事件3-2 ミステリーサークル
部屋の中に吹き込む声。窓から外を覗くと、グラウンドでキャッチボールをしている野球部の気合の入ったフォームが真っ先に目につく。校舎の3階、決して広いとは言えないこの部屋に連れ込まれた私は、眼前に広がる景色と耳元を突く音に、どこかノスタルジーを感じてしまっていた。
「お待たせしました…。栂野さん、星野さん…」
と、そこに私と星野をこの部屋に連れてきた張本人2人が部屋に戻ってきた。
「とりあえず今日は校内を見て回るわよ。ついて来なさい!」
相変わらず横柄な態度をとる城ヶ崎にそれを注意することもせず、私は静かに立ち上がった。
校内は人がおらず、おそらく皆部活動に励んでいるのだろう。眼前に広がる廊下は、かなりきれいにされている。
「そういえば、星野もこの高校出身だったな」
「えっ!?あっ、はい!そうでしたね…」
「へ〜、あんたOBなのね」
「うん!懐かしい雰囲気〜。何も変わんないね」
「一応私たちが入学する前、大規模な改装工事があったんですけど…。やっぱり雰囲気は変わらないんですか…?」
「え!?あっ、うん!変わらないよ〜」
「OBの方たちの寄付のおかげで、かなり設備が増えたので感謝してます…」
そんな会話をしながら、廊下の先へ歩いていった。
一つ一つの部屋を覗いたり、入ってみたり。そうやって、ある廊下に差し掛かると城ヶ崎が立ち止まった。
「ここでよく幽霊が目撃されてるわ。ほら、このノートの写真と同じ場所よ」
黒澤が抱えていたノートを、城ヶ崎が腕から抜き取ると写真が貼り付けられたページを私たちに見せた。
「ほんとだ、ここですね」
星野が眼前の廊下と写真を見比べる。
「この先には何がある?」
「音楽室ともう使われてない科学室ね。ほら、廊下の突き当たりよ。音楽室は吹奏楽部が練習しててはいれないから、先に科学室の方案内するわね」
幽霊が頻繁に目撃されるこの廊下。その廊下に面した科学室と音楽室を、何か手がかりがあると疑うのは必然だろう。
科学室にはいると、何か刺激的な匂いが鼻を突く。その香りは、まったくもって不快であり、鼻腔から脳へ貫かれるような嫌な刺激臭だ。
「うっ…、実験でもしてたのか?」
「それはないはずよ。今科学室はどのクラスも、学年も使ってないから。先生がここで薬品の準備でもしてたんじゃない?」
にしても酷い匂いだ。黒澤が気を利かせて窓を明け放つ。
「ガンオイル…」
星野のつぶやき。今までの事件もつぶやきが私にひらめきを与えてくれた。ここは耳を傾けておこう。
「ガンオイルがどうした」
「え!?あ、あの、前に読んだ本にガンオイルは独特の化学臭がするって書いてあったので…」
だが、今回のつぶやきはおそらく手がかりにはならないであろう。ここは日本だ。修羅の国、北九州じゃあるまいし、そんなにおいするはずない。北九州なら、この部屋の隅に置かれたあの掃除用具入れを空けたら、RPGが入っているかもな。バカバカしく思いながら掃除用具入れに手を伸ばした。空き教室の掃除用具入れ、何も入ってないことがほぼ確実だろう。
ほら、なにもない。私の目線の先には、ほうきなどの背の高い用具はない。掃除用具入れにほうきがないなんてあり得ないだろう。であれば、ここには何もないのか。
「何よそれ」
城ヶ崎がこちらを見て言う。
「なにって、空っぽだろ?」
「足元見なさい」
私はゆっくりと足元に視線を落とす。
「これは…?」
そこには、綿棒の箱が3箱と一部がきり取られた布、そして段ボール。
膝をついて段ボールの蓋をゆっくりと開く。
「なんだこれ」
中には、CLPと書かれたスプレー缶のようなものと、緑の液体が入っているCarbonKillerと書かれた半透明の容器がそれぞれ2つずつ入っていた。どちらも、容器の裏に記入されてる説明文は英文で、日本のものではないことが分かる。
「掃除用具かしら。綿棒は謎だけどね」
城ヶ崎が段ボールをのぞき込む。
「たぶん強い洗剤だと思います…」
黒澤も城ヶ崎の後ろからぴょこっと頭を出してのぞき込む。
「何かあったんですか?」
星野がゆっくりと近づき、これまた段ボールの中を覗き込む。
「…っ!」
星野が目を見開く。
「どうした?」
「これ…、銃の整備用具です」
とりあえず、状況を整理しよう。この学校のある廊下では幽霊の目撃されることがある。その廊下に面した科学室には、独特の化学臭が立ち込めており、掃除用具入れには銃の整備に使う用具がしまわれている。と、私と星野2人きりの部室で一人頭を回転させる。その時、部室のドアが開く。
「ちょっと」
部室に顔をのぞかせた城ヶ崎が私たちに手招きをする。どうやら、場所を変えるらしい。




