第17話 真実への道
データを保存していた端末が壊れたため、投稿が遅れました。すいません……
イチゴタルトを美味しそうに頬張るグーランを横目に、これまで聞いたことについて、色々と思案を巡らす。
・どうしてエーテルは魔法を打ち消せるのか?
・そもそも何の力なのか?
・身体への負担が少ないのはなぜか?
多くの疑問が頭に渦巻く。分からないことだらけで、一体どうすれば良いのやら……。
――が、その時、一つの疑問がパッと頭に浮かんだ。
「……でも、俺が戦った奴は、エーテルを使ってたんだろ? 何で一発で倒せたんだ?」
「そ、それよ! 今度はこっちから質問させてもらうわ。ブレイド、あの炎魔法はどこで習ったの?」
ヴェルは思い出したかのように、顔を上げ、その青色の目をこちらに向けた。
「確かに、その点は気になるな……使ったのは本当に魔法か? エーテルじゃないのか?」
「そんな訳ないだろ。こっちは、エーテルって言葉もヴェルから言われて初めて知ったんだ」
「……じゃあ、魔法にカラクリがあるのか……? ……魔法はどこで習得した?」
グーランはブツブツ独り言を呟いた後、顔を上げて探るような眼差しで問いかけた。
「俺は炎魔法も剣術も全部、師匠に習った。剣聖アレクシスって聞いたことないか?」
「剣聖アレクシス……聞いたことはあるな。……魔族や魔物を狩りながら諸国を周り、人々から『剣聖』と呼ばれていたって」
グーランが思い出すように述べる。
エーテルのことにしろ、師匠のことにしろ、彼女は本当に色んなことを知っている。博学なのは本当のようだ。
「ああ。そうだ。その人だ」
「でも、剣聖アレクシスとエーテル……関係があるようには思えないな……」
「じゃあ分からない。俺の力は全部あの人譲りだ。逆にどうして倒せたのか俺が聞きたいくらいだ」
「まあ、本人が分からないなら、どうしようもないわね……」
「アレクシスに聞いてみるのはどうだ? 流石に何か知ってるだろ」
「師匠は俺が十六の時にいなくなったんだ」
「いなくなった? 行方不明ってことか?」
「まあ、そういうことになるけど、よく何の知らせもなく、いなくなることはあったし、気分屋で能天気な人だから、心配することはないと思う」
「な、何だそれ……」
「たぶん、俺が一人で暮らせるほどに成長したから、俺の前から去ったんじゃないのかって思ってるよ」
「テキトーな『剣聖』だな……」
その時。
ガチャリ、と玄関の扉が開く音がした。メイゲンさんが帰ってきたのだろう。
「お待たせ致しました。上層部への報告に少し手間取っておりました」
「大尉、お疲れ様」
「もう、イチゴタルト残ってないぞー」
「問題ありません。歳を取ってからは、どうも甘い物が苦手になってしまったものですので」
メイゲンさんはそう言って微笑むと、革鞄の中から書類を取り出して、ヴェルへと手渡した。
「何か問題が?」
「いえ、今回の任務は色々ありましたが、ブレイド様のご協力もあり、無事遂行できました。ですが、一つ――」
「えぇっ!?」
ヴェルのうわずった声が、メイゲンさんの言葉を掻き消した。
「ちょ、ど、これってどういうッ……」
ヴェルは書類を持ったまま、唖然としている。その蒼く澄んだ目はパチパチと動き、開かれた口元は小刻みに震えている。
「ディアナ様に今回のブレイド様のご活躍を報告したところ、情報を聞き出して後、第八に入れてはどうかとの打診をいただきました」
また知らない用語が出てきた。
「アハト?」
「第八は我々、" 第八偵察隊"のことです。すなわち、この隊の一員にブレイド様を招くというお話です」
なるほど。ヴェル、メイゲンさん、グーランのチームということか。あれ? ということは……。
「それって、俺も情報局に入るってことですか!?」
「左様です。しかし、ブレイド様としても、勇者メアシス様について少なからず気になる部分があるのでしたら、悪い話ではないかと思います。勿論、冒険者と異なり、正規雇用となりますので、給料は月給制となりますよ」
予想だにしない提案に困惑する俺をよそに、メイゲンさんは淡々と、しかし極めて現実的な条件を並べてきた。
「俺、住所も国籍もないんですが……」
「いえいえ。国籍は作ればいいですし、住所はその内決まります。それにそちらの方があまり表立って活動しない情報局としても都合が良いのです」
なるほど。素性の知れていない人間の方が秘密裏に活動するのには適しているということか。もっとも俺の場合はその存在が消されているに等しいが。
国籍は……偽造するということか。まあ、でも政府公認の組織なら、それも容易いことにだろう。
「ちょ、ちょっと、勝手に話を進めないで! ブレイドは保護しろとの命令だったのよ!? どんな報告をしたら、そういう話になるの!?」
「ヴェル様。第八は現在、ヴェル様とグーラン、そして私の三人しかおりません。そして私とグーランはあくまで後方支援を担当しております」
ヴェルは膝に乗せた拳を強く握る。
「今はヴェル様お一人で活動されておりますが、今後もエーテルについて調査されるとなれば、やはりお一人はあまりに危険です」
「それはっ……」
「それに、ブレイド様が今の第八にとって如何に必要なのかは、ヴェル様ご自身が一番良くわかっているはずです」
メイゲンさんの声が低くなる。その諭すような口ぶりは穏やかだが、長く生きた人間の言葉特有の重みがあった。ヴェルは俯いてしばらく考え込んだ後、再び顔を上げた。
「……そうね。それに上の命令なら仕方ないわ……。ブレイドが了承するなら、それに従うことにするわ」
「ブレイド様はいかがでしょうか?」
メイゲンさんはクルッと俺の方を向く。
いきなりと言われると、躊躇ってしまいそうだが、俺の答えは既に決まっていた。
「許されるなら、お願いしたいです」
情報局がどんな所なのかは未だに良く分からないし、そこからメアシスに辿り着ける保証もない。
だが、このまま何も知らず、何も変えられない無力な冒険者として生きていくことなど、今の俺には考えられなかった。
変わり果てたメアシス、その背後に見え隠れするエーテルという不気味な影。もうここまで来てしまったのだ。その真実に辿り着ける可能性が少しでもあるのなら、どんな代償を支払うことになっても構わない。泥を啜ってでも、この目で真実を確かめたいという衝動が、俺の胸には込み上げていた。
「それは良かったです。では手続きの方は私の方で済ませておきますので、ご安心ください」
メイゲンさんは笑みを浮かべて、ぺこりと頭を下げた。
いきなり共和国のエージェントになってしまったブレイド。果たして彼は勇者メアシスの真実までたどり着けるのでしょうか。
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