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追放清掃係の復讐譚――魔王城に残された呪いは、全部俺の武器になった  作者: ビッグサム


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第5話 勇者の聖剣は、白いままではなかった

【聖剣照合開始】


【対象:勇者アレク】


【聖剣保持資格――】


 文字は、そこで止まった。


 偽聖堂跡の空気が凍る。


 白い祭壇。


 曇った聖印を抱いて膝をつくミリア。


 床に這いつくばったまま、剣に拒まれたガルド。


 そして、聖剣を握るアレク。


 その刃だけが、白く燃えていた。


 だが、その白さの奥に。


 黒い筋がある。


 細い。


 細いが、確かにある。


 血管のように、刃の中を走っている。


「……何だ、これは」


 ロギアが呟いた。


 声が低い。


 いつもの興味ではない。


 警戒だ。


「聖剣に、汚染反応……?」


「黙れ」


 アレクが言った。


 声が硬い。


「聖剣が汚れるはずがない」


 そう言い切った。


 けれど、彼の手は聖剣を握り直していた。


 滑りそうになったものを、無理やり掴み直すように。


 その瞬間、柄に刻まれた白い紋が、じり、と音を立てた。


 アレクの掌から、薄い煙が上がる。


「……っ」


 ほんの一瞬。


 アレクの顔が歪んだ。


 だが、すぐに歯を食いしばる。


 痛みをなかったことにする顔。


 英雄が傷ついたところを、誰にも見せまいとする顔。


 俺はそれを見ていた。


 聖剣。


 王国神殿が授けた、勇者の証。


 人類の希望。


 魔王を討つための白い刃。


 そう呼ばれてきたもの。


 その刃の根元に、黒い汚れが溜まっている。


 血ではない。


 呪いでもない。


 もっと嫌なものだ。


 誓約。


 契約。


 封印。


 そして、嘘。


 黒雑巾が、俺の手の中で震えた。


 喰いたがっている。


 だが、まだだ。


 ここで全部剥がすには早い。


 勇者アレクの皮は、もっと厚い。


 白い英雄の顔を、いきなり全部拭い取るより、少しずつ汚れを浮かせた方が効く。


「アレク」


 俺は言った。


「その剣、本当にお前のものか」


 アレクの目が細くなる。


「何を言っている」


「握っているだけじゃないのか」


 空気が重くなった。


 ミリアが顔を上げる。


 ガルドも、痛みで歪んだ顔のままアレクを見た。


 ロギアは黙っている。


 聞いている。


 逃さず、全部。


「俺は勇者だ」


 アレクが言った。


「聖剣に選ばれた。王国神殿が認めた。国王も、民も、俺を英雄と呼んだ」


「へえ」


 俺は笑った。


「随分と他人の名前が出るな」


「何?」


「神殿が認めた。国王が認めた。民が呼んだ」


 黒雑巾が床を這う。


 偽聖堂跡の黒い染みが、聖剣の光に反応してざわめいた。


「お前自身は、何をした」


 アレクの顔が変わった。


 怒り。


 屈辱。


 ほんの少しの焦り。


「俺は魔王を討った!」


「俺が掃除した道を歩いてな」


「黙れ!」


 聖剣が振り下ろされた。


 速い。


 白い光が、偽聖堂跡を裂く。


 さすが勇者。


 剣筋だけなら、ガルドより鋭い。


 迷いがない。


 自分が正しいと信じている人間の刃だ。


 俺は避けなかった。


 黒雑巾を前へ出す。


 布が広がる。


 薄い黒布。


 聖剣の白光がぶつかった瞬間、耳の奥で、悲鳴みたいな音が鳴った。


 じゅう、と布が焼ける。


 黒雑巾の表面から煙が上がる。


 聖剣の光は、確かに強い。


 表層を白く見せるミリアの光とは違う。


 切るための光。


 断つための光。


 魔王を殺すために作られた光。


 だからこそ、黒い。


 そこに混じっている。


