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第3話 苦悩の日々

 魔族との密通(みっつう)を疑われてから数ヶ月の時が流れた。俺は薄暗い地下牢に収監され、裁判の日を待っていた。

 王国は、数ある王国勇者隊の中でも有力視されていたメアシス勇者隊から内通者が出たという事実を公表すれば、国の勇者援助政策への不信感が増長(ぞうちょう)し、国内不安が生じるだろうことを懸念(けねん)し、俺の裁判を先延ばしにした。


 食事は一日に二度、堅いパンと味の(ほとん)どないスープのみ。殺さず、生かさずというような環境でひたすら耐え抜く日々が続いた。


 俺は獄中(ごくちゅう)でも、事あるごとに自らの無実とリーネの謀略(ぼうりゃく)について必死に訴えた。


「俺は魔族と通じてなんかいない!」

「メアシスとアネットが危ない! このままではリーネに殺されてしまうかもしれない!」

 

 そう、必死に叫び続けた……。リーネとあの魔族……ネクロマンサーにどんな繋がりがあるのかは知らないが、両者が手を結んで俺を(おとしい)れたのは、俺からすれば最早(もはや)明白だった。このままでは、メアシスも、アネットも、人類すらも危険にさらされてしまうかもしれない。だから、必死に訴えた。

  

 それなのに――


「おい! 大変だぞ!」


 俺が投獄されてから一年近くの日々が過ぎた頃、看守(かんしゅ)の一人が大声を出して俺の収監されている地下牢獄のところまで走ってきた。


「おい、どうした? お前も警備中だろ? 持ち場に戻れよ」

「そんなこと言ってる場合じゃないぞ! これ、見ろよ!」

「新聞か? ……『メアシス勇者隊、(つい)に魔王を討伐(とうばつ)す』。おお!! メアシス様が遂にやったのか!」

「ああ、これであの忌々(いまいま)しい魔族や魔物どもは総崩(そうくず)れだ!! 俺たち人類が勝利したんだ!」

「これでメアシス様は本当の『勇者』になったな!!」

「ああ。他にも有力なのはいくつかいたが、やっぱりメアシス勇者隊がやり遂げたな!」

「こりゃあ、メアシス勇者隊の面々も大出世だぞ」


 俺が冤罪(えんざい)により勇者隊を追放された翌年、メアシス率いる勇者隊は誰も予想しなかったほどの快進撃で魔王を討伐した。


「へっ。何がリーネ様が魔族と手を組んでるだ」

「この嘘つきが。やっぱりお前が魔族と手を結んでたんじゃないか!」


 その知らせは、リーネが魔族と手を組んでいるという、これまでの俺の訴えを一瞬にして(ちり)に変えた。

 そして、それは同時にメアシスが操られているという可能性がなくなったことも意味していた。

 

 あいつは変わってしまった。俺の『勇者』はもういなくなってしまったんだ。

 底しれぬ絶望感と喪失感で、しばらく(わず)かな食事すらも(のど)を通らなくなった。

 それからのことはほとんど覚えていない。余りのショックに記憶する気力すらも失っていたのかもしれない。



  

 ――そして、魔王討伐が報じられた一ヶ月後。


「ブレイド・ライデンシャフトを永世国外追放とする」


 俺の"罪"に対する非公開裁判が開かれ、俺は『永世国外追放』を言い渡された。当然、俺に弁明(べんめい)の時間が与えられるはずもなく、判決が出される直前になって王立法廷に呼び出された。俺が聞いたのは、断罪を告げる木槌(きづち)の重い音と、その判決文だけだった。


 だが、たとえ弁明の機会が与えられたとしても、俺の言葉は誰にも信じてもらえなかっただろう。(なに)せ俺を訴えたのは魔王を討伐したメアシス勇者隊の魔法使いリーネだ。今や彼女はこの国で一番(ほま)れ高い魔法使いとなっていることだろう。

 それにしっかりとした反論ができる気もしなかった。反論するには、体力も気力も到底(とうてい)足りなかった。

 


