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第4話 城塞都市

「で、でかいな……」


 眼前に高さ数十メートルにもなる巨大な石の城壁が(そび)え立つ。城門には警備の騎士が数人待機していて、その様はまさに鉄壁の要塞だ。


 城塞都市(じょうさいとし)デレツィア。

 都市国家デレツィアの首都にして、世界最大の城塞都市だ。

 俺も来るのは初めてだったから、思わず圧倒されてしまった。城壁の大きさもそうだが、何より城壁全体から放たれる強力な魔力に息を呑んだ。ただの石造りの造物とは思えない仰々しいオーラ。城壁には何らかの細工が施されているのだろう。


「今日はどのような御用で?」

「冒険者ギルドの依頼で、リンゴを届けに来ました」


 ギルドからの依頼書を騎士に手渡す。騎士は神妙な面持ちで、紙面を吟味する。


「わかりました。冒険者ギルドの方ですね。ブレイド・ライデンシャフトさん。魔剣士。依頼内容はリンゴ百キロの運搬ですね」


 騎士たちは依頼書を確認し終えると、今度は積荷の確認とボディチェックを行う。


「積荷に異常はありません!」

「……ふむ。それはギルドに登録されている剣ですね?」 


 俺が腰に携えていた剣を指差した。くすんだ銀色の刃先を持ったロングソードだ。無数の細かい傷が走り、刃こぼれも所々にある。冒険者ギルドに入ってしばらく経ってから買った剣だ。勿論、日雇い冒険者でも買えるくらいの安物。炎魔法を使うたびに劣化が進んでいる。


「ギルド登録の銃砲刀剣類の持ち込みは認めますが、城内においてはくれぐれも抜剣しないよう、お願いします」 

「わかりました」


 都市国家デレツィアは、西方諸国の中でも最も治安維持に力を入れていると言われており、誉れ高きデレツィア騎士団が治安維持に当たっている。

 とりわけ、その中枢たる城塞都市デレツィアは、城門における徹底的な入城検査、城内における厳重な監視・警備体制、騎士団の近代化により、その治安の良さは世界一とも言われている。

 国籍なし、住所不定(テント暮らし)の俺みたいな奴が入れるのか心配だったが、冒険者ギルドの依頼書の信用は案外高いようだ。


「緊張したな……」

 

 ここの騎士団に一度目をつけられると、城外に出ることは不可能という(いわ)くもある。なるべく問題を起こさないようにしないと……。また牢獄暮らしにでもなったら(たま)ったもんじゃない。


 荷車を押して城門をくぐる。すると、真っ直ぐに伸びる大通りに、赤い屋根が印象的な石造りの建物が整然と建ち並んでいる。


「噂には聞いていたが、これはすごいな」


 驚きのあまり、声が漏れた。

 大通りには、馬車や自動車が行き交っている。自動車はメアシスたちが魔王を討伐した数年前に西方諸国の南にある共和国で開発されたものだ。魔王討伐と合わせ、人類の繁栄の象徴として上流階級を中心に急速に普及したが、こんなに多く走っているのは見たことがない。それに道も自動車が走りやすいよう、平らに整形された石が敷き詰められている。

 通りの両脇には露店が立ち並び、街は活気に包まれている。城塞都市であるから、その経済基盤は商業なのだろう。


「デレツィアの西三番通り十六……」


 円形の城塞都市の内部には、城門へと続く十字の大通りを軸として、格子状に中規模の通りが縦横に整然と配置されている。

 各所に設置されている地図を見ながら、目的地へと歩みを進める。そして、デレツィアに入ってから約二時間後、目的地へと到着した。

 中規模の通りは整然としているものの、それらに区画される大きな四角形の土地の中は小道や路地が迷路のように雑然と巡っていて、そこからが中々(なかなか)大変だった。


「ここか……」

 

 少し古びているが、石造の大きな家だ。


「御免下さい。ご依頼品のリンゴをお届けに参りました」


 重厚な木製の扉がゆっくりと開く。


「おや、予想よりも随分と早いな」


 出てきたのは、エルフの女性だった。先端が尖った細長い耳に、黄金色の艷やかな髪、少しタレ気味の美しい碧眼(へきがん)。まさに典型的なエルフの容貌をしている。

 

「イゼルダさんですか?」

「そうだ。……頼んでいたリンゴか? ありがとう」


 俺はイゼルダさんに依頼書を渡し、サインをして貰った。 


「これ、どこに運べばいいですか?」


 俺が荷車から降ろしたリンゴをどこへ運ぶべきかを尋ねると、イゼルダさんは少し驚いたような顔をした。


「いいのか?」

「え? あ、はい」 

「そうか、それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうとしよう。リンゴの箱は全部、玄関の隣の倉庫に入れてくれるか?」 

