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事件2-8 探偵諸君

 あの狭苦しい監禁部屋から、この身が解放された翌日。今日も私は探偵事務所に腰を据えている。星野には休んでいいと言ったのに、今日も私の眼の前で元気いっぱいにキーボードを叩いている。事務所のなかには、垂れ流されているニュースの音と星野が繰り出すキーボードのタイプ本が混ざり、適度な雑音になっており、それを意識せずとも聴きながら、私はコーヒーに口をつけた。

「昨夜逮捕された連続爆破事件の関係者と思われる男2人が、拘置所内で死亡しました。死因は心筋梗塞と見られており、警視庁は事件性はないとしております」

意識せずとも聴いていた雑音のなかに、そんな私の意識を引き寄せる内容が混ざった。

「こ、これって…」

星野が画面を凝視する。液晶に映し出されているのは、昨日一緒に監禁されていた坂下と、監禁部屋のモニター越しに偉そうに語りかけていたあの男そのものだった。

「やっぱり、逃げられないんだ…」

星野がポツリと呟く。そんな呟きの意図を辿ることもできないほどに、私の思考は停止している。


 コンコン、そんな間の抜けた音で、私の意識は現実に戻された。私がドアの方に視線を向けると同時に、顔をのぞかせたのは昨夜が初対面だったあの女刑事だった。

「栂野さん、昨夜ぶりですね」

相変わらず無愛想な表情と声を、事務所のなかに放つ。

「そうですね。どんなご要件で?」

「私、あなたに一目惚れしてしまいました」

さて、どうやら私のセーブ能力には頭痛と吐き気以外に耳がおかしくなる副作用があるらしい。だって、あんな無愛想な顔でそんなこと言うか?

「すみません、聞き間違いを起こしてしまいました。もう一度お願いします」

「一目惚れしてしました」

どうやら、聞き間違いではないらしい。てっきり、坂下のことを話に来たのだとばかり思っていたのだが。ほら見ろ、お前の後ろで星野がアワアワしてるぞ。

「えっと…、坂下のことで訪ねたのでは?」

「ええ、それもありますが、あなたに一目惚れしました」

「では、まずは仕事の話をしましょう」


 かつて星野の依頼を聞いた所定の位置で、私と女刑事は向き合う。

「改めまして、警視庁捜査一課の九条詩織です」

そう言って差し出された名刺を受け取る。

「でも、もうすぐ名字は栂野に変わるんですよね」

「あはは、ユニークな冗談ですね…」

苦笑いをして誤魔化す。お茶を持ってきた星野は、少し気まずそうに湯飲みを卓上に置き、九条と私の間にパソコンを広げ、パイプ椅子に腰掛ける。

「ところで、阿久津は…?」

と、私にしては珍しく控えめな問いかけをする。頼む、阿久津早く来てくれ。

「本日、阿久津は別件があり、かわりに私が出向きました」

何やってんだ阿久津。俺とお前の仲だろう?別件なんて他に任せてこっちに来てくれればいいじゃないか。

「さっそく、本題に入ります。拘置所内で坂下と大垣が死亡しました」

大垣…?ああ、あいつ大垣って言うのか。そういえば昨日、あいつの名前も知らずに事件を解決したんだったな。

「ええ、それが私に何の関係が?」

そうだ。そもそも、探偵は民間人だ。警察が探偵に事件の捜査を依頼なんてしないだろう。

「大垣についてです。警察署内の拘置所に身柄を置かれた大垣は、担当警察官にこのような証言をしたそうです」

すると、九条は卓上に差し出された書類の一部をペンで示す。

「我々のことを探っている探偵諸君。そして、ホテル君。君たちもいずれ粛清される。せいぜい足掻くことだな」

書類にはそう書かれていた。

「探偵諸君…?私以外にも誰かが探ってる…?」 「ええ、実際、女子高生探偵という名義で書かれた連続爆破事件の手がかりが書かれた手紙も、警察に届いたことがあります」

「そして、ホテル君とは…」

最近、私は確かにホテルで事件を解決したが、私のことなのだろうか?いや、あいつはそんなこと知らないはず。じゃあ、ホテル君とは…。

「恐らく、担当警察官が聞き間違えたのでしょう。それか、私と栂野さんでホテルに行けと…」

「要件はこれだけですか?」

九条の言葉を遮るように放つ。と、九条は静かに首を縦に振った。

「では、お引き取り願います。探偵も暇ではないので」

相変わらず無愛想な表情で立ち上がると、私に紙切れを手渡してきた。

「連絡してくださいね」

無愛想な声でそう発すると、九条はやっと事務所から出ていった


 と、普段ならお疲れ様でしたと声をかけてくる星野が、今はパソコンを見つめてぼーっとしてる。

「どうした星野?」

「えっ!?あっ、なんでもないです!あはは~…」

誤魔化すような笑顔を浮かべ、パソコンを閉じる星野。やはり昨日の疲れがまだのこっているのか?

「昼めし食べに行くか?」

「い、いえ!今あんまりお腹空いてなくて…」

少しうつむいて応える。その時、また事務所のドアがノックされた。どうやら、今日も面倒な日になるらしい。

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