「おい! 来たぞ! 門を開けろ」


 城門がギギギと(きし)む音を立てて開く。そして、そこを一台の馬車が通過する。黒色のベールで覆われた馬車は誰にも見送られることもなく、人知れず城外へと進んでいく。


「……確かブレイドとか言いましたっけ??」


 城壁の上にいた兵士の一人が馬車を見ながら言う。


「おい、その名前は出すなって言われてるだろ?」

「さーせん。……でも、魔族との密通は死刑のはずっすよね。なんでアイツは国外追放で済んだんすかね?」

「国外追放と言えど、永世国外追放だ。死んだも同然さ。それに地下牢で一年も過ごしたんだ。少しは()りただろ」


 永世国外追放は死刑に次ぐ重刑(じゅうけい)だ。王国への入国が永遠に禁止される上、国籍も剥奪(はくだつ)される。国家を(おびや)かした国事犯(こくじはん)にのみ適用される特殊刑。

 

「まあ、奴が内通してたっていう魔族も、統率者の魔王がいないんじゃあ、そこまで脅威にはならないっすかね。でも、アイツ、今後苦労するっすよね」

「ああ。どの道、野垂(のた)れ死んじまうだろうな」

 

 永世国外追放は死罪より軽いとされているが、実態は残酷だ。馬車で人里離れた森の奥深くへと連れて行かれ、金も食料も持たない状態で放置される。森を彷徨(さまよ)い、数日の内に野垂れ死ぬ者が大半であるという。 

 罪人は皆、葬式で出棺(しゅっかん)の際に用いられる『黒馬車』と呼ばれる黒いベールで覆われた馬車に乗せられることも相まって、この処罰は兵士や獄吏(ごくり)の間では『死出の旅路(たびじ)』とも呼ばれている。


「すぐに殺すのではなく、じっくりと……。それこそがあのお方の望みなのです」


 背後から声が聞こえ、兵士たちは驚いて(やり)を構える。しかしその姿を見ると、一転、槍を立て敬礼する。


「はっ! これはリーネ様。こんな所まで態々(わざわざ)いらしていたのですか!?」

「ええ。大罪人とは言え、かつて共に戦った『仲間』です。『仲間』からあのような裏切り者を出してしまった責任を最後まで果たす義務がありますから」

「ところで、さっき言ってた『あのお方』って誰っすか? 国王陛下(こくおうへいか)のことっすか?」


 (ほま)(だか)き宮廷魔法省の衣装を身に(まと)った魔法使いは兵士の質問に笑みを浮かべる。

 

「……ええ。もちろん、その通りですわ。ふふっ……じっくりと、追い詰める。それをお望みなのです」


 

$ ◆


 

「他に討伐系の依頼はないんですか!?」

「はい……。近頃、討伐系の依頼が激減しておりまして……。お言葉ですが、ブレイドさん、もう別の職業を探したほうが良いかもしれませんよ。最近は冒険者やハンターから転職される方も多いんですよ?」


 冒険者ギルドの受付嬢(うけつけじょう)(さと)すように言ってきた。


「いや、俺、国籍がないんですけど……」

「あ……」


 受付嬢は気まずそうな表情を浮かべる。この人には前にも言ってるはずなんだけどな……


「何でもいいんです! 何か、他に戦闘系とかパワー系とかの依頼はないですか?」

「そうですね…………。現時点で出ている中ですと……城塞(じょうさい)都市デレツィアに百キロのリンゴを届けるという依頼があります。報酬は銀貨三枚です」

「あ! そ、それでいいです!!」


 永世国外追放を言い渡され、王国と西方諸国の間にある森林地帯に一人放置された俺は、ひたすらに森を彷徨(さまよ)った。

 剣なども全て没収され、金も食料もないものだから、一時はどうなるかと思ったが、山道を彷徨っている途中で奇跡的にナイフを見つけることができた。もう何年も前に誰かが落したものらしく、酷く()び、()もなかったが、刃先を石で()ぎ、木の枝に刃先を装着して何とか使えるまでに至れた。