「わかりました」 

「ああ、でも一箱は台所へ持ってきてもらえるか?」

「了解です」


 石造りの外見とはうって変わって、室内は木を基調とした造りとなっている。深い褐色になった木材からは趣が感じられる。

 倉庫にリンゴの箱を入れ、それから残った一箱を台所へと持っていった。すると、そのままダイニングの席へ座るよう促された。


「いや、そんな厄介になる訳には」

「いや、いいんだ。少し休んでいくといい。それに自分が頑張って運んできたリンゴの味を知りたくはないか?」


 否定はできなかった。あんな量を買うべきものなのか知りたい気持ちがあった。俺はイゼルダさんに言われるがまま、席に着いた。 

 奥の方にある暖炉の炎はパチパチと音をたてながら、柔らかな橙色(だいだいいろ)の光を放ち、部屋中にゆらゆらと揺れる明かりを広げている。


「どこの出身だ?」


 キッチンの方でイゼルダさんはコーヒー豆を火にかけながら、そう尋ねた。


「ルクスリア王国です」

「ルクスリアか。あの国は今や大国になったものだな。デレツィアなんて目じゃないだろ?」

「いや、驚きましたよ。自動車があんなに走ってるのは見たことなかったので」

「そうなのか? あっちに住む旧友の話では勇者が国王になってから、だいぶ変わったと聞いたんだが……」


 メアシスは俺が永世国外追放となった翌年、王位を譲られ、国王となった。だが、噂話で聞いただけで詳しいことは知らない。その頃の俺は、職がなく、主に森の中でサバイバル生活を送っていたからだ。


「はは……しばらく王国へは帰ってないので……」

「そういえば、そうだな。何で西方諸国のギルドで冒険者なんてやっているんだ? 王国の方が職は多いだろう?」


 俺はその問いに言葉を詰まらせた。王国から国外追放されたと言えば、イゼルダさんは恐怖して『犯罪者は出ていけ』と言われてしまうかもしれない。だが、俺みたいな()()()()日雇い冒険者にも親切にしてくれるような人に嘘をつきたくはないし、隠すのは何か道義に反する気がする。

 

「色々あって、今は王国には……その……入国禁止となってて……その……国籍もないんです」


 緊張で、言葉が辿々(たどたど)しくなる。拒絶されるかもしれないという恐怖が、冷たい(あせ)となって背中を伝った。

 

「ふっ、ははははっ。確か、王国には永世国外追放という国事犯にだけ適応される処罰があったな。青年、一体何をした? 若気の至りで革命でも起こそうとしたのか?」


 しかし、イゼルダさんは、ぷっと吹き出して笑った。意外な反応だった。


「違いますよ!」


 拒絶されなかったことが嬉しかったのか、イゼルダさんの冗談を真に受けたのか、少し大きな声が出た。


「そうか。じゃあ、何をしたと言うんだ?」

「……魔族との密通を疑われてしまったんです」 

「魔族との密通? お前がか?」


 イゼルダさんは軽やかな声を抑え、いぶかしげな顔をする。

  

「はい……」 

「お前がそんなことするようには見えないな。それに、魔族が人間と手を結ぶというのも信じがたい」 

「ええ、俺は全く心当たりがなくて……でも、誰も信じちゃくれませんでしたから……」


 それから俺は自身が投獄されたこと、裁判に掛けられ永世国外追放になったことを話した。


「そうか。だが、国籍がないんじゃあ、色々と苦労するだろう?」

「ええ。定職にもつけませんから、こうやって冒険者としてその日暮らしをしているんです」

「そうか……」


 イゼルダさんは木箱の中から、真っ赤に熟したリンゴを1個選んで取り出し、その皮を()き始めた。


「まあ、いい。それなら色々と疲れているだろう? 少しここでゆっくりしていくといい」

「すいません……色々と世話を焼いていただいて」


 やっぱりイゼルダさんに嘘をつかなくてよかった。そう深く感じながら、俺はダイニングテーブルからキッチンの彼女を見る。

 イゼルダさんは目を細めながら、慎重(しんちょう)に皮を剥いている。目が悪いのか……? いや、だが眼鏡は掛けていない。

 とてもやり(づら)そうだ。手伝うべきだろうか?


「ッ!」


 その刹那、イゼルダさんは手に持っていた包丁で指を切った。

 小さな声と同時に、イゼルダさんの左手の親指から血が滴る。どうやら、本当に目が悪いようだ。


「大丈夫ですか!?」

 

 しまった……下手に迷わず、最初から手伝っておけばよかった。


「ちょっと切れただけだ。……老眼だな。いくらエルフとはいえ、長いこと生きてると体にガタが出る。いつもは老眼鏡を掛けるんだが、生憎(あいにく)二日前に壊してしまってな。修理に出しているが、あと三日くらいは掛かりそうだ」


 イゼルダさんはぴょこっと出した舌に親指を当てながら、恥ずかしそうに微笑んだ。


「俺がやります」

「……できるのか?」

「ええ」


 イゼルダさんに代わって、包丁を手に取る。包丁を握った瞬間、刃の重みとバランスが手に馴染む。

 リンゴを指で固定し、呼吸を整えて一息。刃先を滑らせると、皮がスルスルと一本の帯になって落ちていく。


「よし、上手くできた」


 最後の一削ぎを終えると、包丁を止めた。


「驚いた。とても器用なんだな」

「剣士ですから。剣も包丁も同じですよ」

「色んな意味で同じではないと思うが……ありがとう。感謝する」

「これも剥いておきますか?」


 台所に置いたリンゴの箱を指して言うと、イゼルダさんは目を大きくする。小さな口元がほんの少しだけ(ほころ)ぶ。


「……そうだな。ちょうど、隣人や友人に渡す用のリンゴパイを明日作ろうと思っていたところなんだ。保冷庫に入れておけば数日は()つ。……頼んでもいいか?」

「勿論です」

 

 それから、俺は半ば無我夢中になりながら、ひたすらにリンゴの皮を剥いた。

カクヨムの方で色々と手間取り、こちらへの投稿が大幅に遅れました。申し訳ありません。

リンゴを100㎏の依頼をしたイゼルダさん。一体彼女は何者なのでしょうか?


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