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事件1-5 犯人と傷

 私は被害者の部屋をもう一度見回す。特に床や家具に気を配る。死体はもう回収されており、男が倒れていたところには血が滲みているだけだ。

「栂野さん!どうしたんですか?」

星野が私に駆け寄ってくる。私は彼女を無視して部屋をよく見る。ベッドの一部にしわができている。恐らく腰掛けていたのだろう。そして部屋のスリッパが出されている。このホテルは確か、土足でもいいはずだが、倉坂は靴を履き替えていた?それにしては変だ。床には小さく後のようなものがついている。恐らく、誰かが土足でここを歩いたのだろう。そういえば、ベッドから少し離れた位置に設置されているテーブルが少しだけ斜め向きにズレている。

「わかった」

「何がですか?」

「犯人だよ」


 私は床を見ながら廊下を歩いている人物の正面に立ち、進路をふさいだ。

「何かお探しですか?上田さん」

上田は私を見上げる。

「あ、もしかしてこれをお探しで?」

私は、ジップロックに入ったライターを目の前に見せる。

「ああ、わざわざありがとな」

そう言って手を伸ばす上田の手首を、スーツを着込んだ腕が静止する。

「上田さん、ご同行願います」

阿久津がどすの利いた声で上田に言う。上田は手を下ろすと羽織っていたジャケットを脱ぎ、私と阿久津の顔に投げつけたうえに、その隙に、私と阿久津から反対方向に走り出した。

「通しません!」

そんな声と同時に、隠れていた星野が上田の進路を塞ぐ。おかしい、星野はラウンジに待たせていたはず。あいつ、ついてきやがったな。


 黒いTシャツ姿の上田は星野に体当りして、よろけてから床に倒れ込んだ彼女の背後から左腕を回してホールドすると右手に果物ナイフを持った。星野は、小さく短い悲鳴を上げると、首元に突きつけられた果物ナイフを見つめて顔を引きつらせた。

「人質とは卑怯な野郎だ」

阿久津がそういうのと同時に、星野の首元に突きつけられたナイフが、勢いよく引かれた。瞬間、星野の首から鮮血の血しぶきが上がり、私と阿久津は目を見開く。上田は星野の体を横に投げるように倒すと、また走り出した。

「まて!」

そう言って追いかける阿久津の背中を私は見送り、星野に駆け寄る。

「しっかりしろ!おい!」

彼女かはの応答はない。これでは依頼が失敗に終わる。私は、ポケットの中に入っている懐中時計のボタンを押し込んだ。

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