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第18話 武器屋の姉妹

 ヴェルたちの拠点で生活を始めてから、一週間ほどが経った。


「なあ、本当にいいのか?」

「ええ。それにキミはもう私たちの隊の一員なんだから、しっかりと戦えるようになってもらわないと困るもの」


 ヴェルは俺の腰にある剣を見る。デレツィアで酷使したから、金属の疲労は色濃く、剣先はボロボロになってしまっている。


「でも金が……」

「もう、お金の心配ばっかり……。今回行く場所は武器屋と言っても、普通の武器屋じゃないから、安心して」

 

 ミュントハウゼンの街並みはデレツィアとはまた違った雰囲気だ。道が自動車用に整備されている点は同じだが、平屋か二階建ての低い建物が多く、その建物も色とりどりの漆喰で塗り分けられていて、通りを彩っている。デレツィアよりも閉鎖感が少ない。

 

「ここよ」


 二階建ての建物の前で、ヴェルは足を止めた。薄い黄色の漆喰壁。入口の両側に設けられた大きなショーウィンドウには剣や斧、槍など様々な武器が陳列されている。


「普通の武器屋に見えるけど……」

「まあ、中に入ってみればわかるわ」


 ヴェルに続いて中へと入る。ドアベルの軽やかな音が心地よく響く。


「いらっしゃーい……って、ヴェルじゃん! 帰ってきてたんだ!」


 店のカウンターにいた淡い青髪の少女がヴェルの姿を見るやいなや、声を弾ませた。


「久しぶり。ついこの間帰ったの」


 しかし、青髪の少女の目はすぐに、こちらへと向けられた。橙色の双眸がじーっとこちらを見る。好奇の目か、はたまた奇異の目か。

 

「ヴェルねえちゃんが男の人連れてるー!」


 その時、店の奥から、小さな女の子が出てきた。透き通るような青髪と首から下げた青い宝石のペンダントが印象的だ。顔つきはどことなく青髪の少女に似ている。明るく無邪気な声が店内に響く。

 

「へえ? あんたがねえ……珍しいじゃない? ねね、どこでゲットしてきのよ?」

「はあ!? べ、別にそんなんじゃないから! こ、か、彼は今回の目標ターゲットのブレイドよ!」


 それを聞くやいなや、青髪の少女は肩をすくめる。


「なーんだ。出会いの少なそうな親友に遂に男ができたと思って、嬉しく思ったあたしの気持ち返してよ」

「し、知らないわよ! 勝手な想像しないでっ」


 顔を真赤にして声を張るヴェルをよそに、小さい体がテクテクと歩みを進め、俺の前までやってきた。


「ヴェル姉ちゃんをよろしくね!」

「ちょ、ちょっと! ブルージュも! そういうのじゃないから!」


 ヴェルは慌てて否定する。俺達がそんな仲じゃないことは自明の事実だが、そこまで必死にされると、どこか傷つく気がする。

 

「んで、ブレイド……だっけ。あたしはエレナ。この武器屋の店主だよ。よろしくね」

「ブレイド・ライデンシャフトだ。よろしく、エレナ」

 

 再びエレナを見る。青髪に橙色の目をした至って普通の少女で、歳も俺より少し下くらいといった所だろうか。

 

「んで、そっちは妹のブルージュ」


 エレナは俺の足元にいた少女に目を遣る。なるほど、鮮やかな青髪に、黄系統の目――どおりで似ているわけだ。


「ブレイド兄ちゃん、抱っこー!」

「ごめんねー。その子、人なつっこくてさ。特に新しい人が来ると、珍しがって寄ってっちゃうんだよね」

「大丈夫だ。むしろ、興味を持ってもらえて嬉しいよ。それっ」


 俺はブルージュをそのまま両手で抱えた。


「たかーい! お姉ちゃんより高いよ!」

「当たり前でしょ? ブレイドは男子なんだから」

「でも、お姉ちゃんは、ヴェル姉ちゃんよりも低いよ?」

「なっ……。背が低くて、悪かったね!」


 エレナはふんっとそっぽを向いてしまう。確かに背は俺達の中では一番低く、ヴェルの口元くらいだ。別に気にすることでもないが、妹にそんなことを言われると、姉としての尊厳が傷つくのだろう。


 しかし、店内といい、この姉妹といい、とりわけ特別な印象はない。仲の良い姉妹が営む何の変哲もない小さな武器屋だ。中に入れば分かると言われたが、今のところ、店主がゴツいオッサンじゃないところ以外、とりわけ変わった点は見当たらない。


「あ! 剣だ!」


 抱えていたブルージュが、俺の腰から下げられている剣を指差す。エレナもその言葉に反応して、こちらに目を遣る。


「なるほどね……。じゃあ、今日はそういう話?」 


 剣に目を留めたエレナは何かを察したように口を開いた。ヴェルはその言葉に、小さく首肯する。

 すると、ふうっとため息をつきながら、エレナは頭をカリカリとかいた。そして、胸ポケットから一枚の紙切れを取り出した。おそらく、十ディゼル(DZ)紙幣だ。この国では金銀貨の代わりに紙や銅の『ディゼル(DZ)』という貨幣が使われている。

 

「よーし、ブルージュ! 今日はお姉ちゃんのこのお金を使って、好きなお菓子を買ってくるんだ!」


 エレナは、その小さな少女に紙幣を差し出す。

  

「え!? いいの? やったー!」


 ブルージュは喜びの声を上げながら、紙幣を受け取り、颯爽と店の外へと出ていった。


「あとは……」


 エレナはカウンターの後ろの壁に取り付けてあったレバーを引いた。すると、歯車が動くような音と共に、ショーウィンドウにシャッターが締り、射し込んでいた陽の光が遮断された。


「これでよしっと」

「お、おい! 妹さんは大丈夫なのか?」

「うん。買って帰ってくるまで三十分くらい掛かるし、それまでには難しい話も終わるでしょ? あの子はまだ小さいからね。そういう話はちょっと……」

 

 ショーウィンドウは完全に遮断され、扉の窓も鉄板で塞がれている。確かにこれはヴェルの言う通り、普通の武器屋ではなさそうだ。

 

「でも、途中で帰ってきたら、入って来られないんじゃないか?」

「それは大丈夫。裏口が開いてるから。ブルージュには、いつもそこから入ってくるよう言っているんだ」


 エレナはそう言ってカウンターの奥の通路を指差した。

 

「エレナも情報局の職員よ。ここは、表向きは武器屋だけど、裏では情報局の武器を修理・製造する拠点になっているの」  

「んで? 今日はどうせそっちの彼の剣についての話なんでしょ?」


 ヴェルはデレツィアで俺の剣がボロボロになってしまったこと、俺が情報局に入ったことをエレナに話した。


「なるほどね。炎魔法を使うなら……あれかな……」


 エレナはカウンターに置いてあったランプのダイヤルを回した。すると剣が掛けられていた壁がぐるりと回り、表裏が逆転した。

 一体何なんだ……この店は。

仲のいい姉妹の営む武器屋。一見普通に見えるけど……


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