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事件1-4 探偵と容疑者たち

 「私は容疑者一人一人に話を聞こうと思いう。星野さんはラウンジで待っていてくれ」

私は散り散りに部屋に戻る容疑者たちの背を見ながら、星野に向かって告げた。

「いえ、私も手伝います!」

「遊び半分ならやめておいたほうがいい。あなたも危ない目にあいますよ」

私はそう言って、エレベーターに乗り込む。すると、星野もするっとエレベーターに入り込み、私と一緒に上昇を始めた。

「ついてくるなと言っただろ」

「そもそも未来の私があなたに依頼しなければ、私が古書を盗まれなければ、あなたもこんなことに巻き込まれなかったんだし、少しでも手伝いたいんです」

左斜め前に立つ少し私より背の低い彼女を一瞥するように見下ろすと、私は一つのため息をついた。

「もう勝手にしろ」


 まずは被害者の部屋の真下に宿泊している吉村。

「二度、ドンッみたいな感じの音が聞こえて、そんなに大きな音ではなかったんですけど、頭痛で休んでる時に聞こえたのでちょっとだけイライラしましたね」

と、阿久津に言っていたことと概ね同じことを私たちに証言した。


 「あなたは今日、被害者の倉坂さんとお会いしましたか?」

私がそう尋ねた相手は、被害者と同じ階に宿泊している上田である。

「見てないけど」

「そうですか。ところで、少しデコが赤くないですか?」

「ああ、さっきシャワーを浴びたからだろ」

「そうですか。それでは失礼します」

私はそう言うと、星野に目配せをして、上田の部屋から離れた。


 私と星野が4階のエレベーターホールにエレベーターが到着する。すると、そのエレベーターにはスタッフの武田、三村の二人が乗っていた。

「あ、あの時の変態と暴力女」

「暴力女は間違ってないが、変態とは心外だな。それに、それが客に対する態度か?」

「栂野さん、私たち客じゃないです。後、変態も合ってると思いますよ」

…、そうだ。私たちは宿泊しに来たわけではない。つまり客ではない。いや、でももしかしたらこれから先客になることがあるかもしれないのに、そんな態度取られては今後このホテルに泊まろうとは思えないな。ただ、タコ殴りにされている私を助けてくれた恩は忘れない。スタッフルームで氷を渡してくれるときも優しかった。

「…、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「おい武田、お前失礼だろ。うちの武田が申し訳ございません」

三村が丁寧に頭を下げると同時に、エレベーターは6階のエレベーターホールに到着した。


 「さっきの浅田とかいうやつ、あいつ怪しくないですか?」

そう私と星野に吐露しているこの男性は、6階に宿泊している山口だ。山口はエントランスで浅田が桑原に怒鳴っているところを仲介しようとしていた人物である。

「そうですよね。あんなに感情的になってホントヤな感じです」

星野が同情的に言う。確かに私も同感だ。


 「私は今日、友人と三人で観光に来たんですけど…。ちょっと私が二日酔いしてしまって私だけ部屋で休んでいたんです…」

少し弱々しい声で7階に宿泊している田口は答えた。

「せっかくの旅行で災難ですね」

「ほんとですよ。二日酔いだけじゃなくて殺人事件も起こるだなんて…」


 「ちっ、何だよ」

そう言いながら出てきたのは、エントランスで清掃員の桑原を怒鳴り散らしていた浅田だ。

「いやぁ、エントランスでは随分イライラしておられましたね」

「うっせぇな」

そういう浅田の手には電子タバコが握られていた。

「禁煙ですよ!」

星野が浅田の右手を指さして指摘する。余計なことをするな。

「黙れビッチ」

「び、ビッチ!?」

確かに彼女は派手な髪色で、見た目は遊んでそうだが、かなり盛られた胸パッドをつけているのに、服を脱いだ時なんと言い訳をするのであろうか。「私、着太りするタイプで」とでも言うのか?でもそれは言い訳じゃない。詐欺というのだ。

「もう行くぞ」


 最後に、私と星野は桑原さんとエントランスで出会った。

「清掃お疲れ様です桑原さん。いやぁ、先ほどは災難でしたね」

私がそう桑原の背後から話しかけると、桑原はゆっくりと振り向いて、私と星野に白い髭をたくわえたしわくちゃな顔を向けた。

「いえ、お客様もいろいろあるのでしょう。このような状況では致し方ないです」

ゴミ箱を乗せたカートから両手を離して私たちにしっかりと向き合って放った言葉は、とても優しかった。

「これから私はお客様のお部屋のお掃除に行きますので、失礼します」

「わかりました。何かあったら何でも言ってください」

私がそう言うと、桑原は丁寧にお辞儀をして、エレベーターに乗り込んでいった。


 「栂野さん、もう顔は大丈夫ですか?」

ラウンジで飲み物を飲みながら休憩していると、星野が思い出したかのように私にそんな質問を投げかけた。

「大丈夫だ」

「そうですかぁ」

星野はそう言って頬杖をすると、グラスのなかにある少し溶けかけた氷をストローでカラカラと回し始めた。

「もしかして…」

「どうしたんですか?」

「もう一度、被害者の部屋を見てくる」

私はそう言って立ち上がると、エレベーターに向かって走り出した。

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