上に上げる。腕のここ、傷がありますね。

「だからなんだよ」

「被害者の部屋の壁には、血しぶきが付いていなかった。それどころか、あまり返り血はなかったように思えます。なのに、ドアに向かって右手の壁に、小さな血の跡があったんですよ」

上田は黙り込む。はぁ、まだまだ推理は終わってないんだからしっかり聞いてほしい。

「まあそれは一旦置いておいて、上田さん、少し額が赤いですね」

「これは、さっき風呂に」

「にしてはピンポイントに赤いですね」

「…、ぶつけたんだよ。言わせんな恥ずかしい」

上田がうつむく。私は上田から目線を外し、吉村と目を合わせる。

「吉村さん、あなたはドンという物音を二度聞いたんですよね?」

「あ、はい、そうですけど、なんで?」

吉村はまるで心を読まれたかのように思えただろう。すまないが、君の疑問にも答えられない。

「被害者は手に水の入った袋を持っていました」

「ああ、たしかに持っていたが、それが何なんだ」

阿久津が食いついてきた。

「あれ、元々氷だったんじゃないでしょうか?ほら、このホテルは各階にドリンクバーがある。なら、必然的に氷も置いてあるんじゃないですか?」

「はい、確かにございます」

ホテルスタッフの三村が答えると、私はまた上田に目線を合わせる。

「なぜ氷なんか袋に詰めたんだ」

阿久津が私に問うてくる。

「では、事件の状況を整理しましょうか。まず、被害者の倉坂がバッグを拾ってくる。その間、上田さんは倉坂の部屋で倉坂が戻ってくるのを待っていた。ベッドの側面に座ってね。そして、倉坂は戻ってくると、土足で部屋に入っている上田さんと違い、靴を脱いでスリッパに履き替えたはずです。二人が計画成功に喜ぶのもつかの間、取り分で言い争うに発展し、二人は揉み合った。揉み合いで上田さんがバランスを崩し、部屋の机に額を強打。この音が吉村さんが聞いた一度目の音。そこで倉坂は我に返り、上田さんの頭を冷やすための氷を取りに行った。部屋に一人になった上田さんは怒りが抑えられず、部屋に帰ってきた倉坂が靴を履き替えるために背中を向けた瞬間、背後から倉坂を刺殺した。上田さんはバッグを持つと、部屋に帰ろうと駆け出したが、部屋を出ようとしたとき、倉坂の死体につまずいてコケた。これが、吉村さんが聞いた二度目の音。恐らく、倉坂を殺したとき上田さんは上着を着てなかった。だからコケたとき、どこかに引っ掛けて右腕をケガしてしまった。立ち上がるとき、壁に右腕を壁についたりしたんでしょう。だから壁に小さく血の跡が残った。どうですか?上田さん」

私が推理を終えると、上田はエントランスにある受付においてあったボールペンを握り、私に振り上げた。

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