 殺したものの血が。


 選ばれなかった者の怨念が。


 勇者という名前の裏に捨てられた誰かの声が。


「ぐ……っ」


 俺の腕が痺れた。


 押される。


 床の黒い血がざわめく。


 魔王城の結界が俺を支えようとした。


 だが、俺はそれを止めた。


 今は、城に防がせる場面じゃない。


 俺が受ける。


 俺の手で。


 黒雑巾が、聖剣の刃に触れる。


 布の端が白い光の隙間へ入り込んだ。


 拭う。


 刃の表面を、ほんの一筋だけ。


 その瞬間。


 聖剣が鳴いた。


 金属音じゃない。


 獣の悲鳴でもない。


 子供が息を殺して泣くような、細い音だった。


「……っ!」


 アレクが剣を引いた。


 腕が震えている。


 本人の意思ではない。


 聖剣の方が震えていた。


「何をした!」


「少し拭いただけだ」


「触るな!」


 アレクが叫ぶ。


 その顔に、初めて恐怖が浮かんだ。


 俺に対する恐怖ではない。


 聖剣の内側に何かがあると、気づきかけた恐怖だ。


 床に文字が滲む。


【聖剣表層照合】


【保持者:アレク】


【適合率:表示不能】


【記録封鎖:王国神殿】


 ロギアの息が止まった。


「記録封鎖……?」


 彼は眼鏡の奥で目を細める。


「聖剣の保持資格に、神殿側の封鎖がかかっているのか」


「ロギア」


 アレクの声が低くなる。


「それ以上喋るな」


「だが、これは――」


「喋るなと言った!」


 怒鳴り声が聖堂に響いた。


 ロギアは口を閉じた。


 だが、その目は閉じていない。


 見た。


 聞いた。


 覚えた。


 あの男は危険だ。


 やはり、一番厄介なのはロギアだ。


 アレクは聖剣を両手で握った。


 刃の黒筋が、さっきより濃くなっている。


 柄がまた、じり、と鳴った。


 掌の皮が焼ける匂い。


 アレクは顔をしかめたが、手を離さない。


 離せない。


 聖剣を手放した瞬間、自分が勇者ではなくなるとでも思っているのだろう。


「貴様の呪いだ」


 彼は俺を睨む。


「清掃係。お前が魔王城の呪いに取り込まれて、聖剣を穢している」


「そう思いたいなら、そう思え」


「俺は勇者だ」


 アレクは自分に言い聞かせるように言った。


「俺は選ばれた。俺が魔王を討った。俺が世界を救った」


「言葉が増えたな」


「黙れ!」


 また踏み込んでくる。


 今度はさっきより速い。


 怒りで雑になっているが、力は増していた。


 聖剣の光が膨れ上がる。


 偽聖堂跡の壁が白く焼ける。


 黒い血が蒸発する。


 ミリアの表層浄化とは違う。


 アレクの聖剣は本物の力を持っている。


 だから、余計に腹が立つ。


 こいつは本当に力を持っていた。


 なら。


 なおさら許せない。


 その力で仲間を守ることもできた。


 俺を切り捨てる前に、俺が何をしていたか見ることもできた。


 それなのに、こいつは見なかった。


 見たくなかったからだ。


「死ね、レイヴ!」


 初めて、アレクが俺の名前を呼んだ。


 殺す時に。


 奪う時に。


 消す時に。


 こいつらは、ようやく俺の名前を思い出す。


 聖剣が迫る。


 俺は黒雑巾を床へ叩きつけた。


 黒い血が弾ける。


 偽聖堂跡の床に眠っていた残留呪詛が、細い鎖になって立ち上がる。


 白い刃と黒い鎖がぶつかった。


 鎖が焼ける。


 一本。


 二本。


 三本。


 聖剣が進む。


 俺の頬を光が掠めた。


 皮膚が焼ける。


 血が流れる。


 痛い。


 だが、まだ浅い。


 黒雑巾がその血を吸った。


 俺の血だ。


 背中を刺された時の血とは違う。


 今度は、俺が選んで流した血だ。


 黒雑巾が脈打つ。


 聖剣の光に焼かれた俺の血が、黒い刃のように変わる。


 布の端が硬くなる。


 鋭く。


 薄く。