 初めはこんな"剣もどき"のようなものでも、しっかりとした炎魔法が使えるか心配だったが、使ってみると案外いけるもので、少しイメージの構築に手こずったが、何とか炎魔法を使うことに成功し、狩りや時折(ときおり)出没する魔物への攻撃に使った。


 そうして二週間ほど彷徨って、何とか森を出ることができたが、そこからもまた地獄だった。職がないのだ。

 どの街や村に言っても、職につくには、国籍と住所が必須(ひっす)だと言われ、門前払いされた。そりゃそうだ。どこの馬の骨かも分からない奴なんか(やと)いたくない。

 自分で(あきな)いを始めようかとも考えたが、資金がないし、そもそも商人や職人としてやっていくには、ギルドへの登録が必要で、その登録にだって、結局国籍と住所が必要だった。

 そんなこんなで、その後も数ヶ月は()えとの戦いで森の植物を()ったり、動物を狩ったりする狩猟採集(しゅりょうさいしゅう)の生活が続いた。

 

 だが、そんな状態で西方諸国のバレンツという街に放浪(ほうろう)した際、冒険者ギルドというものの存在に気づいた。西方諸国の冒険者ギルドは日雇い労働がほとんどで、失業者や浮浪者(ふろうしゃ)の受け皿となっている一面があることから、国籍や住所がなくても、仕事を受け、報酬を貰うことができた。

 そうして、俺はすがるように西方諸国の冒険者ギルドに入って、自分の得意とする魔物討伐依頼を細々と続けながら、冒険者として食いつないだ。

 

 しかし、メアシスたちが魔王を倒してから一年ほどはよかったものの、次第に魔族や魔物の行動は沈静化(ちんせいか)し、村や町に出没することも少なくなった。それに(ともな)い冒険者ギルドの依頼のほとんどを()めていた討伐系依頼は激減し、冒険者の中からは転職する者も多く出た。 

 それからさらに数年が経過した現在では、週に数回、魔物討伐依頼が出る程度で、それも冒険者たちの中で取り合いとなり、月に三回受けることができれば、運が良いという有様(ありさま)だ。

 俺も宿を借りるのではなく、テント住みにすることで費用を浮かし、食費や生活必需品に充てるなど工夫を()らして何とか生きている。


「では、こちらが依頼品となりますので、お届けください。ご依頼主は城塞(じょうさい)都市デレツィアの西三番通り十六のイゼルダさんです」

「わかりました。って……」


 見ると、膨大な量のリンゴがボロボロの巨大な木箱十数箱に詰め込まれている。百キロだから最悪、背負えるかとも思っていたが、これは……無理だ。


「あの……荷車(にぐるま)は?」

「ありません☆」


 ギルドの受付嬢はニコリと笑みを浮かべ、爽快(そうかい)に答えを返した。


 結局、荷車を銅貨十枚で借りて、運ぶことになった。銅貨四十枚で銀貨一枚だから、実質、この依頼での収入は銀貨二. 九一枚ということになった。

 こんなの、手で持っていけるわけないんだから、荷車くらい用意してくれてもいいのに……。


 まあ、それでも通常の輸送任務よりは高いよな……うん。距離と重さを考えなければ高い。いや、それは最早(もはや)高いと言えないな。だが、冒険者ギルドの依頼が全般的に少なくなってきているこの時世(じせい)だ。(かせ)げるなら、稼がないと。


 あとは荷車をひいて、目的地へ向かうだけだ。もちろん、経費削減のために人力だ。だが、魔剣士ということが(さいわ)いして、この手のパワー系の任務は得意だ。体力だけには自信がある。


 目的地は西方諸国北部に位置する城塞都市デレツィアだ。

 城塞都市デレツィアは都市国家デレツィアの首都で、世界最大の城塞都市として名高(なだか)く、城塞内を横断するのにも数日かかると言われている。ここからの距離は、徒歩で三日というところだ。


「よしっ。行くか」


 そうして、俺はガタガタと荷車を走らせながら、冒険者ギルドのあるバレンツから城塞都市デレツィアへと向かった。

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