事件2-6 落とし物タグ
「自分、嫁が助かったら自首します」
後ろへ流れてゆく景色に、坂下はポツリと呟いた。 タクシーが他の車の流れに合わせて前進していく中、車内の空気はきつく張り詰めていた。落とし物タグから発せられるGPSは、市内のとある雑居ビルから信号を発信している。
「ぜひそうしてください」
私は冷淡に返した。刑務所に入れば、恐らく二度と出てこられない。だが、そんな現実を突きつけるのはまだ早い。この事件はどうなろうと、ハッピーエンドになることはない。事件の遺族、Jack、坂下、真犯人…。誰もがバッドエンドを迎える。なら、少しでもマシなバッドエンドを見つける。それが私の仕事なのだから。
「着きましたよお客様」
運転手の声が終わる前に、私は財布から三万円の札束をダッシュボードスッと差し出し、釣りも受け取らずにドアを開けた。
「一応警察呼んできました!栂野さん、先に行きますよ!」
星野の言葉を聞き流し、私は懐中時計を掴む。 セーブボタンを押し込むと同時にカチリ、と重い金属音が響いた。もう、これ以降には戻ることができない。ボロボロの雑居ビルの階段を駆け上がった。
3階の、薄汚れた扉を静かに押し開ける。埃っぽい部屋の奥、ソファの上に、両手両足を縛られ猿ぐつわをつけられた女性が転がっていた。 生きている。私は駆け寄り、膝をついて縄を解こうとした。
「むぐ、むぐーっ!!」
女性の目が、恐怖に引き裂かれる。視線は、私の背後。
「後ろ!!」
振り返るとそこには、ナイフを振り上げる男の姿があった。




