事件2-1 依頼者
今日も私は事務所の椅子に重く腰掛ける。今日は朝からある人物のせいで疲れが溜まっている。
「コーヒー淹れましたよ〜」
そう言いながら私のデスクにコーヒーを置く彼女は、朝から私の耳元で大声を出しやがった。その元気は認めるが、少しは自重してほしい。
「そういえば栂野さん、栂野さんは懐中時計でセーブとロードをするんですよね?」
「ああ、こっちがセーブを上書きするボタンで、こっちがロードするボタンだ」
私は星野に古い見た目の懐中時計を見せながら説明する。
「セーブする方とロードする方法間違えないんですか?」
「間違えたことはないな。若干手触りが違うから」
「へ〜」
そんな何でもない雑談をしながら、私と星野は仕事をする。なぜかわからないが、頬が緩んだ。
「あれ?栂野さん、私の財布知りませんか?」
「知らないな」
私がそう答えると、星野はなにやらスマホをいじり始めた。すると、キッチンからピピピッという機械音が聞こえてきた。
「ありました〜」
そう言って笑顔でカバンに財布をしまう星野。
「さっき何をしたんだ?」
「ああ、さっきのですか?落とし物タグですよ!このタグが音を出したりGPSの代わりになったりしてくれるんです!」
そう言いながら、星野は黒いマグネットのような見た目のタグを私に見せてくれた。その時、雑居ビルの階段を駆け上がってくる足音が聞こえてきた。
「ここが栂野探偵事務所ですか!?」
いきなり勢いよく扉が空いたと思うと、焦った様子の男が事務所に飛び込んできた。
「わわっ!どうしたんですか!?」
星野がその男に駆け寄り、タグをポケットにしまうと、同じポケットからハンカチを出して手渡す。男は小さくお礼を言って額を拭うと、私にかけより、膝をついて手をあわせた。
「私を助けてください!」
どうやら、今回の依頼も面倒らしい。
最近世間を騒がせている爆弾魔。そいつは自分のことをjackと名乗り、犯行の前日に犯行予告をする。今まで数回の犯行が行われており、現場にいた民間人が死傷するこもあった。最初は河原で。次はある駐車場で。その次は空き家で。その次は公園で。その次は町中のある廃ビルにて。と、事件の規模が少しづつ大きくなっている。犯行予告があっても、場所は提示されず、民衆は予告があるとおびえるしかなかった。彼は、そんな爆弾魔の送迎やその他の手伝いを行う、助手のような存在なのだとか。
「俺、この前結婚して、きっぱりと悪いことから足を洗おうと思ったんです。だから、思い切ってアジトに置き手紙だけ置いて逃げたんです!でも今日…、Jackから電話があって、嫁が…、嫁が…!」
星野がそっと男にティーカップを差し出す。男はそれを少し飲むと、一息つく。
「落ち着きましたか?」
「は、はい…。すみません…」
男の話を要約すると、悪いことから足を洗い、妻とともに逃げたが妻が拉致され、とある場所に来ないと嫁を殺すと脅されているらしい。まったく、なぜ私の依頼者には刑事事件の解決を依頼してくる人が多いのだ。だが、今回のケースだといつものように、「警察に言ってください」という正論は通用しなさそうである。依頼者自身が犯罪者であること、そして警察に通報したことがバレたら、依頼者の妻も危害が加わる可能性がある。
「とある場所?」
星野が首を傾げる。
「はい、でも私は全く場所がわかんなくて…」
その瞬間、事務所の扉が開く音が聞こえるとともに覆面をつけた人物が現れ、私はセーブするために懐中時計のボタンを押す時間も、ロードするために懐中時計のボタンを押す時間もないまま、意識を手放した。