 汚れを削る刃へ。


 俺はそれを振った。


 聖剣の側面を叩く。


 刃を折るほどの力はない。


 だが、白い光の表面が剥がれた。


 そこから、黒い文字が一瞬だけ浮いた。


【候補者番号――】


 すぐに消える。


 ロギアの目が動いた。


 見たな。


 アレクは見ていない。


 怒りで視界が狭くなっている。


「候補者番号……?」


 ロギアが小さく呟いた。


 アレクは振り向かない。


 だが俺には聞こえた。


 候補者。


 勇者ではなく。


 候補者。


 それだけで、十分だった。


 白い勇者の名の裏に、番号で呼ばれた誰かがいる。


 名前を消された誰かがいる。


 俺と同じように。


 いや。


 俺より前から。


「アレク」


 俺は言った。


「お前、本当に最初から勇者だったのか」


「何を……」


「他にもいたんじゃないのか」


 聖剣が震えた。


 アレクの手ではなく、刃そのものが。


 床に、黒い血が薄く文字を作りかける。


【候補者――】


 すぐに、白い光がそれを焼き消した。


 アレクがやったのではない。


 もっと外側。


 聖剣に仕込まれた封印が、勝手に発動した。


 ロギアの顔色が、はっきり変わった。


「神殿封印か……」


「ロギア!」


 アレクが怒鳴る。


「黙れ」


 ロギアは今度こそ黙った。


 だが、もう遅い。


 疑いは生まれた。


 アレクの中にも。


 ミリアの中にも。


 ガルドの中にも。


 そして、俺の中にも。


「違う」


 アレクが言った。


「違う違う違う違う。俺は勇者だ。俺が選ばれた。俺が魔王を討った。神殿も、国王も、民も、全員が認めた」


「認めさせたんじゃないのか」


「黙れ!」


 アレクは聖剣を掲げた。


 白い光が、偽聖堂跡の天井まで伸びる。


 力だけなら、やはり強い。


 この場にいる全員をまとめて焼くこともできるかもしれない。


 ミリアが悲鳴を上げる。


「アレク、待って! ここでそんな力を使ったら――」


「黙っていろ!」


 アレクはミリアに怒鳴った。


 聖女を守る顔は、もう剥がれていた。


 そこにいるのは、自分の英雄譚を壊されそうになっている男だ。


 ガルドが床で呻く。


「巻き込む気かよ……!」


「役に立て、ガルド」


 アレクは見なかった。


「勇者パーティだろう」


 ガルドの顔が歪んだ。


 怒りと屈辱が混じる。


 今の一言で、また少し崩れた。


 仲間ではない。


 道具。


 こいつの中で、全員がそうなのだ。


 俺も、ミリアも、ガルドも。


 ロギアでさえ。


「いい顔だな、アレク」


 俺は言った。


「やっと勇者らしくなくなってきた」


「殺す」


 アレクの声が低く沈む。


「今度こそ、殺してやる」


「そうか」


 俺は黒雑巾を構えた。


「やってみろ」


 白い光が落ちる。


 聖剣の一撃。


 避ければ、背後のミリアごと焼ける。


 ガルドも巻き込まれる。


 ロギアもただでは済まない。


 アレクは分かっている。


 それでも振り下ろした。


 仲間を守る一撃じゃない。


 邪魔なものをまとめて消す一撃だ。


 だから、汚れている。


 俺にとっては、扱いやすい。


「魔王城」


 俺は低く呼んだ。


 床が鳴る。


 偽聖堂跡の白い床が、黒く割れる。


 その下から、古い清掃用具がせり上がった。


 地下廃棄層で見たものだ。


 折れた柄。


 錆びた金具。


 呪いを吸いすぎて黒くなった繊維。


 歴代の誰かが使った、処理具の残骸。


 魔王城の汚れを、何代も吸わされてきた道具。


 その中から一本、黒い柄が俺の手元へ飛んでくる。


 モップの柄だ。


 先端には、血と呪いを吸った黒い房。


 黒雑巾がそれに絡みつく。


 布が巻きつき、房が膨らむ。


 ただのモップではない。


