死体と刑事
私と星野はスタッフルーム飛び出し、金を探し始めた。廊下などをゆっくりと探して回り、少しずつ、私と星野は会話を交わすようになった。
「で、セーブ能力で私に会いに来たんですね」
「信用してないだろ」
「私が他に託したキーワードとかあるなら言ってください。それによって信用するかしないか決めます」
「お前が今つけているパッドはいつもタンスの二段目に…」
「胸に関すること以外でお願いします」
食い気味で言う星野。このキーワードを託したのはお前だぞ。
「じゃあ、君は最近夢見が悪くて困っている。これは誰にも話してないんだろ?」
「…、ええ、誰にも相談してませんでした。ここまで言い当てられると、信用せざるおえないですね…」
「お前、インチキ占い師とかに騙されやすいタイプだろ」
「信じてほしいのか信じてほしくないのかどっちなんだよ!」
と、少しおふざけもする余裕が出てきた頃、私たちは4階のフロアに続く階段を登り始めた。
4階の廊下を探していると、ある日と部屋のドアが少しだけ空いていた。最近のホテルはほとんどがオートロック、もちろん、このホテルも例外ではない。おそらく、自販機でジュースを飼うなど、ちょっとした用事で少し部屋を開けるときに鍵をわざわざ取り出すのがめんどくさく感じるズボラな人間が、スリッパなどをドアに挟んで外出しているのだろう。いや、挟まっているのは銀色に光ってる箱のようなもの…、ライターか。
「と、栂野さん、あ、あれ…」
すると、少しだけ私より前にいた星野がその少し開いた扉を指さして今にも泣き叫びそうなほどに、目に涙をたくさんためている。
「どうしたんですか?」
私がそのドアの方に視線を向ける。そして、星野の真横に移動しようと、少しずつ前進していく。すると、だんだんと見える部屋の中の位置が変わっていく。そして、星野の真横に来たときにはっきりと見えたそれは、ナイフが突き刺さった部分から赤黒い液体を流している男の死体であった。
「これでこのホテルの客は全員だな?」
端正な短髪にスーツを着たガタイのいい男が、私やほかの客に向かってそう放つ。
「はぁ…、集めても意味なんてないか。栂野、手首を出せ」
「なんで証拠も出ていないのに逮捕されなければならないんだ」
さっきから偉そうなこいつは阿久津浩平。私とは顔なじみの刑事だ。私が事件に関わるたびに逮捕しようとしてくる。私はただ、セーブデータをロードして事件現場に現れている善良で平凡な一般人だと言うのに。
「で、お前は今日もたまたま居合わせたという設定なのか?」
無論、阿久津には私のセーブ能力をまだ黙っている。警察なんて信用ならんからな。星野にはセーブ能力のことを明かしたが、口を割らないか心配だ。まさか本当に貧乳で信じるとは思っていなかった。
「設定ではない。たまたまだ。それに、今回はコイツもいるのになぜ疑うんですか」
私は星野を指さし、アリバイの一つだと示す。
「共犯者の可能性だってある。まあ、少し暗い捜査しないと俺の今後のキャリアに関わるからな」
これだから警察は信用できない。まあいい、私の無実を証明するためにも、捜査に協力してやろう。
今現在、このホテルに泊まっている客はオフシーズンということもあり、私と星野、後被害者の倉坂も含めて51人。スタッフは5人。そこから、完全にアリバイがある人や朝から外出していた人、私と星野を抜くと容疑者は8人に絞られた。1人は被害者が殺されていた部屋の真下に宿泊していた吉村、もう1人は被害者と同じ4階に宿泊している上田。12階に宿泊している浅田、7階に宿泊している田口、6階に宿泊している山口、清掃員の桑原、俺と星野をスタッフルームに連行したスタッフの武田、同じくスタッフの三村。
容疑者が多すぎる。まず、安直に考えると浅田、田口、山口は考えにくい。部屋がかなり離れているため、衝動犯だとしたらそんな遠くの部屋の客を狙うとは考えられない。故に昔から因縁を持っていなければわざわざ倉坂を殺す理由がない。それらを踏まえると、より疑いが強くなるのは他の5人である。
「タバコ吸っていいっすか」
そう申し出たのは上田だ。
「お客様、当ホテルは全館禁煙となっておりまして…」
「ちっ、何だよ」
上田はそう言って近くの椅子に座ると貧乏ゆすりをし始めた。
「なんか感じ悪いですねあの人」
どうやら星野はあの男を気に入っていないようだ。確かに私も同感だ。ほら、阿久津が胸ポケットからタバコを出そうとしてスッとしまった。俺は知り合いのタバコ好きが全員苦手だ。
「あの、刑事さん少しいいですか?」
そう申し出たのは倉坂の下の階に宿泊している吉村であった。
「一時に二度、上の階から変な音が聞こえてきて…」
「変な音?」
阿久津は吉村の証言をメモしながら聞き返した。
「はい、ドンッみたいな感じの音です」
私もさっとメモを取ると阿久津に話しかける。
「現場の部屋、見せてもらっても?」
「犯人は犯行現場に戻るとか言うしな」
犯人だと言われるのは心外だが、現場にはいれるなら文句は言わない。
改めて現場を見ると、新しい発見があった。私と星野が発見したときは扉が少し空いた隙間からしか現場が見えなかったが、今は完全に開かれたドアのおかげで視線を遮るものはないからだ。
まず、被害者はドアからベッドやテレビがある空間につながる短い通路に、足をドア側に向けて仰向けに倒れている。そして、被害者は右手に水が入った袋を持っており、壁に血しぶきが飛んだ様子はないが、ドアに向かって右側の通路の壁にほんの少しだけぽつんと血の跡がついていた。
被害者の部屋を離れ、エントランスに戻ると、客たちが言い争っていた。
「てめぇがやったんだろ!俺はこれから商談があるんだよ!早く自首しろや!」
浅田が桑原にそう怒鳴っている。桑原は少しおびえたように体を縮こませたりしている。
「やめろよみっともない」
山口が浅田をなだめようとしているが、浅田の苛立ちは高ぶっており、止まらない。
「お客様おやめください」
さすが私をタコ殴りにしていた星野をとめた武田。強く出ている。
「何だよマジで。タバコも吸えねぇし」
どうやら浅田も喫煙者のようだ。それにしては歯があまり黄色くないような気もするが、まあ少し我慢しててくれ。星野が口を開いた。
「あれ、このホテル各階にドリンクバーあるんですか?最高ですね!」
この状況でこんなに呑気なことが言ってられる星野は何者なのだろうか。
「皆さん、一度部屋に戻って休んでください」
阿久津が容疑者たちに言うと、それぞれ文句をたれながら部屋へ戻っていった。




