事件3-1 青春事件
本日2度目のドアをノックする音に飽き飽きする。ついさっき面倒な人物が帰ったばかりだというのに、なぜここまで忙しいのか。せめて、もっと普通の探偵のような仕事をさせてくれ。
「はいは〜い、どうぞ!」
星野が元気いっぱいに事務所の扉を開ける。そこから事務所に入り込んできたのは、高校の制服を着た2人の女子生徒だった。
「あんたが栂野刻ね。単刀直入に言うわ。私たちに協力しなさい!」
そう声を発したのは、ツインテールの髪をくくった女子生徒。まさに、ツンデレを具現化したようなそいつは、私に指を差しながら、偉そうにふんぞり返っている。
やれ、これはまた別の面倒くささであろうか。刑事事件じゃないだけマシなのかもしれないが、遊びに突合されるのはごめんだ。
「ちょっとマキちゃん、言い方きついよ…」
そう控えめな声を上げるのは、先ほど私に協力しろと命令してきた女子高生の斜め後ろに立っているメガネをかけた控えめな女子生徒だ。ノートを大切そうに抱えており、私と目線が合うと、少し顔を伏せる。
「こっちは仕事でやっているので、遊びならお帰りください」
「あんたねぇ…!」
命令口調の女子生徒は、私の発言に腹を立てたように腰に手を当てる。
「マキちゃん、落ち着いて…。す、すみません、遊びじゃないんです…」
「栂野さん!一度お話聞いてみませんか?」
そう言った星野は両手に湯飲みを持っている。
パイプ椅子に腰掛けると、女子生徒2人も私の向かい側に腰掛ける。星野は私の隣に座り、ノートパソコンを開いた。
「私は城ヶ崎マキ、翠明館高校ミステリーサークルの部長よ」
「私は黒澤唯です…」
2人が自己紹介をする。ツンデレ少女は城ヶ崎マキ、メガネ少女は黒澤唯というらしい。それに、翠明館高校は都内一の進学校だ。なぜそんな高校の生徒が探偵事務所なんかに…?いや、そもそも高校生2人がどうしたら探偵に男の用事ができるのであろう。
「で、なぜこの事務所に?」
「あんた、この前の爆弾魔を捕まえた探偵らしいじゃない。それに、過去にも色んな事件を解決している天才探偵」
「なぜそれを知っている」
おかしい。たしかに、探偵が事件解決という報道はされていたが、新聞やメディアにもこの事務所の名前は出ていないはずだ。それに、これまでも名前が報道されたことないはず…。
「インターネットよ、インターネット。過去に探偵が解決したと言われている事件がこの神楽坂近辺に多かったの。だから、神楽坂付近の探偵事務所を調べ上げて、事件の日何をしていたかをSNSや事務所ホームページから探った。すると、この探偵事務所以外は事件があった日に休みだったり、他の活動をしていた。だから、あんたが色んな事件を解決しているという推理を私は立てた。どう?私の凄さ、思い知ったかしら?」
偉そうに椅子に腰掛け、その表情は自信に満ちあふれている。
「君たちの凄さは理解した。では本題だ。なぜ私のもとに来た」
こんな問いかけに、待ってましたと言わんばかりに城ヶ崎は黒澤が抱えていたノートを奪い取り、私に差し出す。
「今回あんたに依頼したいのは私たちへの協力。実は、最近私たちが通ってる翠明館高校で幽霊を見たなんていう噂が広まってるの。そして、その幽霊を見てしまった人は気が狂ってしまう、そんなことまで言われ始めてる始末よ。だから、調査に付き合ってほしい」
「拒否する」
「あんた…っ!」
「そりゃそうだろう。幽霊なんて非科学的なものの相手をする暇などない。それに、俺たち部外者がどうやって校内に入るんだ」
私がもっともらしく依頼を断ろうとした時、城ヶ崎はノートを指さした。
「実際に幽霊を目撃した生徒の発言をまとめた調書よ。あと、幽霊の写真も貼り付けてあるわ」
ノートを開くと、綺麗にまとめられたノートに城ヶ崎が生徒に質問した内容と生徒が城ヶ崎にした回答の内容が敷き詰められていた。
「その日、その生徒は訳あって下校時間が大幅に遅れてしまった。するとびっくり、こんなグロテスクな見た目の化け物が廊下を歩いていた」
城ヶ崎がノートの内容を要約するように言う。ノートに貼り付けられた写真には、人間の見た目を逸脱したグロテスクな化け物が写っていた。真っ黒な毛がびっしりと生えた胴体に手足が生えている。
「私だって、そんな非科学的なものは信じていないわ。でも実際、生徒の恐怖心をあおっている。なら、解決するしかないと思うの」
目を伏せる城ヶ崎。その声は真剣そのもので、これまでの偉そうな態度から考えられないほど、この事件を真面目に解決しようとしている姿勢を感じさせた。
「だが、私と星野が校内に入るのは…」
「それについては抜かりないです…。すでに、学校にはミステリーサークルの外部講師が来ると伝えてあります…」
「はぁ…、なら、わかりました。では最後に聞きますが、私も仕事としてやってますので、依頼料の方頂戴しますが?」
ここからは、彼女達もお客様だ。なら、貰うものをこっちも貰わないといけない。
「ふふ、あんた知らないの?私城ヶ崎マキはあの城ヶ崎家の令嬢なのよ?」
私と星野は首をかしげる。
「星野、聞いたことあるか?」
「さぁ…、聞いたことないです」
「なぁっ…!」
「マキちゃんは、昔から神楽坂一帯を治めていた名家のご令嬢さんなんです…。今はお父様とお母様が会社を経営していて、それなりに大きな会社なんですよ…」
「神楽坂に住んでるならそれぐらい知っておきなさい!」
私と星野は同時に「へ〜」と、声を上げるた。さて、お金も払ってくれるとなれば、その金額分は働かなければいけない。私は、引き出しから取り出す。ここでセーブすれば、詰むことはない。半ば願うように、セーブボタンをカチリと押し込んだ。