 広くこびりついた呪いを、まとめて拭い取るための道具。


 俺はそれを握った。


【清掃具連結】


【黒モップ:仮解放】


 視界に短く文字が滲む。


 それだけで十分だった。


 俺は黒モップを振り上げる。


 聖剣の白光を、真正面から受けた。


 衝撃。


 腕が軋む。


 膝が沈む。


 床が割れる。


 だが、黒モップの房が白い光を吸う。


 光の表面にまとわりついた汚れを拭い取り、呪いごと絡め取る。


 完全には消せない。


 聖剣はまだ強い。


 だが、軌道をずらせる。


 白い光は俺の横を逸れ、偽聖堂跡の壁を斬った。


 壁が裂ける。


 その奥に、白い石棺が一つ見えた。


 小さな石棺だ。


 蓋には、王国神殿の紋章。


 そして、その下に黒く削れた文字がある。


 読めるのは、ほんの一部だけ。


【勇者候補者 第七号】


【記録抹消】


【王国神殿封鎖】


 空気が止まった。


 アレクの聖剣の光が揺らぐ。


 ミリアが口を押さえる。


 ガルドが息を呑む。


 ロギアが、初めてはっきりと動揺した。


「……勇者候補者?」


 俺は壁の裂け目を見た。


 白い石棺。


 神殿の紋章。


 勇者候補者。


 記録抹消。


 嫌な言葉だ。


 墓ではない。


 慰霊でもない。


 名前もない。


 第七号。


 人を物みたいに扱う呼び方。


「見るな」


 アレクが言った。


 小さい声だった。


「見るな……!」


 今度は命令ではない。


 懇願に近かった。


 だが、遅い。


 壁の裂け目から、黒い血が石棺へ伸びる。


 蓋の上の埃を拭う。


 文字が、もう一度だけ浮かび上がる。


【勇者候補者 第七号】


【記録抹消】


 それ以上は見えない。


 王国神殿の紋章が赤黒く光り、黒い封印が文字を焼いた。


 ロギアが低く息を吐く。


「神殿の秘匿記録……。しかも、候補者を番号で管理していたのか」


「嘘よ……」


 ミリアが呟く。


 だが、その声には力がない。


 彼女はもう、何が嘘で何が本当か分からなくなっている。


 ガルドは青ざめていた。


「何だよ、候補者って……アレク、お前、知ってたのか」


 アレクは答えない。


 聖剣を握りしめる。


 強く。


 強く。


 手のひらから血が滲むほどに。


 聖剣の柄が、その血を弾いた。


 ぽたり、と床に落ちる。


 勇者の血を、聖剣が受け取らなかった。


 アレクの顔が凍った。


「……なぜだ」


 小さな声だった。


「なぜ、俺の血を拒む」


 誰も答えなかった。


 答えは、黒い床の上にある。


 アレクの血が、黒い染みになって広がっていく。


 黒雑巾が、その血に反応した。


 アレクの手から流れた血。


 聖剣に触れ、拒まれた血。


 そこに、ほんの少しだけ記憶が浮かぶ。


 白い部屋。


 王国神殿。


 並ぶ子供たち。


 聖剣に触れる手。


 悲鳴。


 焼けた腕。


 誰かが倒れる音。


 そして、幼いアレクの顔。


 怯えている。


 今よりずっと幼い。


 剣を握らされている。


 神官の声。


 ――この子を勇者にする。


 ――記録を整えろ。


 そこで記憶が途切れた。


 封印に弾かれた。


 頭に鈍い痛みが走る。


 深く覗こうとすれば、神殿の封印が俺の脳を焼きに来る。


 まだ早い。


 ここで全部見るな。


 そういうことか。


 俺は舌打ちした。


「なるほどな」


 アレクが俺を睨む。


「何を見た」


「全部じゃない」


「答えろ!」


「まだ汚れが厚すぎる」


 俺は黒雑巾を見た。


 布は、アレクの血を吸って震えている。


「でも一つ分かった」


「何がだ」


「お前は、選ばれたんじゃない」


 アレクの目が開く。


「選ばれたことにされた」


 偽聖堂跡に、沈黙が落ちた。


 アレクの顔が、怒りで歪む。


 いや。


 怒りだけじゃない。


 恐怖。


 否定。


 そして、どうしようもない空白。


 自分の足元が崩れた人間の顔。


「黙れ……」


「魔王城を攻略したと思っていた」


「黙れ」


「魔王を討ったと思っていた」


「黙れ!」


「勇者に選ばれたと思っていた」


「黙れえええ!」


 アレクが聖剣を振るった。


 だが、刃が揺れた。


 狙いが甘い。


 俺は黒モップで受け流す。


 白い光が床を裂く。


 その裂け目の奥で、石棺の白い蓋が一瞬だけ見えた。


 アレクはそれを見て、さらに顔を歪める。


 見たくないものが増えていく。


 どれだけ斬っても。


 どれだけ光らせても。


 汚れは、白い床の下から浮かんでくる。


「やめろ……」


 アレクが呟いた。


「俺の勝利を、汚すな」


「元から汚れてる」


 俺は言った。


「俺は、それを拭いて見えるようにしてるだけだ」


 アレクが肩で息をしている。


 聖剣の白光はまだ強い。


 だが、黒い筋も濃くなった。


 刃の奥で何かがうめいている。


 候補者か。


 聖剣そのものか。


 それとも、神殿に閉じ込められた記録か。


 まだ分からない。


 でも、掃除すればいずれ分かる。


 俺は黒モップを床に立てた。


「今日はここまでだ」


「逃げるのか」


 アレクが言った。


 強がりだ。


 声が割れている。


「逃げる?」


 俺は笑った。


「ここは俺の城だ」


 偽聖堂跡の壁が鳴る。


 黒い血が石棺を覆い、再び奥へ沈めていく。


 情報を隠すためではない。


 腐ったものを、次に掃除しやすいように封じ直すためだ。


「お前たちを逃がさないために、掃除の順番を決めているだけだ」


 ガルドは腕を押さえている。


 ミリアは曇った聖印を抱えて膝をついている。


 アレクは聖剣を握りしめ、視線を壁の裂け目から逸らしている。


 ロギアだけが、沈んでいく石棺を最後まで見ていた。


「ロギア」


 俺は呼んだ。


 彼の目がこちらへ向く。


「見えたな」


「……少しだけな」


「賢者なら、考えろ」


 俺は黒雑巾を揺らした。


「お前たちが信じてきた勇者制度が、どれだけ汚れているか」


 ロギアは答えない。


 だが、その沈黙は、否定ではなかった。


 アレクが怒鳴る。


「ロギア! 余計なことを考えるな!」


 ロギアはゆっくりとアレクを見た。


 そして、小さく言った。


「それは無理だ」


 その瞬間。


 勇者パーティの中に、初めてはっきりと亀裂が入った。


 アレクの顔が固まる。


 ミリアが息を呑む。


 ガルドが床の上で低く笑った。


 自分も崩されたくせに、他人の亀裂は笑えるらしい。


 どいつもこいつも、汚れている。


 だが、その汚れがある限り。


 俺は強くなる。


 偽聖堂跡の奥で、何かがさらに目を覚ました。


 床に、細い文字が浮かぶ。


【封印深度:第三層】


【管理者権限不足】


【追加権限取得条件:聖剣汚染の一部清掃】


 俺はその文字を見た。


 まだ足りない。


 だが、道は見えた。


 アレクの聖剣を掃除すれば、さらに奥が開く。


 そこには、勇者制度の汚れが眠っている。


 王国神殿が、白い布をかぶせて隠したものが。


「アレク」


 俺は言った。


「大事に握っておけよ、その剣」


 聖剣が、黒く小さく鳴った。


「次に拭く時は、もっと奥まで届く」



---


現在のステータス


名前レイヴ・クロウリー

立場元・勇者パーティ清掃係/魔王城新管理者

スキル《穢れ喰い》

装備《黒雑巾》/《黒モップ:仮解放》

支配権限魔王城の地下廃棄層・宝物庫前結界・血紋罠・封鎖扉・偽聖堂跡・残留呪詛再現の一部

復讐対象勇者アレク、聖女ミリア、剣聖ガルド、賢者ロギア、王国神殿

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